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―― 学校内・廊下 ――
…――――
[あれ、何をしていたんだったっけ
辺りを見回すと、どうやらここは学校のよう]
…――――
[なんだか、寒い]
[ふと、校舎を見上げてみる
一瞬、何かがいた気がしたけれど
瞬きをしたら、消えてしまった
ひゅるりと、強い風が一度吹いて
この季節だと言うのに、少し寒い気がした]
マシロ、寒ないか?
そうな、夏やんな
寒いわけ、ないか
[気のせいかな、なんて思ったけれど
足元が冷たい気がする、とマシロが言うから]
…――――
あんま、遠く行くな
[なんとなく、そんな事を言った]
エッセンス、でええんかの
ばっか、寂しいわけやあるか
[別に、自分が一人になるのは怖くないけれど
目の届かない所に、誰かが行くのは不安
そんな、不思議な感覚がしていて]
あいあい、気を付けるわ
なんかあったら、守ったらないかんし
[じゃぁ行くか、と歩き出した]
恐怖を体験した男女が恋に落ちる
それは、恋やのうて、生存本能やん
[リウに、そう答えながら
セイジなら、なんとなくついてくるだろう
そんな風に思って、あまり気にしていない]
頭撫でて?よしよし?ガキか、俺は
[マシロに、ため息をついた
そう言うのは、高校生男子には難しい]
おう、期待しとけ
空いてんやったら、入ろうや
見つかると、叱られるやん
[雰囲気は、やはりあるけれど
入りたくないと言うのは、ダサいので仕方ない]
そうか、子供心は大事か
なら、子供心を大事にしてやな
いざという時は、マシロを盾にするか
[外れた回答をするマシロに、そう言った
いや、誰も盾にする気などないけれど]
うっさいわ
ガキなんて、そんなもんやろが
[校舎内に入ってみると、寒気が余計に増した
夜の学校なんて、こんなものなのだろうか]
…――――
[一瞬、強い寒気が体に走った]
[ここは、学校で
何をしていたんだったっけ
わからない、わからないけれど
ただ、寒い
ふと、視線を泳がせると
暖かそうなものが、学校に入って来た]
ああ…――――
[縋りつく、亡者の手は
暖かい体の中へと、潜り込んでいく]
あたたかい…――――
上靴、下駄箱か
靴脱いで、一端下駄箱までいこか
[リウの提案には、そう言っておいた
自分は、一応靴を脱いでおく]
さて、どうやって脅かしてやろうか
[気分を変えよう
寒気なんてものは、きっと気のせいなのだ
だから、悪戯でも考えた方がいい]
アップリケで戦うんか、花子さん
[マシロには、そんな事を言って
靴を脱ぐタカハルの肩を、ぽんぽん叩こうと
もし気付かれずに叩けたら、慌てて離れよう]
…――――
[またにゃぁって言ったぞ、こいつ
近くの教室に入って、閉じこもってしまった]
おーい、タカハル、でてきんさーい
[呼んでみた]
さぁ、なんだったんやろうな
[こらえきれずに、くすくすと笑いが漏れ
だけど、嫌な感じは自分も感じている事]
嫌な感じは、するけどな
まぁ、気にするなや
なんかあったら、マシロが守ってくれるわ
あいつ、お化けより怖いから
[変な事を吹きこんでおいた]
そうかそうか、怖かったか
[うりうり、頭を撫でようとした]
ん・・・怖いと思う事を、恥じんでいい
怖いと思うんは、自分を守ろうとする心
本当は、ずっと大事な心やからな
ただ、怖いと思うだけじゃ、何にもならんが
[マシロの話に乗っかる様子
面白くて、笑いが漏れた]
そうな、口喧嘩で勝ちそうやんな
出るよ、って言う幽霊なぁ
そう言うん、聞いた事ないけどな
おるかもしれんな、そんな奴
[いたらいたで、恐ろしそうであるが]
子供の頃は、皆怖がりやったはずやな
両親が居ないだけで、赤ん坊は泣くし
幼稚園児なんか、怖い話しただけで泣く
いつからか、目に見える世界を知る度に
目に見えない世界への恐怖は、薄らいでいく
そう言うもんや、タカハル
[ぽんぽんと、頭を叩こうとして
下駄箱に向かって歩き出す]
男の子やろ、いつかはきっと、な
もっとも、お化けだの、幽霊だのが
目に見える世界に、含まれてしまった時
薄らいでいた恐怖は、覚醒するやろうけど
[マシロが、何ね、と言うから]
あー、マシロちゃんが美人やから
タカハルが惚れそうやってさ
[そんなでたらめを、吹いておいた]
なんだぁ、タカハル
マシロが、美人じゃないと言いたいんか?
