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─回想・煌星学園廊下─
[真剣な顔つきで椎名の披露する知識に感心していれば、前方を歩いていた長澤たちに唐突に声をかけられる]
……っは!? は、はい!
いき、いく、いくます……っ! こんにちはっ……!
[びくり、と飛び上がって、勢いのままにこくこくと頷く。
懐っこく声をかけられたものの、目の前のグループの誰もに、見覚えがない。
上履きを見れば、皆1学年下であることを表している]
……しいな、くん。しり、あい?
[胸元を押さえて、逸る心音を落ち着かせつつ、動じぬ様子で応える椎名に尋ねた。
会話が弾めば、緊張した面持ちで応じつつ。 「一緒に行こう」という誘いには、どうにか首肯したはず]
─回想・駅へ向かう道すがら─
どうしよう、メールの返信、きていないけど……。
もうこんな時間だし、……でも、
……あっ、うんん! 何でもないで……何でもないの!
[二つ折りの携帯電話を開いては、閉じて。 新着メールの有無を確認する。
移動中、同行者たちに断りを入れて、「ノートのコピーを届けても良いか、共に肝試しに行かないか」という内容のメールを村瀬に送ってみたのだが、未だ返信はない。
独り言を聞きとめて鷹野が気遣ってくれたのには首を振って、何でもないからと笑顔を返した。 気を散らしてごめん、とも。
敬語になりかけた語尾を崩し、名乗ってくれたファーストネームで後輩たちを呼んでいるうちに、気持ちも徐々に解れていった。
後輩たちは可愛いし、けれど下の名前なんて呼びなれないために、気恥ずかしくって頬が火照る]
……クレープ?
[今度は鷹野の呟きに首を傾げ、美味しいクレープ屋さんを紹介し合うなど、交流を深めたのだった]
[駅が近づき、ノートのコピーは日曜日に届けることにしよう、とようやく決心したその時。
『コハルちゃん!』
丁度、思い描いていたままの友人の声が前方から聞こえた]
──六花ちゃん!
─回想・駅前─
六花ちゃんも、松柏駅のこと知ってたんだ?
[よく見知った顔を見つければ、自然に表情が解れた。
手を振りながら、急ぎ足で村瀬たちのグループへ寄る]
私も、今から汽車を見に行くところだったの。
本当に現れるのかな? 警笛を聞くと、連れ攫われちゃうって聞いたけど。
[こわいね、と口にしながらも、友人と合流できた安堵の方がより強く現れていた]
[『ナオちゃんとシンヤくん』と紹介を受けて、櫻木と弓槻に頭を下げ]
三枝、小春です。
六花ちゃんと同じクラスで、二年生で、……えっと。
[二人の大人びた立ち振舞振りから、上級生なのだろうかと頭を過ぎったものの、よくよく見詰めてみれば見覚えがあった]
櫻木さんは、図書室によく、本を借りに来てくれます、よね……?
あっ、えと、……私、図書委員で。 よく、私も、同じ本借りてたから……覚えて、いて。
[もし櫻木から反応があれば、2人が共通して読んでいるシリーズ物の新刊について、饒舌に語ったかもしれない。
弓槻のことも、塾を同じくする寺崎と共に居たところを見たことがあった気がして、挨拶のついでに尋ねた。
千春が同行していた、長澤や鷹野や成瀬、椎名のことも全員に紹介してゆく]
[合流したグループ同士、互いに自己紹介しながら駅へと向かう。
到着してみれば、共にやって来た面子以外にも、幾人かの姿があった。 寺崎や、須藤や小鳥遊といった教師たちがお茶を飲み交わしているのも見える]
……え、と、
[けれど小春が探していたのはその誰でも無く、村瀬の横に立ったままうろうろと視線を彷徨わせた。
『現在の時刻は23時59分でーっす』と、はしゃいだ声が聞こえる。
オカルトの薀蓄や問いかけに答えていれば気もそぞろになって、刻々と時間だけが過ぎていく]
─電車の中─
[『何処かしらぁ、ここ』
小鳥遊の声に誘われて、奪われた視界もだんだんと戻ってくる。
瞬きを繰り返し、目元を擦って見渡せば、列車の内部に居るように感じられた]
……えっ……。
[頬を抓ってみれば、痛みがじんと伝わる。
微かに何かが燃えているような匂いに気付いて、振り向くと──浮かぶ火の玉と、倒れた二宮の姿が。
喜色の交じる椎名の宣言も、窘める小鳥遊の声も、二宮を介抱する須藤の姿も、寺崎の弓が滑り落ちる音も、何処か遠い世界のもののようだった]
[漂う鬼火が語りかけてくる内容だけが鮮明に頭に響き、ぞくぞくと悪寒が背を上る]
本当に、これ、……夢じゃなくて……?
