くくく。
目ぇが醒めたぁ。
あははははーー。
いっぱい美味そうなのがウロウロしてるじゃないか。
あはあはあははははー。
どいつから喰っちまおうかなぁ。
しかし。なんだなぁ。
久しぶりに入ったニンゲンの身体。
慣れねぇな。
[と。身体の奥からかすかに聞こえる、苦痛、悲しみ、拒否の悲鳴。本来のこの身体の持ち主が必死の抵抗をしている。]
なんだぁ。まだ声出す元気があるのかよ。
しぶといやつだな、こいつ。
まぁ、だから目つけたんだけどな。
くっくっく。叫べ叫べ。今のうちだぜ。
一人でも喰っちまえばこの身体は完全に
オレの自由になるしなぁ。
あははははーー。
[眩しい夏の日差しをうけて、「こはる」は目覚めた。教室で本を読んでいたはずが、いつの間にか眠っていたようだ。グラウンドでは賑やかな声が響いている。]
あつ……。
[知らず、汗が伝ってきていた。無造作に袖口でそれを拭う。]
ふあぁ。
[大きな欠伸をひとつして。その後、教室の中、ぐるりと視線をめぐらせる。]
はぁ。誰も見てなかった。
[広げていた本を鞄に仕舞いこむ。暑さのせいなのか動きが緩慢だ。グラウンドの方を羨ましげに眺める。]
元気だなぁ。みんな。
[こちらに向かって手を振る少女の姿を目に留めた。]
あぁ?見たことあるカオだなぁ。
[コハルの記憶を覗いてみる。]
んー。そうだ。
クルミっていうんだ。
知ってる。知ってるぞぉー。
あいつも美味そうだな。くくく。
[校庭の隅に駆けてきた少女が、自分の名前を呼んで大きく手を広げるのをみとめると、目を細めた。]
クルミちゃん?
暑いのに大変だな。
[教室の窓越しに手を振り返す。]
休憩したらー?
こっちにおいでよぅ。
おやつを持ってきたから一緒に食べよ?
[鞄の中をごそごそ探っている。]
えーと。
[バラバラっ……。色とりどりの包装紙に包まれた飴玉が机の上にこぼれた。]
ありゃ。
こんなの入れてたっけ。
ていうか、他に入ってなかったかな。
おせんべいとか。
飴じゃお腹ふくれないよねぇ。
[呟きながら、散らばった飴玉を*集めている*。]
うむぅ。こんな感じかなぁ。
ニンゲンの身体にもだんだん慣れてきたな。
せっかく久しぶりに目が醒めたんだぁあ。
かくれんぼー、上手くやらなきゃなぁ。
そんで、そんで。
いっぱいいっぱい喰うんだよぉー。あはは。
クルミかぁ。
せっかくだからこいつからでも良いな。
どうしようかぁ。
[おそらくクルミにはいつもと同じ様に見えているだろう、やわらかな笑顔を作りながら、ひっそりと思考する。]
自信満々だねぇ。(笑
読み終わったら報告しようか?
べ、別におしとやかーとかじゃないけど。
まぁそういう元気いっぱいなとこがクルミちゃんっぽいのかなぁ。
あれ?もう行くの?
練習熱心だね。
うん。一緒にあそぼ。
ソフトボールはなぁ……考えとくー。
[去っていく後ろ姿にひらひらと手を振った。]
さて。
じゃあ、読んでみるかな。
南国ミステリー。
[再び鞄から分厚い本を取り出すが、なんとなくグラウンドに視線を移す。]
……。あつそ。
[その表情は物憂げにも、羨ましげにも*見えた*。]