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まさか。
[ぱちりと瞬いて緩く首を横に振り]
そうなのかもしれませんね。
ええ、有難う御座います。
[常のように柔らかく笑い、ホズミに礼を言った]
あの上の布団だね。よいしょっと…
[押し入れから布団を取り出し、敷くのを手伝いながらも、何か悩んだ様子の若葉に首を傾げる。しかし、昔から変わらない合図を見ると笑みを見せて]
こちらこそ。
[若葉の髪をそっと撫でると、唇を重ねた**]
たんすの悪魔……。
[万代の独創的な表現についていけず、からかわれっぱなしにからかわれる]
そうめんに、漬け物。
うん、充分だよ。ありがとう。
[この際、贅沢は言うまい。
それに、先程の握り飯のお陰で酷く空腹という訳でもない]
……ご馳走様でした。
助かったよ。
[食べ終われば、礼を言って素直に出て行った。
村の老人たちが見ていたら、きっと非難轟々だったことだろう**]
[ふわりと髪を撫ぜられれば2つの影が重なる。
この村の年頃の男女の間ではよくある事。
2階から聞こえてくる笛の音が上から落ちてくる感覚。
けれどいつの間にか、その音色も遠くに聞こえ始めて
――― 白いシーツの上に皺が増ていく。**]
そういうものなのでしょうかね。
どうにも、女性の気持ちには疎いようで。
[指差される方向を一瞥して頷き]
行ってらっしゃい。
[手を振り返して去っていくホズミを見送った。踵を返し、己は違う方向、自宅のある方へと向かって]
[やがて自宅に着くと、湯を沸かして茶を入れた。右手のみで行う作業に危うさはない。男が日常生活で不便に思うところは少なかった。力仕事などの際は近所の者に手伝って貰うのが常だったが]
……ふう。
[喉を潤し、息を吐く。居間の卓袱台の前に座り、縁側の方を眺める。薄暗い室内から見る外の景色は、際立って眩しく*感じられた*]
― 回想・8年前 ―
[周囲に急かされるまま子を成す事が女の務めだと言われればそれを素直に受け止めたけれど、1人だけではどうする事も出来ない問題だった。
当時は母も健在で教えられる事には素直に頷いた。それと同時に、母が不思議な事を教えてくれた。]
『 子供はすぐにできるもんやないんよ。
お月さんが一周したくらいになって
ようやっと教えてくれるもんなんや。 』
[それは教育をまともに受けてなくとも子を成した事がある女性ならば知ることが出来る知識。
ただ、それを聞いて 誰かと閨を共にしてからは他の誰かとはひと月の間は閨を共にしないようにするのが習慣となってしまっていた。]
[初めての相手は慣れた相手が良いと、中年の男性を母が連れて来たことは今でも覚えている。何も知らない身体はその日から、母と同じ医師を目指す おんなとなった。]
[それから次の月。
同級生のダンケが家に遊びに来てくれた時があった。同学年の友人はあまりいなかったこともありそういう事は暫しあった。
けれど、先月の記憶もまだ消え失せないまま、自室で畳んだままの布団の上にちょこりと座り]
ダンちゃん。
そろそろ子供の1人でも作れって言われてたの。
ダンちゃんも言われてきてるでしょ?
[今とあまり変わらない姿形をした若葉は、そう言えばぺこりと頭を下げて]
…お願いして、 いいかな。
[躊躇いがちのような恥ずかしそうな口調で言った。
――― それからひと月と数日過ぎた日。
それまでの間、身を重ねた相手はいたとするならダンケのみ。他の相手とは寝ずのままいつもと変わらない日々が過ぎた。
突然襲う吐きのまま気の意味が解らず戸惑って母に縋れば、こちらの具合の悪さを吹き飛ばすような笑みが返ってきて
夕飯は小豆の沢山入った赤飯が出てきたのだった。*回想・了*]
― 翌朝・早朝 ―
ん、…
[小さな身動ぎと衣擦れの音。
横で眠る男は起こさぬように衣服を羽織り身支度をする。
ぼさぼさに伸びた髪を櫛で梳くも通りは悪くそろそろホズミの所へ行くべきかと考える。
風を通そうと窓を開けると、人影を見た。]
…アンちゃん?
――夕刻・村長宅――
一揃い、砥ぎ終えてますので。
[開いた木箱の中には、儀式で使う剃刀が大小並んで鈍く光を反射させている]
今回は誰なんですか?
……いや、阿弥陀くじとかそういう選び方の話は聞いてないです。
[空を切って、裏手突っ込み]
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