[ちゃぷん、と小さな水音が響く。
音の源は足元のたらい。
一杯に張った水に足を浸して一休み]
……ぅぁっちぃねぇ……。
まあ、それでこそではあるが……。
[ぱたぱた、手にした団扇で風を起こす。
そんな風に一休みできるのも、今の内だけ。
休憩が終われば、町内の夏祭り関係の経理事務との戦いが待っている。
それでも今は、と。
酒屋の若旦那は、麦茶片手にささやかな涼を貪る事に専心する。**]
[ぱしゃん、と音を立てて足をたらいから引き上げる。
跳ねる飛沫に目を細めつつ、傍らに置いた手拭で足を拭いて、下駄を突っかけた]
さーてと。
[手拭は畳んで懐にいれ、帯にはスマホと財布を挟んで]
ちょいと、情報収集いってくるわー。
[羽織を肩に引っ掛けつつ、奥に向かって声をかける]
[ちなみに情報収集=子供たちのたまり場である駄菓子屋に行く、である。
一応は、夏祭りの出店に何を出すかのリサーチも兼ねているのだが。
わりと真剣に、子供と遊んでいる姿はしょっちゅう目撃されていた]
「て、ちょっと、若ーっ!?」
なーんかあったら、メールしろー。
[後ろからの呼びかけもどこ吹く風と受け流し。
からころり、下駄を鳴らして歩き出す。*]
[からんころん、と下駄が鳴る。
如何なる時も和装で通す酒屋の若旦那は、近所ではちょっとした名物扱いだ]
お、朝顔。
[賑やかな歩みがふと、止まる。
視線の先には色とりどり、揺れる朝顔の鉢植えが並んでいる]
今年も見事に咲いたねぇ……祭りに出すの?
[朝顔を世話する花屋の主人に声をかけ、交わすのは世間話。
内容が、祭りのそれへと偏るのは今は已む無しか]
ウチ?
あー、これから相談するとこ。
奉納のあれこれもあるしねぇ。
[酒屋はどうするのか、という問いに軽く返してけらりと笑う]
取りあえずは、祭りの賑やかしの意見も取り入れんとねぇ。
予算だけ気にして安いもん並べりゃいいってもんじゃあないし。
[数を捌くために質を落とすのはやりたくない、と。
そんな矜持をさらりと語ってから、花屋の前を離れて歩き出し]
……はい?
[目の前をてんてん、てんてん、と過っていったもの──直立二足歩行をしている真白の兎の姿に。
思わず、呆けた声を上げて瞬いた]
……あっれー?
俺、疲れてる?
[呆けている間に、白の影は消えて。
店の者が聞いたら、んなわけない、と総突っ込みが入りそうな呟きが、口からもれた。*]
[首を傾げていたのは短い時間。
からころり、下駄を鳴らして歩いて行く。
目指すのは、子供たちの集まる場所で]
おー、今日も賑やか、善哉々々、ってか。
[児童公園の賑わいに目を細め、ふらりとそちらに歩みを向ける]
よーっす、今日も元気だなあ。
あ、デュエル? わりぃ、デッキ持ってきとらんかったわ。
[下駄の音に気付いて駆け寄って来た子供らに、カードゲームの対戦を挑まれ苦笑い。
元々、事務仕事前の息抜きも兼ねたそぞろ歩き、遊び道具の準備は忘れていた]
おう、この時期は冷酒もいいもんだよー。
お勧めけっこーあるから、気が向いたら店覗いてなー。
[さらっと客引き交えて返し]
はっはっは、さすがに夏神さん家が夏本番にへたっちまったら、サマにならんだろ?
……ま、当代はちょいと置いとくが。
[当代店主である父が暑さに弱く、この時期は次代に諸々丸投げているのは知られた話。
それでいて、当の次代はこうなのだから、従業員の苦労は推して知るべしか]
あー、祭りはいいんだけど、予算が、ってそっちで渋るんよ。
毎年苦労してんのよ、次世代は。
[冗談めかした口調で言うものの、わりとここらはシビアな世界で。
活性化の必要経費、と主張する次世代と保守的世代の攻防は、熾烈なものとなっている……らしい。
最終的には、お祭り好きが勢いで押しきるのだが]
いやいや、来た人が楽しめるようじゃないと、仕掛ける側も楽しくないからねぇ。
[楽しみ、という言葉>>40ににこりと笑い、一通り、リクエストを書きつけていく]
おう、んじゃ、楽しみにしてるよー。
[浴衣への是の返事にも楽し気に笑んで。
一通り、リサーチを終えると、スマホをまた帯に挟み込んだ]
さぁてぇ……そろそろ戻らんと、さすがにまずいな。
[帯に挟む前、ちら、と見やった時計の表示にそんな事を呟いて、腕を上に上げて身体を伸ばす]
んーじゃあ、俺、店戻るわ。
ぼちぼち手ぇつけんとまずい仕事が待ってるんでな。
[腕を下ろしつつ、軽い口調でそう告げて。
子供たちにも、今度はデッキ持ってくるからなー、なんて呼びかけてから、またからころり。
下駄を鳴らして歩き出す。*]