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才能。……
[羨ましい、との言葉と共に発せられた単語には、ぽつりとそれを復唱し、言葉を継ぎはせず]
ええ。良かったら、いつでも。
部屋には沢山ありますから。
見に来て下さったら、嬉しいです。
[絵を見せて欲しいと言われれば、笑む様子はなくも、快諾する気配で頷き]
戦わなければ。
そうですね。消えないのなら。
消せも消えられもしないのなら……
どうしようもありません。
[ぎし、と、背凭れに体重を押しかける。
少女の惑いは認めど、さして言葉を重ねる事はなく。彼女と結城が話し出せば、その会話を傍らで聞いていて。去る少女を、やはり会釈と共に見送った]
( ああ、もうこんな時間なんだね…)
[いつの間に寝ていたのであろうか、一二三は窓の隙間から流れ込む寒気に目を覚ます。
先の歌声が心地良かったのだろう。またカーテン越しの陽の光もまた眠気を誘ったのだった。]
(ふふ…こうしてうたた寝をするだなんて、随分と久し振りだねぇ…)
[一二三の経営する会社は、所謂中堅どころ…といったものだった。従業員は全部で13名。全員が長く一二三の下で働いている。結婚していない彼女にとって、従業員は家族であり子供であった。]
(…皆、どうしているかねぇ…)
[少年からの返事があろうと無かろうと、彼女は気にせずに再び歩き出す。
もとより返事を期待しての行為ではない。
無意識に鼻歌をうたいながら、誰かに会うたび挨拶を繰り返す。
これが彼女の日課。
ふらりとやって来て、日が落ちてくれば帰ってゆくだけの日々。
当然仕事などしては居ない。
休業中という事になっているが、復帰の予定は今の所存在していない。
そんな娘の様子に親は、気がふれてしまったのだと、嘆き、悲しみ。
今ではすっかりとさじを投げられている。
だというのに、行動を改めないあたり、両親の懸念は事実なのかもしれない。]
ラウンジ
[ラウンジまで来た時、見つけたのは人形を抱いた老女の姿。
小さい頃あんなお人形を持っていたような記憶がある所為か、眼鏡の奥の目元が柔らかくなった。]
こんにちは。
おかげんはいかがですか?
[口元を動かし、笑顔を浮かべる。
もし具合が悪ければ看護師に伝える筈なので、これは質問としては意味が無い。
だから、やはり返事はあってもなくても気にする事無く、また歩き始める。]
[ふと窓の外を見れば、中庭には車椅子の患者とそれを押す医者の姿。
先ほどあちらに居た時は見かけなかった筈だから、入れ違いになったのだろうか。
何と無く立ち止まってじっと視線を向けてしまい。
相手がこちらに気付けば、軽く手を振り。
そうでなければ、やがてまたその場を離れる。
わざわざ中庭まで出てきちんと挨拶をする、という事は無い。
後で会えたらその時でいい。
今日縁が無かったら明日、明日も会えなかったら明後日。
時間はまだまだ、いくらでもあるのだから。]
[柏木の呟きは肯定とも否定ともつかぬ、確認のような響きだったけれど、「ええ」と深く頷いた。自分に無いものを持っている彼に対し「羨ましい」と、そう感じたのは嘘偽りの無い素直な感想で。
病室で描かれているというその絵画に対しても、仄かな興味があった。
「是非に」と、微かな喜色を滲ませる様子へ返答を送る。]
どうしようもない、……か。
[「時が解決してくれるかもしれない」期待を込めてそう告げようかと開いた唇を、引き結ぶ。柏木にとっても自分にとってもそれは、気休めでしかない言葉なのだと感じていた。
持ち上げた視線の先、傾きかけた陽光が空を橙色に染め始める。
今、何時なのだろうと腕時計を確認すると、時計は止まっていた。父の遺品だった。]
…と、すみません。時計止まってました。
そろそろ、戻りましょうか。
[長話に付き合わせてしまった事を詫び、制止されねばそのまま、来た道を辿り柏木を病室へ送り届ける。
引き返す途中、院内の窓辺に佇む女性の姿を見止める。歌い手の女性だ。
ファン、という程でも無いのだけれど、彼女の歌声が好きでCDを入手した事もある。
柏木へ「歌手さんいますよ」と上階を示し、その姿へ手を振った。
部屋にあるという絵画を見せて貰いたかったけれど、診察に戻らねばならない己は「また、顔出しますね」と残し、空の車椅子と共に慌しく*去った*]
[中庭を見た後、アナウンスに呼ばれた少女へ、そうとは知らずすれ違いざまに挨拶をして。
その後も忙しそうなスタッフ、売店へ移動中の患者、見舞い帰りの人、様々な人と会い。
時に筆談をしてもらい、時にこっそり小さな声で歌ったりしながら時間は過ぎて行く。
ぐるりと院内をめぐってしまって再び3階へ戻った時、談話室で退屈そうにしている少女の姿が見えた。
それは小児科にかかる子供たちが良く浮かべている表情だと、彼女は知っていた。
大人にとっての入院と、子供にとっての入院は、その意味合いが異なる事も、知っていた。
だから少女の近くに行き、挨拶と共にこんな言葉を述べる。]
こんにちは。
…お歌はいかが?
小さめの声でないと怒られてしまうけど。
[そして、自分では小声のつもりだったのに怒られる事もしょっちゅうだけど。
とも付け加える。
もし少女が望むのであれば、アヴェマリアでも歌おうか。
それとも、流行の歌の方がいいのか…最近の曲は、聞いていないから分からないけれど。
なんて事を考えながら、微笑んで唇に人差し指を当てた。]
[そんな日常が、これからも続くものだと思っていた。
けれどその日の夕方。
彼女は、病院を出て家へと帰る途中、彼女は人生二回目の交通事故に遭うこととなる。]
や、く、そ、く
ま、た…ね
[階段を下りながら、一段ごとに確認するように呟く。病院だからエレベーターはたくさんあるけれど、"病院の匂い"が篭りそうであんまり好きじゃなかった]
あのお店最後に行ったのいつだっけ…
[堂々と友達と買い食いできるようになったのは高校生になってから。長期休みにしかなかった入院が頻繁になったのも、それくらいだ。
一人で食べるのは、楽しくないから]
おばあちゃんと、約束っ
[とん、と一段飛び越して目的の階にたどり着いた]
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