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[ゆっくり景色は動き出す。
物陰に隠れて、
運転手からは立ち尽くす学生の姿は見えなかったのだろう。
せっかく改札を抜けたというのに、
友人の目の前で電車は発車した。
ようやく立ち直った友人は、一二歩、軽く走って
それから拳を突き上げた。
手の先にぶら下がる、ビニール袋の中身
――――ガツガツくんのせいだとでも言うように。
ついで、『クソヤロウ』とでも言ったのだろうか、
段々と遠くなっていく姿の中で大きく口が動いた。]
[夏は一番嫌いな季節だ。
子供の時分には無限に感じた有限の時間を遊び回ることに費やした
社会人になってみると、照りつける太陽がやたらと煩わしい。スーツなど着なくて良いんじゃないかと考えた事も1度や2度ではない
故にポルテの言葉には同意できないという意味で返事をしなかった。
尤も、声色からするに本人も返事を必要としていなかった様子だった]
(部屋とワイシャツと私…じゃなかったか?)
["夏と八朔とワイシャツの似合うイケメン"突然投げて寄越された謎の言葉を頭の中で似た言葉と照らし合わせる
真偽を相手に確かめようとする気も起こったが、変に話が進めば多分迷宮入りだな。と考えて追求しない事とした]
(おいおい…)
[八朔をいただけるかしら、と尋ねられて多少面食らう。元々ズイハラは車内でものを食べることを良しとしない性分だ
加えて八朔はたしか蜜柑と違って、果汁を覆っている皮がそれなりに苦く種も大きい
むかし祖母が剥いてくれたものの、食べるのに多少難儀した様な記憶があった
ポルテは車内でもその八朔を剥いて喰うのだろうか。その様はあまり考えたくなかった]
(出勤前に変なのに当たっちまったな)
[できるなら、仕事の前の時間はできるだけ緩やかに過ごしたい
この者とどのくらい一緒に乗る事になるのか。降りる駅をポルテに尋ねた]
[電車で向かう先は妻の実家。
何の取り柄もない田舎町になんて行きたくもない。
人はみんな知り合いで、俺だけが知らない人扱いだ。
俺はいつまでたっても「お客さん」で、
「みっちゃんの旦那さん」以上にはなれない。
みんないい人そうに振る舞いながら、
地元での結束は固く、外の者からすれば排他的。
常に、何とも言えない壁のようなものを感じていた。
疎外感と不安とが、男の足をその地から遠のかせている。]
[妻だってお世辞にも気が利くだとか、頭が良いだとかではない。
自分だって性格が良くも、稼ぎが多くもない。
自嘲して息をつく。]
めんどくせぇ、マジで。
[だからって男子学生に因縁を付けるようなことをしてしまうとは、
修行が足りないのだがそこまで反省はしない。
苛々してるところに変な物音させる方が悪い、
そう責任をすべて押しつけて男は安心を求めた。
苛立ちの原因は、「不安」だったから。]
[それは店の客にもらった八朔。
それほど食べたかった訳でもないが、涼やかな香りが、まだ少し暑い車内漂えば良いのにとは思った。何よりこの目の前のイケメンが、分厚い八朔の皮を剥くのに四苦八苦する様を見てみたかった。]
(残念。)
[心の中でもう一度呟いて、くすりと笑う。**]
[誘い文句はとある歌のはじめの部分]
(ちょっとランダム再生さんそれは反則じゃない!?)
[携帯音楽プレーヤーに入っている曲のジャンルは様々で実に節操がない。
どうせならもっと雰囲気に合った曲を選び出してほしいとちら、と思いつつ。
笑った顔を見られたくないが状況がどうなってるのか知りたい、という、
悩ましすぎる状況に陥り始めていた]
[彼女は学生と二足のわらじを履く探偵でもなければ、
ただの推理小説マニアでもない。
そういう取り柄になりうるものをあげるとすれば、
アルトサックスが吹けるということくらい。
ゆえに。
状況を知りたくば誰かに訊くしかないが、
誰かに訊いたら今の顔を見られてしまいかねない]
(こういう所のサービスって、どんなだ)
[ズイハラは社会人になってからというもの夜遊びというものをした事が殆どない
故に渡された名刺への視線は困惑の色が濃い]
(どうすっかな)
[そういった店に入る趣味はない。だが無下にするのも憚られた
そのうちに、隣の差出人がくすりと笑う気配を感じ取る]
(まぁ数値は良くなっていたけどな)
[現在の時刻はサラリーマンが出勤するには幾らか遅い時間。理由は病院で診察を受けてからの出社であった
数年前の健康診断より、内臓の数値について医者から指摘を受けている
だがそれ以降暫くは仕事の量が減らないことと同じように、酒の量も減らせないでいた]
(今の感じが続けば良いけどな…。忙しい方が会社にとっては良いんだろうが)
[幸い、ここ数ヶ月はある程度の余裕が産まれてきている
だが対象の店が、ただの朴念仁が来店すべき場所かは決めあぐねていた
それとも、これも何かの縁とやらだろうか]
(脈ありかしら?)
[窓の外。そっぽを向いたままのズイハラの言葉に、少し意外そうな表情。が、それも半瞬の間。むしろ先刻から感じていた視線の先、ナオを見遣って、不敵な笑み。]
(あら。そういうことなの。でも、お生憎様。)
[男子学生の所属する弓道部で、いつだったか、
他校で練習試合が行われた。
何を隠そう、試合に遅刻していったのがこの学生である。
家業手伝ってたら遅れました。
集合時間も集合場所もすっ飛ばして、
顧問に入れた連絡がそれだった。
今からでもいい、来い との言葉に一も二もなく頷いた。]
[とは言え他校での開催、
辿りついたはいいが肝心の場所が分からずに
たまたま通りかかった女子生徒に聞いた。
他にも数人いたというのに
わざわざ、その女子学生の袖を引いてしまったのは、]
『あの、 サー、すいません
弓道場ってどこですか!』
[その持ち運んだ楽器ケースと、
側面に綴られた英字に、どことなく見覚えがあったからだ。]
[全力疾走に上気し、眼鏡が曇るからと外していた彼は
その時流れる文字を読むことは出来なかった。
後日電車内で彼女を見、道理で見覚えがあるはずだと得心した。
それからは
時々、ほんとうに時々、
通学の電車で見かける度に
視線で文字をなぞって、今では
「あの時オセワになったハツネさん」の認識でいる。]
[もっとも、話しかけたことはない。
タイミングというものは難しいし、
大抵友人とつるみながら彼は帰るし、
「ハツネさん」は楽譜らしきと向き合っている様子だった。
なので遠くから、お世話になりました、と
見かける度に念を送るくらいだ。
貴方のおかげで試合にはでれました。負けたけど。]
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