[今回の一件は、自警団から口止めを厳命されてしまっているため、当面仕事に活かすつもりはない。]
だがまあ、江戸川端先生あたりは、聞きつけているかもしれないな。私が関わっているとは知らずに、調べろとか言い出すかもしれ──おっ、と。
[雑誌に寄稿している、変わり者の作家の事を思い返していると、汽笛が聞こえた。]
>>9>>10>>18>>19
殿方の好みは知らないけれど……
赤が似合うのは、若くて可愛い女の子でしょう?
[雲の向こうでぼやけている大きな月を見上げる。
憑き物が取れても、妹を見る目は変らない]
さようなら。
ここからは一人でお逝きなさい。
[そう告げて、川のほとりを歩みだす。
ゲッカの衣服を汚した赤は、鈍く乾いた色に変わっていた]
[紅く色づいた森の向こう、神様がいるかもしれない方へと歩いてゆく**]
[乗り込んだ汽車の窓から見える森。]
──あそこだったのだなぁ。
[走り出す汽車。
青空の下、木々の豊かな緑は遠目には黒く映る。
そこから来た何物かの事を思いながら、遠ざかる森と村を目で追い続けた**。]
[帝都に来て数ヶ月]
おっと、すんませーん。
[背広姿姿の男を避けるふりして、相手の容姿を確認する。帝都にいるはずの父は、まだまだ見つかる気配がない]
にしても人、多いなあ。
こんなかにもあやかしがいるのかなあ。
[村に二人、であれば帝都にはどれほどか]
そんなにいるわけないか。
[人狼。と、苦笑混じりに漏らした声を、聞くものがあったか否か]
すみませーん!
こちらにグリタさんという方が、います?
俺? バクっていいます。グリタさんにはお世話になって。
ほらこれ、お土産。
[雑誌社にて慌てる若い記者に、満面の笑みで鹿肉を差し出すマタギの少年である**
― 後日談 ―
ユウキ兄、頼みます!
どっか家の隅にでも、置いてくれへん?
……弔いが終わるまでで、ええから。
[そのように頼み込み、村に残った数日間。
毎晩、夢を見た。妖となったゲッカの、チカノの。
それから、ツキハナの姿を夢に見た。
何かを言おうとしているのかは聞こえず、ただわかるのは、紅を引いた唇を懸命に動かしていることだけ。]
[よみのじかん。
これからの道は一人で歩まなければならない。]
だ、大丈夫かしら。
[不安に思う気持ちが、衣擦れと共に落ちていく。
一歩踏み出す足許。揺れる黒髪に差したかんざし。
そこにはかつての思い出と、淡い願いが込められていて*]