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…ぶっ、普通名乗らないでしょ。
[錘による重量オーバー。投げ捨て衝撃があったにも関わらず、更なる重量にも文句を言わず上へと動き出すエレベーター。
そしてノイズ交じりのアナウンス。
こんな状況で失笑するのは場違いとは思っても、私はそうせざるを得ない心理状況に立たされていたのかもしれない。]
追い出せって、それって実習不合格って意味?
[物腰柔く美しく佇むサヨへ、ため息交じりの声色で訪ねた。
きっと私の眦は、言葉よりも雄弁に困惑した色を湛えていただろう]
そうだよね。
[サヨの回答を受け、私はチカノを一瞥する。
年頃の女子がする行為とは思えないが、男の目がないと羞恥心も箍が外れるのか。
もし、先のアナウンスが実習の可否を判断するものなら、チカノの行為は真っ先にアウトだろうし]
アン、スクープ映像ならスピーカーも撮って置くべきだろう。
[ナントカの血が騒ぐのだろうか。
不安より好奇心が騒ぎ出したアンも、立派な脱落対象者だろう。]
しっかし…
[小さく呟いて、私はハンカチで汗を拭う振りをして口許を隠し押し黙る。
狭苦しい機械の中、元々あまり歓迎される類の雰囲気が漂う空間ではないことは承知しているが、それにしてもブザーの一件後から、私は何かが引っかかって仕方がなかった。
訓練用のブザー。あれは操作側で設定が出来るのか。
出来るのかもしれないが、だとしてもあれほどの衝撃を受けた後、安全確認もなく動かすのは明らかにおかしいだろう。]
なぁ、ワカバ。交代するとき、何か教員から指示があったか?
[指示があったのなら一番受けて居そうな人物に、私は声をかけた。]
錘が無くても困らないなら、出してもいいだろうけど…
[ワカバの提案には唸るような声をあげて答えるも、どこか上の空でしかなかった。]
『なんで、「ひとり」なんだろう?』
[忘れてた足の痛みが疼きだす。]
『なんで、「追い出す」なんだろう?』
[私は痛みから逃れるように、窮屈なヒールの中で蠢いた。]
『もし、誰かを追い出した後、「その人」は一体どうなるんだろう?』
[突き付けられた事実の中に潜む、言葉を深読みするのは、私の趣味でも本の読み過ぎだろうか。
だとしたら、それは杞憂としてやり過ごすだけで*いいのだけれど*]
――邪魔、だから。
とか?
[ふと、私はナオの問いに答えるような形で、脳裏に浮かんが仮説を上げてみた。
それは如何に非現実的で、在り得る事ではないという事は百も承知だったが、何故か呟かずにはいられなかったのだ。]
んー…サヨの考えも一理あるけどなぁ。
でも仮に「避難誘導実習」だったとして。
大切なお客様を「追い出す」だなんて表現するかな?
[走り損ねたペンと綴られぬ文字に、サヨの心情を思い、私は極力否定の意味合いが籠らないように告げた。]
アン、あんたこの建物についての噂、何か知ってる?
えっと、ほら、夏向きの…アレ系。
[一向に応答しそうもない非常呼出ボタンへ、見切りをつけたアンにそれとない雰囲気を醸し出しながら、浮かび上がった疑問を変化球でぶつけてみた。
彼女なら。
情報収集が得意そうなアンなら。何か情報を知っているかもしれないと思って。]
[引力に逆らうようにふっと軽くなる体。
あ、そういえば昔聞いたことがある。無重力状態になるとかなんとか。]
……一応変化球を投げたつもりなんだけどな。
[アンの代わりと言わんばかりに、ご丁寧に返答してくれたアナウンスを見つめ]
ねぇ、あんたたち。さっきの声。
――聞き覚え、ある?
[ブザーがなり、錘が叩きつけられ、音は止み。
何事もなく上昇した小さな箱は、ノイズ交じりの声を上げ、そしてまた下降する。
時間にすると数十秒か精々二分も掛かっていない。
その短い間に、目まぐるしく変わる状況に。
私の思考は、点滅する明かりと共に四散していく。]
気にすることないし。
むしろ私もわかんない。
[謝られることはない、と涙を浮かべるナオへとウィンクを一つ投げる。]
てかさ、くびにするって何を? 学校を?
追い出すって何のために?
追い出した者に得は何かあるの?
さっきから訳が分からないんだけど。
[盛大なため息を吐きながら、私はちらつく視界の中、ノイズ交じりのスピーカーを*眺めた*]
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