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―自宅―
……ただいま。
[習慣になっているのでつい口に出すが、家の中に人気はない。
薄暗さに目を慣らしつつ、擦り切れた唱歌の本を片付けた]
飯は……今日も御馳走になればいいか。
[一人暮らしではあるものの、料理をする事は滅多にない。
学校に通う子供がいる家に頼めば、大抵お裾分けを貰えるし、料理屋だってある。
ただ、儀式の当番に当たった時は別で、この時ばかりは手伝わない訳にはいかなかった。
その代わり、この日は村人全員が豪勢な食事に在り付けるのだ]
でも、ポルテさんの腕に敵う人はいないよね。本職だし。
[呟いて、帰り道に漂っていた良い匂いを思い出し、いそいそとポルテの店に向かうのだった]
―小料理屋へ―
―ポルテの店―
こんばんはー。
よいしょっと…採れたての野菜持って来たよ。
[ポルテの店に付くと、野菜の入った木桶を見せて]
お腹すいちゃって。これで何か作ってくれない?
[ポルテに頼む]
―小料理屋―
[ポルテの店へ向かう途中、さっき別れたばかりのダンケとも出会っただろうか]
あ、こんにちは。
[店に到着すると、丁度家を出る所のポルテと出くわした。
金髪の女性の微笑みに、こちらも小さく笑みを返して]
今からお出掛け?
夕ご飯を頂きに来たんだけど、少し待った方がいいかな?
[割烹着を脱いだポルテに問い掛ける]
― 村の外れ ―
[家屋は途切れ、田も畑もなく、それ故に人通りも少ない、村の片隅。虫の声や葉擦れの音しかしない其処に、男が一人佇んでいた]
……
[地味な紫の着物を纏った男は、山の木々を、空を見つめ、そっと目を閉じる]
お、丁度良い。
良かったね。そんなに待たずに食べれそうだ。
[ご飯が炊けたところと聞くと、嬉しそうに来る途中で再び合流した清治に声を掛けて、席に座る]
お、冬瓜の煮付けか。いただきます。
[出された冬瓜の煮物に嬉しそうに手を合わせると、ゆっくりと食べ始めた]
はい。
[ポルテに促されるまま店内へ入り、カウンター席に着く。
目の前の卓には冬瓜の煮付けが置かれた]
頂きます。
[両手を合わせてから箸を手にとり、冬瓜を口に運ぶ]
うん、美味しい。
[前菜を腹に収めながら、ダンケの野菜に期待の眼差しを向けた]
[鰹節で出汁を取り、輪切りにした茄子を軽く炒め、出汁に入れる。
最後に味噌を溶かし、椀に盛り、小口切りにしたネギを散らして2人に差し出した]
はい。お待ちどうさま。
[木桶の野菜を流しの水に晒しながら、2人が食べる様子を眺めている]
最近天気が続くけど、畑の様子はどう?
子供たちも元気なのかしら?
……嗚呼。今日も、空が綺麗ですね。
[再び目を開き、呟く。向ける相手もなく、しかし語りかけるような丁寧な口調で。
語り。男は「語り部」だった。己が記憶する様々な話を、子供に語って聞かせたり、儀式などの際に演じ語ったりするのが男の村での仕事だった。
そして、村の時を――幾つも生み出されてきた虚偽や錯誤も含めて――語り継ぐのが]
……、
[熱を孕んだ風が吹く。男の髪が、着物の裾が、微かに揺れる。左の袖だけが大きくはためいた。右手でついと押さえるその下に、左手はない]
そんな事はないよ。
たまにはこう……あっさりしたものも、いいよね。
[米と野菜が中心の献立に、満足そうな表情を浮かべる。
ご飯の量は多かったが、漬物の塩味で食が進んだ]
あれ、夏ばて? 気を付けないとね。
うん、冷汁もまた今度食べさせて貰えると嬉しいな。
[目の前で作られた茄子の味噌汁を有り難く受け取って、一口啜る]
うん、美味しい。
……ああ、子供たちは元気だよ。
夏場はちょっと森に入れば虫が捕れるし、川遊びも出来るからはしゃぎ回ってるんだ。
ただ、授業中はもっと大人しくして欲しいかな?
[言って、苦笑する]
とは言え、こっちの言った通りに練習するばかりじゃ、あいつらも詰まらないんだろうな。
音楽って、何かの役に立てるための勉強でもないしね。
[笑顔には軽く自嘲も混ざっていた]
とっても美味しい。
ありがとう。ポルテさん。
いつも美味しく料理してくれるから、僕も仕事し甲斐があるよ。
うん。南瓜の煮付けも美味しい。
[出された料理にゆっくりと舌鼓をうつ]
大丈夫かい?最近暑いよねぇ。
僕も最近はよくぼんやりしちゃって、仕事が捗らないんだ。
[...の仕事が捗らないのには暑さはあまり関係がなかったりするのだが]
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