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[転がる錘、鳴らないブザー。
バインダーに挟んだレポート用紙へ
何かを書き綴っている手を止める。]
ええと
――こわれてるのかしら。
それとも、
[凹んだ床を見遣りながら、
だれにともなく尋ねる。]
…いま、こわれたのかしら
[もちろん返答は記録されますとばかりに、
空色のボールベンは*構えられたままで*]
[手元のレポート用紙に綴りかけの文面。]
『重量オーバー事例
オペレーター:ワカバ
お客さま役:チカノ マシロ アン ……
記録係: サヨ
概要:
定員-1ないし-2で乗客の招き入れを
停止するところをご案内が後手に回るケース。』
『経過:
重量超過警告ブザーが鳴り、軽クレーム発生。
お客さまがエレベーター内でとび跳ねる事態。
(ex.他に予想される要求→「お前が降りろや」)
オペレーター初動対応:
言葉遣い△(正確には 言葉遣い×言葉選び◎)
笑顔◯(目は笑ってない ある意味適切) ……』
[下書きながら、内容はそこそこ*真面目*。]
[しぱ、しぱ。
振り返る友人を見返して瞬きを二度。]
… そうかも。
[ 「誰が」?とは聞き返さなかった。
たかいヒールの靴は履きこなせても、
マシロのようなウインクはできない。]
[ともあれ、ブザー音が止んだからには
エレベーターは運行遅延なく動き出す。
重量オーバー事例の続きも
書けなくなってしまった。
――上へ、上へ、上へ*まいります*。]
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