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それでも祭りは続くんだね。
[タクシーから降りると、暑さに眩しそうに目を細めた。
今年はヒット曲も出た所為か、夏祭りのポスターまで作られ名前を売り出されていた。
呼ばれるのは有り難い。
しかし消えた人影の噂を聞くと心中は複雑だ。]
…そうか。
今年もお祭りは、変わらずやるのか。
アンに続いてケン君まで、いなくなったっていうのに─…
ううん、ごめん。引率が嫌って訳じゃないんだ。
それじゃ、行こうか皆。
今年はどんな屋台が出ているかな。
去年売っていたクッキー、美味しかったよね。**
[簡易テントで一席準備された控室に荷物を置くと。
マネージャーが汗拭きながら出番までの説明を行う。]
酒まんじゅう、食べたいな。
[去年誰からかおすそ分けされたあの味を思い出す。
「神様」の訪れには、まだ*早い*]
[1歳に満たない娘を抱きかかえ、ゆっくりとした足取りで境内を歩く。
軽く身体が上下に揺れるのは子をあやすが故]
…貴女のことも引率して欲しかったのにね。
[その頃には代替わりしていただろうけれど、去年の会話を思い出してそんなことを呟いた。
去年は2人、神隠しに遭ってしまった。
神隠しなんて起きないと良いね、なんて話をした次の日のこと。
頼りがいのある青年と、毎年屋台を出していた女性が忽然と姿を消した]
[また夏がやってきた。
アンが消えてから二年、まだ彼女は帰ってきていない。そして、帰ってこないのは、彼女ばかりではない。ロッカ。ケン。去年の祭の日、やはり知った姿がまた、それも二つ、消え去った]
……、
[焼きそば屋の傍ら、ソースのいい匂いがする場所に佇んで。青年は今年も写真を撮っていた。去年までと異なるのは、着ているのが学生服ではなく、市販のワイシャツとズボンだという事。
かしゃり、かしゃり。音が響く]
だから! お前らもう子供じゃないだろ!
[一年一年。子供の成長は早い。
端的にいえば、賢くなる、いろんな意味で]
下手になったとかいうな! ちょっとやり方忘れただけ……止せ! 綿菓子一人一つとか駄目だ。
[去年の祭りの夜、自分が祠の方へと向かう姿を見たものがあったらしい。しばらくは、自分が摘んだのではないか、などと噂もあったがすぐに消え……今になっては、子供たちの遠慮ない買っての声に急かされる]
クッキーくらいで手を打て、こら!
[けれど今年、クッキーを売った娘はいない。
別のにぎわいを引率するマシロを見つければ、かすかな苦笑を浮かべざるを得ない]
まったく。
そんなに何を願うかね。
[そして、願いは叶っているのだろうか*]
いい感じですね。
[自分が直接メイクを施したわけではないが、掲示板に貼られた歌姫のポスターを見上げて二度三度と頷く。
子どもを連れて行くマシロの姿が見えた。クッキーの屋台が今年は見当たらない。
集会所で聞いた噂話。神様に隠されたのが誰であったのか、ようやく理解する]
[声をかけられて、カメラを下ろし、其方を振り向いた。見れば、焼きそばを手にした男が一人。前にも祭に来ていた、名前はなんというのか、化粧師の人だ、と考えつつ]
……
[問いには首を横に振り]
……趣味。
……村の…… シンヤっていいます。
[そう、短く挨拶した]
そう、あの子にもそんな噂が。
[一昨年は星の砂、去年はクッキーを売っていた姿が消えたと言う。
彼女も神隠しに遭ったのではないかと、耳にする。]
星の砂のお陰で…此処までこれたのにな。
[シャラリーー。
小さな小瓶を揺らす。
色砂に混じる幸せを呼ぶ砂が、小さく鳴いた*]
お願いしたいことがひとつあるんですが。
[袂から取り出した名刺をシンヤへ差し出す]
杜氏の方を見かけたら、酒まんじゅうの美味しい作り方を教えて貰えないかとお伝えください。
[半分残った焼きそばを手に、*集会所の方へ歩き出した*]
うん、そうだよ。
あのお姉さんが売ってたクッキー…って、一昨年は違ったのかい?
へぇ、星の砂…あぁ、待って待って。
そんなに走らなくてもお祭りは逃げやしないよ。
……あれ?
あそこだったよね?
店番、違うのは何でだろう。
ねぇ、おじさん。ここで売ってたあの人ってどうし──…え?
