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.........
うわっ!...す、すみません!
[ふいに、我に返った]
何か俺、すっごく失礼なこと...!すみません、急に子供の頃のこととか思い出しちゃって!
[わたわたとモミジの頬に触れていた指を引っ込めて、落ち着き無くに空中で握ったり開いたり......思いっ切り動揺している*]
[結局何も手に入れることは出来ずに骨董品屋から外に出る。
見上げた空から落ちてくる雪はとどまることを知らない。
すうと息を吸い込んで、おなかから声を出した]
ズイハラさーん!
マシロさんも消えちゃいました!
[何か知るところはないかと、当ても無く男の名を叫んでみた]
……近くは無いな。
[片方は遠い。
声の高さから女性だろうと推測出来るのみ。
それでも大体の方角は分かりそうだった。
この場所は反響が少ない。
新たに積もり始めた雪を踏み締め、声のした方へと男は歩み行く]
…姿は見えないが…
[もう片方は視界の中に無いにも関わらず、声ははっきりと届いていた。
どんな原理かは知らないが、声だけは距離を超越するらしい。
その声、と言うか口調に聞き覚えがあった]
片岡君か。
[恐らくは狭間に、と思考が巡る]
[ふらふらと雪道を歩きながら、恨み言を呟く]
今ここに天使が現れて、『この箱の中には、あなたのたからものが入っています』なんて言って来たら、その中にはほかほかのおでんが入っているに違いない。
[冷えた芋を焚き火であたためる手に考えが行き着かないのは、空腹と眠気のせいか]
[貧しかった。
両親は高校にも行かせてもらえなかったらしい。
ひとつ、50銭にもならない内職。
二人、毎日毎日、夜中まで働いているのに、ちっとも裕福にならない。
それなのに、何もないのに、人が良くて。
騙されている事にも気付かず、なけなしのお金を他人に渡して。
余所に向けられない感情は家族に、喧嘩ばかりになって。
父も母も、本当はとても優しくて真面目で、なのに。
大嫌い。
何も、何ひとつ、報われない。
あの雪の日、冷たくなったマールを抱えて泣いて無理をして、案の定。
熱に倒れて、肺炎にまで拗らせて、そんな中。
両親は離婚。
祖母の家で生活することになった。]
………マールをしってるの?
[螺子が外れて壊れた時計。
重ねられる言葉が、何かの鍵のようにカチリと心に刻まれて。
『雪の精は、きっと......あのこをオーロラの国に、連れて行ったんだよ。
もう......苦しくないように』
無意識に少しずつ、呼び起こされる埋もれた記憶。
そう冬木にたずねたのは幼い過去の私。]
………
[元気そうだ、とは心の内の声。
独りではないのだから何とかなるだろう、とあちらは後回しにして。
微かに聞こえた、一度きりの声の方へと歩み進めた]
───……
[十字路まで来て三方向を見遣る。
さてどれが正解か。
大粒の雪が降りしきる中、人影が無いかと瞳を凝らした]
マール...あ...
[公園で一人で本を読んでいると、時々傍に寄ってきた子犬。
ある日、ちょっと年上の女の子が、その子犬を「マール」と呼んだ。
女の子と子犬は仲良しで...いいな、と思ったけれど、話しかける勇気はなくて]
[でも]
[微笑んだモミジの頭の重みが肩にかかる]
...七咲さ......
[その微笑みは、今まで彼女が見せていたどこか微妙な笑顔とは、なんだか少し違っているように見えた。
そう、ずっと前に、どこかで見たような]
[ズイハラの姿が見えない。
公園がどこだったかもよくわからなくなっていて、遭難という言葉が脳を過ぎる]
マシロさんのいとこさんー!
ズイハラさんー!
公園のお二人ー!
[いつの間にか、テレビの天気予報だったら雪だるまがゆらゆら揺れるマークが出そうな風が吹いている]
[彼女の身体が、地面にずり落ちぬように、肩に腕を回す。
とく、とく、と、聞こえる鼓動は自分のものか、彼女のものか]
あの子の名前......
[空を見上げる。
白い雪がふわふわと、舞う空を。
寒さは、今は感じない*]
……つか、だいぶ強くなって来たなあ。
[落ちてくる雪は大分大粒。
手袋はしているけれど、そろそろ感覚がなくなってきている]
……っても、アレの言う事、聞きたくねーし。
[ぽつ、と零れるのは小さな呟き。
半ば意地になっているのだが、その感情はあるものに向けているそれとよく似ていた]
…………俺は、俺のやりたいよーに、って。
決めたんだから。
[来た道を振り返る。
そしてそのまま男は首を傾いだ]
………
[声は何故か後ろから聞こえた、ように思う。
この辺りは多少入り組んでいるらしい]
…一本向こうか…?
[位置の大体の当たりをつけたものの、土地勘が無い場所。
辿り着けるかは甚だ疑問だったが、ひとまず歩くことにした]
[慣れない雪道に足を取られる。
朦朧としてきて歩くのも嫌になった。
人影らしきものが見えたのなら、へたりこんで*言うだろう*]
マシロさんも、目の前で消えちゃったんです。
もう、何したらいいのかわからない。
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