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―回想/日差しのきつい校庭―
あんた達は、消えないから好きよ。
[小さな花壇にしゃがんで、グラジオラスに呟いた。
先ほど撒いた水のせいだろうか、グラジオラス5赤を揺らめかせ陽炎がのぼる。
揺れる空気のその先に、何か不自然なものが見えた気がした。]
゛おいで、おいで゛
[いつものように嫌、と答えようとして、口ごもった。
陽炎の先に見覚えのある人影が見える。
一目で、生身ではないと分かった。
白黒写真のように、色をなくした姿は、こちらなど見えてはいないよう。]
[捕まえた。
伸ばした手のひらに確かな手応えを感じた瞬間、空気が重くなった。
水のなかに潜ろうとする時のような、微かな抵抗感。
それはやがて、自分の背を押すような流れに変わる。
捕まえたのは自分ではなくて、ずっと自分を読んでいた声の方であることに、依真里は気づいた。]
学生 イマリは、流れに押され、掴んでいた手を思わず放す。[栞]
[あっ、と思った時にはもう、手のひらは空だった。
抵抗感を感じた時に瞑ってしまった目を恐る恐る見開く。
掴んでいた筈の手も、その先にあった確かに生きている体も、今はどこにも見当たらない。
見えるのは、一見いつもと同じ、でも確かに違う花壇。
永嶋の手を掴もうとした時、踏んで汚した筈の土は綺麗に整えられたまま。
ここは、自分のよく知っている村だけど、まるで違う場所だ。]
永嶋さん、戻れたかなぁ。
[呟いて、空の手のひらに視線を落とした。
手のひらには何故か金平糖の痣がついていて、それは、こちら側に来てしまったことを示すようにも、あの手を掴んだことを示すようにも思われた。
天気のよくわからない空を見上げ、呟いた。]
ごめん、ね。
[自分がいなくなったら心配するだろう家族、友人を思い、眉間にしわ寄せ目を閉じる。
一呼吸して目を開くと、視線を自分が居る場所に据え、歩き始めた。]
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