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― 1963 向日葵迷路 ―
さんじゅうさん……
結構あるのね。
[どんなに音痴と言われてもしなかったふくれ面。
このときばかりは、相手に遠慮無く向けて。
確信の在るような足取りを追う。
揺れる黄色、道は現れ、隠れ、繰り返し。
進んだ道のりさえ、たどって戻れる気がしないけれど。
共に在る者のせいか、不思議と不安は感じずにいた]
[――のに。
唐突とも思える言葉で示される、行き先。
ぎこちなく、首を傾ぐ]
……神隠しは、もう終わったのよ?
[立ち止まらぬ相手を追う。
もう彼方に行く必要はないのだと、相手を引き留めるよう、手を伸ばした]
―ひまわりのまよいじ―
[歌姫のふくれ面へ鼻を鳴らした。
六月さんの艶は、特別。
あの域へ達すのは非常に難しい。なんて思惟。
だが。]
正直を言えば、六月さんの歌より
貴女の舞いのほうに惑わせられるね。
―――ふ。
神隠しは終わった のか…。
だとしても、自ら出向くことはできるだろう。
[背の高い向日葵たちの影が、行く先に伸びている。
それらの陰りの濃いほうへと進みつつ]
日光がささない、暗くて涼しいところ。
休むには丁度良いんだよ、ワタシにはね。
[少し、掠れる声。
此方へ伸ばされる手が、視界の端に映る。]
何故、ついてくる。
そんな風だと、このまま連れていってしまうよ。
[その手首を強く掴んで、引き寄せようとした。
その時、]
―現代・祖母の家―
[ここに来るのは大学生ぶりだった。
女からは弁護士になったことの報告と祭りの話をすると
その祖母からは50年前の神隠しの話を聞く。]
やだ、異世界なんてそんなことあるわけないじゃない。
夢でしょう?
[女は真剣に話す祖母に冗談っぽく返した。]
―― 現代/射的屋 ――
倒すのがためらわれる的ですね……
[狛狼を模した的が並ぶ夜店前。
ポシェットから写るんですを取り出して何枚か撮影]
この村、むかーしむかしに神隠しがあったって本当ですか?
[店の若い男は、この辺の者ではないからと薄く笑った]
― 1963 向日葵ノ迷路 ―
[鼻を鳴らす相手に、不満げにふくらむ頬だけれど]
……え?
[惑わせる。
その言葉に瞬きする。
六月さんより、と比較する言葉、飲み下すまでに少しかかったから、間の抜けた顔はしばらく続いた]
自らって、行く理由が、あるの?
[誘うように揺れる影。
行き先示すように一方へと伸びていく]
―昔々のお話―
[水芙蓉の精霊の棲む湖があった。
ある日のこと
湖へやってきた人間と水芙蓉の精霊が出会い、
たちまち、人間と精霊は恋に落ちた。
精霊は人間の手を引いて、湖面の下へ消えた。
そうして精霊と人間は、向こうで添い遂げたという。
そののちに
水芙蓉の湖から現れた、子供が一人。
この子供は、あの精霊と人間の間に生まれたという。
水芙蓉にちなんで子供は蓮と名乗り、蝶々を飼って人間たちの世界で暮したそうな。]
そ、そんなのっ
私が――
[掠れる声、耳に届く。
掴もうとしていた男の手が動く。
酷くゆっくりに見えた。
相手の言葉の意図も、動作の意図も、確かめる前に]
……チカノちゃん、と、ヒナさん。
[見えた人影を呼ぶ。
レンが立ち止まれば、自然とその距離は近づいた]
―― 迷路 ――
[>>63呼ばれた名前に振り返る。
そこにいる歌姫に、くすくす笑った]
さっき、謡っていましたよね。
[指先で触れていた糸。出口側から入り口側へとぐいと引っ張って、それから離した。
風の吹いてくる方へと、駆け出す]
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