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赤ずきんちゃん。
そんなにわからないと言わないで。
人の脳は──忘れない。
思い出すきっかけを失っているだけ。
カナメの部分は決して消えない。
カナメ。
私の役目は、何だった?
本当の私の役目は……何だ?
君は誰で、私は誰なんだ?
[口からは問いばかりが零れる。空気はひんやりとしているというのに、肌が汗ばみ]
そう。
私は、にんげんを、食べる。
[赤い花が手向けられた墓碑を見やる]
[バクの名前を聞くと、表情が悲しげに揺らぐ]
バクは、人の夢を食べるのよ。記憶を食べる。
ひとを、くらっていきる――
[不思議な、ふしぎその響きが、
身体をはしりぬける]
『プレーチェは、ここに。』
『アンはここに。』
[その、意味する所はしれるだろう]
[頬をたどるペケレの指は、
すこし目を細めて受け入れた]
カナメ――?
――うるさい。
[カナメの声を振り払う]
[その行為は哀切を含んでいて]
[いや増してくるのは、影たちの声]
獏が…。
獏は…自分の夢を取り戻そうとしていた。
食べるのは…その、ため?
君はひとを食べるもの。
バクはひとの夢を食べるもの。
二人は……
[乾いた口内。空気だけを飲み込み]
私は、
[言いかけて頭を押さえた。
俯き、何かに耐えるように]
[影の方へ耳を澄ませる]
…。
レン、だいじょうぶです。
ペケレなら、ライデンなら。怖くはない、です。
それにライデンとは、起きる前に…眠る前に…ともだちだったのかもしれない。
[あの写真]
結びつきは――
[言いかけて口を閉ざし]
[眠たそうに、目をこする]
ふぁー。
おなか一杯になると、眠くなるのは……もう。
[腰掛けると、墓碑に背を預ける]
あ。そうそう。言い忘れていたわ。
ルリちゃん、ライデンさん。
──私に食べられてくれないかしら。
[初めて会った時のような、明るい*笑顔*]
歌が……
彼女が、倒れて……
救えなかった、……
[「思い出さなくていい」と囁くカナメの声が、遠い]
私は……
「貴方は」
――狂った「怪人」、だ。
[思い出す。舞台に立っていた時の事を。仮面を付け、歌っていた自分の事を。目の前で倒れた、彼女の姿を。自分が、誰だったのか――
頭が割れるように痛い]
……う……嗚呼、……
痛い、……
カナメ、私は……そして君は、
ライデン、だ。
[呟きは低く。ゆっくりと瞬いてから、ペケレの声に改めて其方を見る。笑顔が見えた]
ペケレ…
ほんとうに。プレーチェたちを…。
[伝えられたその事を
にわかには信じられなかった風で]
[しかし。
『食べられてくれないかしら』
その一言は、決定的にした]
どうして。
それが、必要だったのですか?
お腹が、すくからですか?
食べたいのかね?
ルリと、私を。
[聞き返す声は平坦に]
私なら構いはしないさ。……思い出したから、ね。
私が誰かも、知り合いの顔も。
彼女の事も……
全てを、思い出した。
元々死のうとしていた事、だって。
私は、狂っていた。
[淡々と言葉を重ね、笑う。自嘲するように、寂しそうに、――愉しそうに]
Ten little Injuns standing in a line.
最後の一人は……
幸せだったか、不幸せだったか?
[謎かけのよう。左の掌を天に向けて掲げ、目を細める。そしてまた、低くも高らかな笑い声を*響かせて*]
[影の世界からの、響音]
楽園。
…。…。…。わかりませ、ん。
――ライデン?
[様子のおかしいライデン。
彼の方へ伸ばしかけた手が、続いてその笑みに戸惑い 彷徨う――]
狂っていた?
そうは、みえませんが…。
そう見えなくとも、狂っていたのだよ。
今だってそうだ。
ああ、覚えているとも。苦い薬の味を。白い部屋を。
身動きできない窮屈さを。今だって。
[ルリの問いには、笑みを穏やかな微笑に変じ]
少なくとも、この世にはないものだ。
「This loathsome gargoyle who burns in hell But secretly yearns for heaven」
[半分の否定の後に続けた台詞は、独り言の*ように*]
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