[心なしか声を震わせながら呟いた時、鷹揚な拍手の音が耳に飛び込んできた]
───せんせ、い。
[立ち上がったのは、近藤天馬。
『これは遊びなんかじゃない』『青玲学園で起きたあの事件』『――、処刑する』 一つ一つの言葉が、数日前の近藤の呟きと、小山内の噂を思い起こさせる。
こちらを向いた視線が揺れたような気がしたのは気のせいだろうか。 じっと息を詰めて、塾講師を見上げた]
もしかして、小山内くんが居なくなったのと……同じ、……なんですか。 あれは、噂じゃなくて、本当に?
[思わず漏れた声は、低くかすれていて。彼には、届いたどうか]
[近藤から向けられた笑顔は、常であればときめきの種にもなったかもしれないけれど。 じっと見上げたまま、唇を噛む。
その視線は近藤が二宮を運ぶべく身を翻したことで途切れて、小春はしゃがみ込んでしまった村瀬の背を擦るために片足をついた。
村瀬に触れることで小春の気も落ち着いてきて、無意識に早まっていた呼吸も元に戻っていく。
戻ってきた近藤の説明や、始まる議論を聞きながら、恐る恐る口を開いた]
先生、……えっと、近藤先生や、火の玉が言っていたように、時間が経つにつれて次々に人が襲われていくのだとしたら、は、早くその……鬼?ってやつが取り憑いた人を、見つけないといけないと思うんです……。
[口の中が乾いて、喉元がひくりと震える]
……だから、力?を、持っている人が居るのなら、協力して話し合うのがいいのかなって考えたんですが、……力を持っている人たちは、その人なりに、上手な力の使い方をし、知ってるかもしれない……し。
[制服の胸元を握って、一度目を伏せて。 再び視線を上げるまでに、暫し間があく]
……それに、あの。 ……私だったら、力を持っているだなんて言い出すのは、怖いなって……。
信じてもらえるか、分からない、ですし。 こんな状況だけど、……こんな状況だから、友達から、奇異の目で見られてしまったら、きっとつらい……。
[つらい、と消え入るように話した後、目を瞑る。だから、とついだその語調はしっかりしたものだった]
だから。ほ、…本人の言いたいタイミングに、任せたいって思うんです。
見分ける目を持っている人は出た方がいいという話を聞いて、それが最善だと思えば出てくれると思うし、きっと話し合いの流れで名乗るべき時が来たら、そういう力を持った人は、出てきてくれるんじゃないでしょうか。
例えば自分が違う車両に連れて行かれそうになった時とか、そのほか、いろいろ……ええと、今は思いつかないけれど。
あ、あの、私は個人的には、投票用紙に書いて名乗るやり方がいいんじゃないかなって思っています。
そ、そのためには話し合いで、車両を移って貰う人を決めなくっちゃならない、ですよね。
弓槻くんの、短い時間で投票先を揃えられるかどうかわからないって懸念もよく分かって、迷うんですけど……。
投票で出てくる流れになって、その時隣に移って貰う人を選ぶとするなら、力を持つ人はすぐに出た方がいい、と言った人たちの中からお願いすることになるのかな、と今考えていました。
[村瀬が服の裾を握るのに気付いて、その手を握り]
だから、私、投票は揃えた方がいいって思ってて……だから、伏せて投票するのは、反対、です。
あ、あの、投票を揃えて方がいいかなって思ったのは、鬼を見つけられる人って、どんな風に見つけるんだろう?って考えたのもあって……あの、あの、不明瞭な決定が少ないほうが、のびのび探しやすいんじゃないかな?って……。
力ってどんなものか分からないので、まったく見当違いのことを言ってるかもしれないのだけど……。
[口元を抑えて咳をころす。
収まった頃に、村瀬からチョコレートを受け取って、唇だけでありがとう、となぞって笑顔を返した]
三枝小春、二年生です。
[簡易に自己紹介すると、椎名の誘いには首を振った。
村瀬が付いて行くと聞いて迷う素振りを見せたものの、やはりこの車両に留まることにする。
村瀬や小鳥遊がレコーダー脇に菓子を置くのを見て持っていた鞄を押さえたが、そのまま動かずに居た。
暫しの後に、近藤の横に遠慮がちに座って、話し合いの様子を眺めるよう**]
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