あの人が、ケン君と同じに、消えた人だったのか。
…ケン君もアンも、売り子のお姉さんも。
居なくなってしまった皆、どこにいるんだろう。
まさか、本当に神隠しに─…
あ…ううん、ごめん。大丈夫、痛くなんかないよ。
それよりほら、綿菓子が売ってる。
買ってみんなで分けようか。
それかほら、きっとモミジさんが赤ちゃん連れてきているから。
お面でも買って、持っていってあげてもいいね。
うん、解った。
それじゃ先に綿菓子買って、皆で食べよ─…
うん?─あ、本当だ。
ダンケ兄さん、こんばんは。
今年は僕が、引率をお願いされたんだ。
──…ケン君達、どこに行ってしまったんだろうね**
[ンガムラ。そう名乗られて、頷く。次の言葉には、ゆるりと一度首を横に振った。笑みはなくも視線を少し泳がせて、はにかむように]
? ……
[それから、お願い、と言い出されれば首を傾げ]
……
[受け取った名刺を見つつ、続けて頷いた。頼まれ事を頭の中で復唱し、杜氏、ダンケの姿を思い浮かべ。歩き出す姿を、見送った]
こんばんは。
マシロもなかなかどうして、堂に入っているよ。
[子供らから分けられた綿菓子――幸い割り箸付きを持ったまま、マシロに懐く子供らを見る]
そうだな。
ケンはしっかり者だから、みんなを心配させるような勝手はしないだろう。
[ゆるりとかぶりを振り、自分の手を見て、わずかな思案]
マシロは、あの言い伝えが本当だとして、願い事、あるか?
いや。
僕が慣れてない分、この子達が聞き分けてくれてるだけだよ。
…うん。
ケン君もアンも、皆に心配かけて平気な訳ないし…え?
僕の願い事、かい?
…いなくなってしまった皆を、戻して欲しい。
ケン君も、アンも、きっと屋台のお姉さんも。
自分でいなくなった訳じゃないだろうから。
……ねぇ、兄さん。
去年の祭りの晩、祠の裏に行ってたって本当?
本当なら、言い伝えの花の場所──…教えて貰えないか?**
[神輿の準備をしている場所で、モミジに向かって手を振る人物が居る]
あら。
カエデ、お父さんよ。
[左肘を持ち上げ、娘の顔が夫に向くように動した。
手を振る人物が父とはっきり認識しているのかは分からないが、娘は嬉しそうに手足をばたつかせている]
お父さん忙しいみたいだから、また後でね。
[モミジも手を振り返せば、夫はまた準備へと戻った。
腕の中の娘を宥めると、再びモミジは境内を歩き出す]
[瞬きを、ひとつ、ふたつ。
動き始めた口を一度とじ合わせると、かすかに頷いた]
わかった。
俺には見えないけれど、場所は、わかる。
案内するよ。
……引率が終わったら。
[職務放棄はできないし? と、首をかしげて笑う。
視線を向ける先は、綿菓子を頬張る子ら]
ねぇ、少し出掛けて来ても良い?
[出番を待つ身としては賑やかな屋台の雰囲気は魅力的なもので。
鼻腔を擽るソースの匂いに思わず立ち上がる。]
わかっているわ、青のりが気になるから、終わってから食べるし。
[マネージャーの声。背に受けて。]
夏の一夜に咲く花や
願い叶えし祭の夜
開く常世の参り道
招く御手は何処へと
[我が子をあやしながら口ずさむのは、最近書き始めた神隠しについての物語の一節。
世に出す作品と言うよりは、あった出来事を書き記した手記に近い]
祠の裏?
そんな話をしていたわね。
[嘯いて訪れるは祠の裏。
願いが叶う、一夜限りの花が咲くという。]
でも、その花は、特別な人にしか見えないのだろうかね。
[見渡す限りの刈られた雑草の、
すっきりした面影に。
噂に聞くかの花は見つけられず。]
そうと決まればやり残しなく、だな。
[首を巡らす。
ひとつの屋台に目をとめた]
酒まんじゅうひとつ。
……え、むっつ買ったらひとつサービス? それ、俺にもなのか?
[思わず同じ店名の刻まれた自分の着物ををみつつ]
ああ、いいよ。むっつで。あとで誰かにあげよう。
あれ、シンヤか?
……未成年に酒まんじゅうは、すすめてもいいものだったかな。
[焼きそば屋の傍らに見えたワイシャツ姿と、まんじゅうを見比べた*]
さすが作家さん。
[モミジの口から紡がれる、心地よいリズム]
ええ、御元気になったみたいなんですが、もう年だからひとりでは無理とボタンさんに言われまして。
また来年、お会いできたらいいですね。
[赤ん坊のやわらかい髪が風にそよぐ様を見て、小さく頷いた]
[出番との呼び名が掛かるのならば。
踵を返し、衣装を翻し舞台袖に立つ。
てのひらに収まる小さな夢の小瓶を握りしめたのなら、シャラリと音を立て。]
今年も皆さんとお会いできて嬉しいです。では聞いてください。
[今年も歌姫の伸びやかな声は、村に響く。
今夜の空に、*何処までも*]
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