ね? 僕の聲が聞こえるひとが、言っていたでしょう?
「人狼はかみ殺す」って。
[既に事切れた姿を見下ろしたまま、彼は残念そうに呟く。言葉の意は綿雪のように軽く、地に落ちた刃物の、鈍く反射する光の前に消え去る。]
ちゃんと忠告したのに――、残念だったね。
あぁ、でも「ハズレ」を引いたのは正解かな。
[手に滴る鮮血を舌で舐め取りながら、数時間前自身に向けられた文句を思い出し、拗ねたように息を漏らす。]
喰らい尽くす前に邪魔が入っちゃった。だからヒントを与えのに…。
[ひとの姿で再び捲る物語は、かつての人狼審問を綴る。ひとと人狼、そして介入する存在が刻まれた。]
[もうすぐ夜が明ける。
目が覚めると同時に、人は命ある事実に感謝しながら、新たな犠牲となった者を嘆き悲しむのだろう。]
でも、僕には関係のない話だ。
[夜にだけ聞こえてきた声に、気紛れに訊ねるも答えを欲することもせず。新雪が足跡を消し去る内に、彼は村を後にする。]
あぁ、この本には、人狼に加担し自ら犠牲になる人間の話もあったけど――…
やっぱり人間は信用に足らない生き物だってことが、今回よく解ったよ。
[重苦しい音を立てて閉じられた本と共に立ち去る姿は、二度と振り返ることは*無かった*]
―― 集会場 ――
[そこへ辿り着いたとき、既に生き物の気配は無かった。
ハンカチで口元を押さえながら、奥へと進んで行く]
ネリー?
[月光は炊事場の食器棚の辺りに降り注ぎ、その開かれた扉には血に染まったエプロンがかけられていた。
もしかしたら、女給以外の血も混ざっていたのかもしれないが、そんなことは判別つくはずもなく]
相変わらず、メイドというのは気がきくんだな。
……いや、持ち運ぶのには少し大きすぎるか。
[残されていた包丁を拾い上げ、ハンカチで拭う。
顔色ひとつ、変えることは*なかった*]
[乱暴に連れ行かれても何もせず
夫を失ってからの飽いた人生を思う。
死ぬことはどうでもよかったが、
夫が残したものの行く末を思えば陰鬱な気分になる]