次はとめてやりなよ 人間よ。
次は背いてやりなよ 狛犬よ。
おもしろおかしいばかりに続けさせると、
おきつねさまでもにんげんですらもない
[月明かりに照らしだされる村の神社。]
[時は動いても、昔から変わらない。
お堂の脇には左右一対石造りの台座。
右の台座には狛犬が実に忠実に鎮座して、
左の台座には――なんにも*いないのさ*]
[三叉路に何かを祀る祠には、人々の姿。
同じ夏に狐雲をまぶしく見上げた人々の。]
ああ、よかった。
間に合った。
[祭りの日に人ごみで見かけた少女へと
歩み寄る弁士が、視線合わせて屈みこむ。]
探しにきましたよ。
[ロッカの頬を両手で包み込みながら、
傍らにいるグリタを一度、見上げる。]
それから、――
お見送りは、ちゃんとしようと思って。
家にも、村にも、誰のもとへも
もう、帰れません。
[端的にも伝えるのは、ひとの心が
恐れと輪廻で壊れてしまわぬように。]
だけど行きつくことはできるので…
どうぞ、先へいらしてくださいな。
[道を定めてもちもち歩き出すネギヤ、
やがて後からかみかくされてくる若旦那、
一人ひとりの背を見送って――
雛市 トキは、虚空の端をべろりと捲り。
暗幕のなかへ戻る態でかき消えた。**]
そろそろ始まってそうだな。
[診察室の椅子から立ち上がって背伸びを一つ。そこそこ空腹であるので、夜店のハシゴも大丈夫であろう。]
さて、と。
[30年ほど前までここにいた大叔父の頃から使われていた古ぼけた鞄を手に、神社へ向かう。。]
[遠くで犬の鳴く声が聞こえる。いつの間にか村にいた、赤毛の少年のところのポチか。]
そういえば、昔大叔父さんに、不思議な話を聴いたなあ。
[この村に大叔父を訪ねた若い頃、酒を酌み交わしながらの昔語り。
酔ってしまっていて、話の大半は忘却の彼方なのだが。]
──おお、やっとるやっとる。
[老いも若きも集う境内、]
[甘い香りにソースの香り、見回せば、プラスチックの風車にお面。]
おいおいデンゴよ、あんまり食い過ぎちゃいかんぞ。
[袖無しシャツ姿の悪童が脇を走り抜けるのに声をかける。]
──そうだ。
[ふと思い立って、本殿の方へ足を進める。]
偶にはお賽銭くらいあげてみるか。
[つつがなく祭りが終わりますように、と手を合わせてみたくなった*]
[探しに来た、という弁士の言葉にきょとんとなるも
次に「帰れない」と言われて]
えっ……
[どこに行くのか分からないまま、歩き出す。
行き着く先はどこだったか……]