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[かけた言葉は、教えた合図とあわせてなお
当人に悟らせる気すらない、情含みの皮肉。
眼鏡で鎧わない寝起きのニルスが吐いた皮肉は、
己の其れと較べれば、ひどく歪みなく美しくて
朴訥な男は、途方に暮れながら外へ向かった*。]
[――桟橋。
死したイルマを、迎えにいく。
広い湖もすっかり凍り、働き者だった娘を
引き上げるためには浸かった腰周りの氷を
棒で突いて割らなくてはならなかった。]
ヴァルプルギスの夜は、
蜂蜜酒がなくて困ったろうなあ。
間に合わなくてごめんよ イルマ…
[酒が呑めない酒屋の娘の骸は、
ドロテアの隣に横たえて埋めた*]
―― 炊事場 ――
[屋外から戻った養蜂家は、
広間へ顔を出さず炊事場で食事を取った。
簡素な丸椅子に腰掛けて背中を丸め、
イェンニがよそってくれたスープを啜る。]
[面々の中でも防寒面でもっとも恵まれた
衣服をつけているとは言え、幾度も外へ
出ては生乾きを繰り返していて体は冷える。]
…ありがと、うまいよ。
[あたたかい食事を用意してくれる
イェンニへつたなく感謝を伝えた。]
[すくない女手であるイルマの死で、
イェンニの負担は増すのだろう。
養蜂家は、彼女へ明日に生きてあれば
食事の仕度を手伝う旨を申し出る。]
…
しかし、みんなはやさしいな。
非常時だし、あの蛇はスープか何かに
なるものだと思ってたんだが。
[蜂除けのベールは、食事をするために
後ろへ捲られている。地味で幸薄そうな
男の面持ちに冗談の色合いはなかった。]
[――男は、膝に壷を抱いていた。
イェンニに渡したものより大きな、
蜂蜜酒<スィマ>を店へ卸すのと同じ甕壷。
発酵してるからあたたかいんだよ、と
男は言うものの触らせてみようとはしない。]
ホホイ。
呑み助のイェンニに渡したら、
あけちまうだろ。
[そんなことを言い個室へ戻っていった*。]
[己がどんな表情をしたか、
朴訥な男は覚えていない。
蛇がよくなければ、荷馬が弱った折に
つぶすくらいだなあと続けはしたが。]
[暖炉の火にあたりに行かないのは、]
マティアスのそばに、
いきたくないんだ。
…彼がひとりのときなら、別だけど。
[浅い理由を挙げる。別れ際だったから、
問い返されるいとまは互いに*なくて*]
[壷を枕元に置いて、外を見る。]
… 『独りは もう嫌』、か…
[年の半分を野外で過ごし、
残る半分を集落で暮らす男が 呟く*]
―― カーテンのない部屋 ――
[降りしきる雪の質は、
もう厳冬の其れと同じもの。
イルマの遺体を迎えに外へ出ていた
養蜂家の衣服は、乾いた粉雪を払って
落とせば濡れはさしたるものでなく。
重ねたタオルに包まって過ごせば、
窓から冷え込みの沁みる部屋でも
時折震える程度で座っていられた。]
[まだ雪質が湿って重かった過日。
振り返らずに、先を踏み固めて
あるいていった若き司書たる彼。
いささか素直すぎるとも感じながら
その背を見守って歩いた年嵩の男は、]
[――――ひとりの部屋で、過日と同じ、
荷馬をあやすときの声をちいさく立てる。]
ほうい ほうい
[ここにいるよ。][…ここにいる。]
[先ゆく若者は過日、ひとりではなかった。
いまは届かせる気のない声が、彼のために*]
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