凄い度胸やな、お前
[けらけら、笑っていたけれど
口を滑らせるタカハルに]
おい、それを言ったらあかん
幽霊より恐ろしいぞ、マシロは
気合でなんとかなるもんを、人は恐れんよ
[下駄箱で、靴を履き替えながら
ほい、と靴を放りこんで]
まぁ、来年には入る教室やがな
[そんな事を言いながら、階段を昇る]
そらあれやろ、マシロ
お前が単に、体力が落ちとるんやろ
太ったんと違うん?
[ゆっくり、階段を昇る途中
13階段かもなんて、脅かすから]
13階段やったら、数えないかんかったな
別にええやん、太ったって
可愛いマシロちゃんは、気にせんやろ
[冗談交じりに、12段の階段を昇り終えて
再び、3年の教室を目指して歩く]
13階段の定番は、屋上に続く階段やけどな
まぁ、昇るのえらいし、後回し賛成
別に、独身50代やろうとええよ
女だけが人生やないわ
嫁が見つからんかったら、仕事頑張るし
ラスボス・・・な
まぁ、それもええ
[教室の前で立ち止まる、マシロ
ついてきている人間を、確認するようだ]
…―――
あれ、アンは?
んー…――――
[憑依した体に、馴染んでみれば
久々に感じる、体温の感覚
髪が揺れる感覚も、なつかしいし
息を吐くのも、久しぶりだ
そして…――――]
ん?
[憑依した体を、触ってみる
筋肉質の、男の体だ]
間違えた
[どうやら、女に乗り移るつもりだったらしい]
…――――
誰か、連れて行きたいの?
[もう一人の声の主に、そう反応した]
連れて行きたいなら、いいよ
どれにしよっか
[どれにしようかな、と数えている]
そう、だね
寂しいの、嫌だものね
[血肉を持たぬこの身なればこそ
孤独の恐怖は、まさに身にしみていて]
今日は、寂しい思いをしないように
二人、あちらに送ろうか
[ふむり、考えてみたけれど]
うん、女がよかった
この体、硬いし使いにくい
…――――
男は、便利じゃないもの
[相方に、そう不満を漏らしながら
それは、ヨシアキの肩に掴まっている
まるで、おぶさるように]
器、全部奪ったら
一人になった時に、寂しい
あれは、私の仲間ではない…―――
精神体は常に、孤独だもの
死と言う穢れを潜った先には
孤独と言う深淵しか、ありはしない
[自分と同じ存在だからと言って
わかりあえもしない、感じあえもしない
触れ合っても温もりを感じない
そんな存在などよりも]
声は伝わらなくたって
温もりは、貰える
人は、暖かいよ
セイジ…―――?
