[珈琲を隠していたのは、自分も同じ。
彼を見ているつもりだったけれど、その奥にみていたのは、]
わたしも。
彼じゃ、ダメだったのよ、ね。
[忘れることの出来ない、ひと。
その影を、彼の向こうにみていたから。
本当は、わかっていたのだ。
お互いに、最初から。
それを互いに隠しあって、見えないように、見ないように、蓋をして。
偽りの、いつか壊れるひと時の幸せを、演じてきた。
でもそれは、悪いことだったのだろうか]
[少なく見積もっても、不幸な時ではなかった。
自分に限った話でいえば、あの、二人で過ごした時間は、幸せだった。
遅かれ早かれ、ミルクの泡のように消えてしまうものであったとしても。
こうして今、カフェモカを飲むには、必要な時間だった。
すこし冷めたカップに口をつける。
ミルクの泡は、黒を縁取るように、ほんのすこし残っていた]
あー、うん、
今日のカフェモカ、美味しいなって。
それって幸せなことだなって。
そういう、お話よ。
[ほとんど冷めたカフェモカ。
ミルクで柔らかくなった茶色に目を細めて。
吐き出したもやもやのあったところに、
ほんわりと注ぎこんだ]