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俺は、……俺はっ、お前のこと――!!
[やっと認められた想いが、形を為し胸を焼いて。近藤は、頭を抱え絶叫を上げる。
――ただ、名を呼ばないことだけが、残された理性の欠片。]
―クランクアップ―
[「おつかれさまでしたぁ!」
近藤が学園内に足を踏み入れるとほぼ同時に、監督・二宮の元気な声が響く。ちょうどいいタイミングだったらしい、と思いながら声のしたほうへ歩を進めていると、機嫌良さそうにこちらへ歩いてくる須藤に出会った。
「やあ、近藤さん。また来てたんだ?」
また、のところを強調しながら片手を挙げ、声をかけてくる。]
あぁ、今日クランクアップだって聞いたから。……どうせ此処は出勤途中だし、な。
[何気なく返事をして、慌てて言い訳を付け足す。まあ、こいつはどうせ俺の目的なんて重々承知なんだろうけど。
「今度奢ってくださいよ、近藤さん。誰のおかげで自由に此処出入りできると思ってるんですかぁ」
ひとしきりうるさい年下の友人を適当にかわしていると、片付けを終えた生徒たちが三々五々帰り支度をはじめた。それぞれに弾けんばかりの明るい表情を浮かべている。]
[柔らかい髪を揺らしながらこちらへ駆け寄ってくるコハルの姿を認める、と須藤はにんまり笑って近藤の脇腹をつつき、ついと踵を返した。……やたら上機嫌だ。何か良いことでもあったのだろうか。
息を切らし頬を上気させながら近藤の元へ駆け寄ると、コハルは満面の笑みで挨拶をくれる。
「先生、来てくださったんですね。ありがとうございます!」
ぺこりとお辞儀をした彼女の背中は、映画を撮り始めた時より幾分ほっそりしている。出番の多い役どころを熱心に演じていたせいだろう。]
どういたしまして。いい映画になりそう?
[学園の教師ですらない自分に、学園祭の出し物である映画の出演依頼が来たときには驚いた。しかも、それが普段は大人しい彼女からの依頼とくれば二重の驚きであった。
さすがに最初は断ったのだが、何故か小山内にもしつこく勧められ、「1日目」だけならという約束で出演を決めたのだった。
「近藤先生、母さんに失恋してから暗いんだもん。なんか明るい話題に乗っかってみたほうがいいと思ってさ。うぷぷぷぷっ!」
……最近ハマっているゲームの影響だかなんだか知らないが、小山内はここのところテンションがおかしい。明るくなったのはいいのだが、方向性が間違っている気がしないでもなかった。
だいたい、一時期は“近藤先生にならお父さんになってもらってもいいよ……!”なんてかわいいことを言っていたのに、いざ近藤が振られたときには物凄く嬉しそうな顔をしやがったのだ。あのマザコンめ、と心の中で思い出し毒づく。
しかも、誰が書いたか知らないが、脚本を渡されてみたら自分はまだ片思い中の設定だし、教室で時々視線を感じていたコハルからは“想いを寄せられている”と明記されているしで。
嵌められた、と気づいたときには遅かったのだ。]
どうなることかと思ったけど、出て良かったよ。……こうやって、三枝ともいろいろ話せるようになったし。
[このごろコハルは、以前よりもまっすぐ近藤を見て話すようになった。本人役とはいえ、大役を果たしたことが彼女の大きな自信になっているようだった。
その笑顔の眩しさに目を細めつつ、一緒に塾へ行こうかと促す。ちょうど後ろから寺崎もやってきたところだった。コハルと同じく大役をやったせいで疲労の色は隠せないが、充実の表情を浮かべていた。一緒に居た弓槻と櫻木に別れを告げ2人に合流する]
しっかし、あれ……、全部演技です映画上の設定ですって誤魔化せるのかな。
[苦笑しつつ独りごちる。本人役ということもあってか、演じているうちに本物の感情が零れることが多々あって。
――できれば保護者の目には留まってほしくないが、今更どうしようもない。]
まぁ。どうにか、なるか……。
[先ほどまで演じていたシーンについて盛り上がる寺崎とコハルの後を歩きながら、空を見上げる。
明日も、いい天気になりそうだった。]
>>39>>40
[うちに来ちゃえばいいのに、という須藤の軽口に思わず足を止める。コハルのクラス担任は、確か須藤だったはず。
振り返ってみれば案の定茶化されてしまい、ふんと眉間に皺を寄せて。]
生活指導だの部活の顧問だの、授業外の仕事は好みじゃない。
[前回呑みに行った時に愚痴られた内容を返してやる。そのまま歩み去ろうとすると、相談がある、と声をかけられた。――そうやってたまに素直に頼ってくるから、つい構いたくなってしまうわけで。
構わんよ、と短く返事をして踵を返す。得意分野ではない相談内容だということはまだ知らないが、問われれば、なんとか自分の知っている中から答えを捻り出すことだろう。]
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