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[生まれた日も、死んだ日も]
覚えていてくれるなら、それでいいじゃない
[がり、とコーヒーカップの縁を齧る。
ほとんど冷めた黒い飲み物は、香りもほとんど飛んで悲しいものになっていた]
あー、うん、
今日のカフェモカ、美味しいなって。
それって幸せなことだなって。
そういう、お話よ。
[ほとんど冷めたカフェモカ。
ミルクで柔らかくなった茶色に目を細めて。
吐き出したもやもやのあったところに、
ほんわりと注ぎこんだ]
おかわり、お願いします
[家に帰りたくない時にだけ、この喫茶店に来る事としていた。季節の変わり目だとか、憂鬱になるとき。喧嘩をしてしまったとき。どうしようもなくなったとき。
それが、増えてきて。
一回ずつの滞在時間も増えてきて]
『よくなったら、今度こそ好き嫌い治さなくっちゃ。ガモンちゃん、お野菜をおいしく食べられる料理、沢山教えてね』
[昨日、病室で交わした会話がよみがえる。
少し年上のその女性は、やつれた顔にそれでも笑みを浮かべていた。]
『ああ、のんびり治せよな。その間に、山ほど旨いもんのレシピを考えといてやらあ』
[ずっとずっと昔から、何度も繰り返してきた会話。
何故か野菜が嫌いな彼女と、料理人になりたかった自分と。]
[予想以上の詳しい解説に、思わず聞き入る。]
へえ、お祭り。道理で盛り上がるわけですね。
向こうの事情は知らないが今だって、
冠婚葬祭の八割方は、当人以外のためだもんなあ。
いい歳をして、偉そうに他人に教えていても、
知らないことや教わることばっかりだ。
[なんだか可笑しくて、小さく笑った。
ただ、おしまいの口ぶりが気になって、クリスマスが嫌いなのか尋ねてみようかと思ったが、やめた。ある種の好悪の感情はごくプライベートなものだ。初対面の人間が一時の暇潰しの種にしようとするものじゃない。
代わりに、ありがとう、おかげですっきりした気持ちで出勤できる、と礼を伝えた。]
[料理人になって、自分の店も持って。
でも、彼女の口に合う野菜料理はついぞ作れないまま、月日は流れ。]
従姉ちゃんが退院してくるまでに、色々考えとかなきゃな……。
[来年の春まで保つかどうかも危ない、そう医師から告げられていたけれど。
本人もそれは知っているはずだけれど。]
[自分の席に戻りがてら、ふと思う。
まだおれは彼女を「謎かけ少女」と内心で呼んでいる。
だが、まあ、それでいいのだろう。この店に来ればまた会うかもしれないし、もう二度と会わないかもしれない。]
祭といえば…… ……あ。
[祭の光景、居並ぶ屋台、朝顔の鉢。
きっと西欧の楽しいお祭りとやらとは全然違っていて、人々の賑わいだけは似ている地元の祭。昔、じいちゃんとした約束を、思い出せそうな気がした。]
帰りたくないなぁ……
[二杯……いや三杯目のコーヒーを睨み付ける。
これを飲み終えたら席を立たなければならない。
マフラーをしっかり巻き直して、寒空の下、家に帰らなければならない。
手を伸ばすは白い角砂糖。
ぽちゃんと音たて沈むは雪のよう。
ゆっくり、ゆっくりと溶けて、もう元のコーヒーには戻れない]
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