[動揺を口ずさむ唇を止めて、風の吹いて来る方を振り返りました。
葉のざわめきが、ガラスの振動が、何か語りかけているようでした。
少女が振り向くと、風はぴたりと止まりました。]
風……。
出口は、きっと向こうね?
[少女は風の吹いてきた方へ*歩き出しました。*]
[寝転んだまま、ゆっくり右手を目前に掲げる。
泥まみれの掌に、汗が滲んでゆく]
咲くわけないよな。
[節くれだった指が、ぴくりと動いた]
それでもよかった。
ただ、
[花でも咲けばいいと思っただけ。
一縷の望みに賭けてみたかっただけ。
男は、呪文のように口元を動かす]
たりねぇよ。
[震える両手で、顔を覆った]
[湿度の高い空間の中、男の身体はじわじわ汗ばむ一方だった]
あっちぃ……。
[うわごとのように唸る。
起き上がる気力は沸かない。
降り注ぐ甘い芳香を吸い込めば吸い込むほど、男は*酒を欲した*]
なんでもよかったんだ。
[それは、寝言かもしれないし、独り言、あるいは話し聞かせる声なのかもしれない]
「明日」になんの望みもない自分から変わりたかった。
笑えるよな。
こんな年になっても、何したらいいのかわからねぇなんて。
よっ、と。
[男は勢いづけて起き上がる]
でもオヤジは年の功で知ってんだ。
何かすれば、風向きは多少は変わる。
[小瓶を一つ飲み干して、中に土を詰め込む。
男は、ニヤニヤと笑い、その重さを確認する]
監禁される趣味はねぇんだよ、っと。
[緩んでいた顔が一瞬引き締まり、男は小瓶を全力で投げ付けた。
四角く区切られたガラスに向かって]