[二枚重ねて具の挟んであるきつね色のトーストは、三角に切り分けられて白い皿にのっかっている。]
……旨い。
[一口かじれば、バターの香りとトマトの甘みとベーコンの塩味と。]
旨いってしか感じなかったから、駄目だったのかね……。
[脳裏をよぎるのは、困ったような笑顔の懐かしい女性の姿で。]
──あ、ここの
[愛想のないウエイトレスに顔立ち自体は似ている事に、今初めて気づいた。]
『よくなったら、今度こそ好き嫌い治さなくっちゃ。ガモンちゃん、お野菜をおいしく食べられる料理、沢山教えてね』
[昨日、病室で交わした会話がよみがえる。
少し年上のその女性は、やつれた顔にそれでも笑みを浮かべていた。]
『ああ、のんびり治せよな。その間に、山ほど旨いもんのレシピを考えといてやらあ』
[ずっとずっと昔から、何度も繰り返してきた会話。
何故か野菜が嫌いな彼女と、料理人になりたかった自分と。]
[料理人になって、自分の店も持って。
でも、彼女の口に合う野菜料理はついぞ作れないまま、月日は流れ。]
従姉ちゃんが退院してくるまでに、色々考えとかなきゃな……。
[来年の春まで保つかどうかも危ない、そう医師から告げられていたけれど。
本人もそれは知っているはずだけれど。]