[アンは、トイレに行ったという
本当に、そうだったらよいけれど]
…―――
[教室に入った後も、なんだか落ち着かなくて]
ち…―――
[ゆっくりと、周りを見回している]
落とされたら、困るやろ
助ける方の身にもなって欲しいもんやね
[仕方なく、リウの近くに歩み寄る
何かあったら、捕まえられるようにと]
自分でない者と、深く繋がれば傷つくよ
心だけの存在であれば、尚更に
私は、温もりだけでいい
[自分では、そう思っているけれど
異性の霊が憑依すると、色々霊障が現れるのだ]
それに、話が出来ても
この体じゃ、やっぱり寂しいもの
私の体では、ないのだし
そら、助けますよ
なんかあったら、目覚めが悪いですやん
[窓をあけて、周りを覗きこむリウ
嫌な風が、外から流れ込んできている]
…――――
[何かあったら、掴もう]
んー…―――
窓を覗いた、部長さんじゃないかな?
たぶん、だけれど
私達は、誰を連れていく?
[じっと、周りを見ている]
ん、そうだね
シンヤか、ナオじゃないかな
器の感情は、関係ないけれど
あまり積極的でない人は、困る、かも
[連れ込むのも、楽ではないし]
どうする、私が連れ込む?
それとも、君…―――
あ、名前、なんだっけ?
実際は、もてませんけどね
なんや、嫌味かなんかかね
[はぁ、と息を吐いた
まずは、何も起こらなかったようだ
リウが移動するのに合わせて、移動する]
仁ね…――――
等しく降り注ぐ、優しさの名前
覚えたよ
私は、紅(くれない)
勿論、偽名
[本当の名は、魂の端
掴まれる事は、服従を意味してしまうから
本名は、普通は名乗らない]
もててたら、こんな時間にこんな所いません
彼女と遊びに行くわ、放課後くらい
[リウに、そう答えたけれど
マシロに気を取られて、ほんの少し
目を離した途端に、覗かれた次の窓]
…――――?
[振りむいた時には、リウが震えていて]
思い切りよくって、のぅ
なんかあったら、どうするん
心配は、かけたらあかんぞ
[リウの様子がおかしい
やはり、嫌な予感は間違いではなかった]
マシロ、さがれや
[リウの方に、ゆっくり歩み寄って]
[リウが、何かを叫んでいる
叫んでいるのに、窓から離れようとはしない
何か、絶対におかしい]
っち…―――
[リウに向かって、手を伸ばしたけれど
届くかどうかは、わからない]
大丈夫…―――
任せておいて
[ふぅ、と器に息を吐く
異性の体に宿った時の、代表的な霊障
異性から避けられるようになる、という物]
来ちゃ駄目って、おい
でも、リウ・・・先輩
[伸ばした手は、宙で止まる
頭では、伸ばしたいと思っている手が
これ以上、進まない]
な…――――
[触れられない]
…――――
情けないね
[そう、言ったけれど
笑ったりは、しなかった
ふわり、器の肩から離れて
仁の頬に、触れてみる]
ほら、男の器は不便でしょう
こういう事、男の器じゃ出来ないもの
やから、マシロ
お前は、さがれっちゆうたろうが
[来るな、と言う言葉を聞いた時から
体は、言う事を聞かなくなっている]
お前になんかあったら、困るやんけ
二人同時は、流石に無理やし、俺
人にとって、言葉は道具
魂にとって、言葉は契約
契約を、守れば
リウの魂は、あそこへ引き込まれていく
[ゆらり、器の肩に戻って
ふぅと、息を吐いた]
意味、あるよ
精神体であるからこそ
自分がなんであるか、と言う事に意味がある
自分の信じる、自分の姿が
精神体の、姿になるのだから
感謝するなら、目を見ていいなよ
[じぃーっと、仁の方を見てみる]
ちょ、リウっ
こっちに来いや、手伸ばせって
このままやったら、落ちるやんけ
[体は言う事を、聞かないけれど
手を伸ばそうとする事は、辞めずに]
落ちたら、困るやろ
謝る前に、頑張らんかい
じゃ、シンヤ君、連れていくね
男女二人なら、寂しくないよ、ね
[ふぅ、と息を吐くと
シンヤの後ろから、見えない手が伸びた]
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