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[時計の鐘が異変を告げる。
いつから鳴っていたのだろう。
最後の鐘が響いた直後、吹き抜ける冷風に目を閉じて。]
──っ
[気付けば、そこはさっきまで居た場所ではない真っ白な何処か。
目の前には立って居る兎。]
え?え??なに……???
[いきなり何やら話し始める兎。
息つく暇もなければ、内容を理解する時間もなく、まるで言葉のシャワーを浴びるよう。]
探すって…、出られないって…、
[聞き取れた単語を尋ねても兎は応えてはくれない。
残されて立ち竦む私の周りをちらほら、雪が舞っていた。*]
夢、なのかな…
[ぼんやり独り言。
子供の頃、夢と現実の区別がつかなくて、傘で空を飛んだとか、飼っていた小犬と言葉を交わしたとか、本気で周りに話してた。
自覚なく嘘を吐いてるから、たちが悪くて。
一人ずつ少しずつ、話を聞いてくれる人が居なくなった。]
マール…
[真っ白な雪の街。
もう居ない小犬の名前が口をつく。
事故で怪我をして、でも家が貧しかったから病院になんて連れて行って貰えなくて。
三日三晩ずっと胸に抱いて過ごした。
勿論学校の教室には入れないから、公園のブランコで、ゾウさんの遊具の中で。
水を飲んでも戻してしまう状況で、それでも、懸命になんとか生きようとして。]
あ…、いつから、、、
[というより。]
同じひと、ですか?
[そんな疑問がふと浮かぶ。
姿形は同じように見えるけれど。
夢のなかのひとが、これは夢だよって教えてくれる訳はないけれど。]
兎さん、立ってましたね。
[また、不自然に笑みを浮かべてしまう。
何が何だかよくわからない状況。
そうでなくても、いつも。
どんな時にどんな顔をしたらいいのか、わからない。]
どうなんでしょう?
現実にも思えないけれど…
[自分と同じ疑問を口にする男性に曖昧に応えて、辺りを見回す。
頬に溶ける六花に冷たさは感じるが、それでもリアルな夢の可能性は捨てきれない。
もし、この男性が夢ではないとして、これが現実だとして。
愛想笑いを浮かべた自分は彼にどんな風に見えるのだろう。
全てが真っ白な静かな街。
しんしんと振る雪の音が聞こえそう。」
──…自己紹介…、そう、ですね。
[男性の提案に頷き、名前を聞く。
年齢まで教えてくれたことには少し苦笑した。]
…モノカキ…
[告げられた職業を呟く。
それを耳にするまでの、言い淀むかのような微妙な間は自分もおそらくそうなるだろうから、特に何も感じたりはしなかったが、モノカキ──小説家という仕事にはこんな状況なのに若干興味が惹かれてしまった。]
すごいですね、本名で活動を?
[比べるのもおこがましいことだけれど、自分も趣味の範囲で、ブログに物を書いていた。
ネットにそういうサークルのような場所があり、自分の場合は勿論、ペンネームだが今でも時折投稿している。
いつだったか、最近よくある設定が複雑な物語より、王道の見ていて安心するストーリーが好きだと書いたことがあったっけ。
あの時紹介した物語、その作者の名前と彼を今は未だ結び付けることは出来ずに。]
私は、七咲紅葉。28。
……派遣社員です、いちおう、今は未だ。
[含みを持たせた言葉を誤魔化すように笑って。
内容としては、財務経理をしていると伝えただろう。]
…そうですね。
暖が取れる場所、探した方が良さそう。
[はっと、息で両手を温めて、改めて辺りを見回せば、遠く人影を見つけることが出来ただろうか。
これが現実だとして、要領を得ない兎の依頼については、手伝うにしてももっと手がかりを、と思わなくもないけど、そも見つけたからと言って出られる保障もない。
とするならば、第一に考えることは衣食住。*]
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