― とある場所 ―
[白いファーの襟巻きを弄びながら扉を開ける。
ころりと鳴る音は控え目]
ごきげんよう、皆様。
お話は弾んでいて?
[店内を僅かに見回して、見えた顔に微笑んだ]
[暗い色を基調とした店内。テーブルも、硝子製の天板以外は黒色だ。明るい色の物と言えば]
ホワイトラビット。
好きね、それ。
[色白の男と、その食べ物がひとつ。
通り過ぎざま、大福を頬張る男に声を掛ける。
呼ぶ名は自分が勝手に決めたもの。誰の本名も通り名も、気にしたことなど、ない]
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とりあえず、なるべく格好いい二つ名を勝手に決めてみたい。みたい。
肩書きとは別に。呼ぶかどうかも未定。
とりあえず現在は、
ネギヤ=ホワイトラビット
ヂグ=(ザ)オーナー
ウミ=スリーピングキャッツ
紅茶、くださる?
[ウエイターから紅茶を受け取ると、椅子には座らぬままカップに唇を付けた]
「あの方」に一泡吹かせるっていうのは、面白そうよね。
……丁度、退屈していたの。
[表の顔は、オペラ歌手。それなりに刺激のある生活だが、裏家業とは比べるまでもない。思いだし笑いするように、くすりと漏らす]
それでターゲットは何にするのかしら。
持ち主に莫大な富をもたらすというブルーダイヤ? それとも「あの方」の持つネットワークキー? あるいは…
[指を折りつつ]
さすがおじいさまはすでに準備万端ね。
[足を止め、クッキーを口元に運ぶウミに笑いかける。マニキュアを施した指を彼のクッキーに伸ばしながら**]
ふふ。夢見るだなんて。
女はみんな、綺麗なものが好きなのよ。
ダイヤ、真珠、黄金、なんでも欲しいの。
[ウミがまた茶菓子を要求している。
自分が最後の一枚を食べてしまったせいではないというのは間違いないだろう]
ネットワークキーならおじいさまの独壇場かしら。じゃあ、それだけじゃ物足りない――
ま。「あれ」呼ばわりなんてしたら怒られちゃう。
怒った顔、恐いのよ? 「あれ」。
[向けられた好々爺の笑みに、くすりと笑う。
明らかな三文芝居で怯えてみせた]
顔を合わせるのは久しぶりね、オーナー?
ラザロの件ではお世話になりました。おかげで久しぶりに楽しかったわあ。
[帽子を持ち上げるヂグに、今は冠詞を省略して呼びかけると、首を傾け笑ってみせる。
ターゲットの名に瞬きを繰り返した]
……ブラックキャット。
[ちらりとウミの抱く猫に視線をやる]
ふ、あはは、本気?
いいわ、それ。一泡吹かせるには、最適。
[持っていたカップをテーブルに置いて、堪えきれないと肩を揺らして笑う]
おじいさまの狙っている月も気になるけど……
ブラックキャット。
そういえば警察も狙っているって話よね。一国をひっくり返す力のあるものだって話だし。「あれ」がお金も人も惜しみなくつぎ込むくらいだから眉唾でもないのかも。
オーナーと縁の深いその人も、なにか掴んでいるかもね?
[ヂグの言葉ににじんだ色に、どうかしら? とまた首を傾げた]
仕方ないわ。
私を虜にするほどの物を隠しているんだもの。そうしたらこっちからもらいに行くしかないじゃない?
[三毛猫の動きを目で追いながら。
決して撫でようなどとはせず、笑いかけるのみ。
ツキハナの名がでれば、あらかわいそ、と呟いた]
ふふ。彼女になら、まだ騙されていることに気づいていないかもね?
幸せよ。きっと。
[ウミの鼻歌を聴きながら、ネギヤの目の前に置かれた大福をひとつ、摘む]
た・べ・す・ぎ。
兎の前に狸になるわよ。
[抗議の声に、相手の額を手で押さえ、大福を口に運びながら]
まずは、スリーピングキャッツのお手並み拝見ね。
[時代に似合わぬガラケーに目を細めた]
さて、と。じゃあ私も――
[笑い声と共に現れた人物に、ぱちくりと瞬き]
あら。いらっしゃい。
[立てた人差し指を、相手を指すでもなしに、空中で揺らめかせた]
ふふ。確かに、全部聞かせてもらった、なんて台詞だったら、ずっと扉の外に立っていたのかしらなんて、思っちゃうわね。
[隅の席に陣取ったユウキに、笑いながら軽く肩をすくめた**]
引退する気なんて、ないくせに。
[ウミの瞳に浮かんだ色に、気づいたか否か、至極軽い口調で呟いて、微笑む。
自分が呼ぶ呼び名に、それぞれ篭めた意味を披露する気などない。ただ、自分が認めた相手にしか、呼び名は付けない、そんな気はしている**]