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[狭い路地裏の木間から見える高い隙間、ふと顔を上げれば赤黒く曇る空に、遠い羽ばたきを見つけ。]
人間、じゃネェやつか。
……まア、さして珍しくもネェか。
[ふん、と息を吐いて。
ひび割れたコンクリートを踏みしめ、ゆっくりとした歩みを止める事は無く**]
冬と、夏……
……片手いじょ は
[喘ぐように。
零れ落ちる血は、泡雑じり。ひゅうぅ、と喉が長く鳴る。
間近の煤煙は周囲の大気を更に穢してゆく。]
[路地の裏。
身を寄せられる場所を見つけ、腰を下ろす。
帽子を引っ張り、無理やり瞳を閉じる。
もちろん、耳元は塞いだまま]
……死霊どもめ。
[低い呻きを残して、訪れるは浅き眠りか**]
[赤黒き空の中。
幾度か瞬きを繰り返し、視力が飛行に問題ない程度まで回復したことを確認する。
左手の弓は一旦背の固定具に納めていた]
さって、哀れなイケニエちゃんはそろそろ始末されちゃう頃かな?
ニンゲンたちの愚かな所業を見物してやるのも悪くないわね。
[元々は異形の一種であったはずの有翼人だが、伝承に準え天使と呼ぶ者も少なくない。
命を散らす供儀の前に降りてやったら、面白いものが見られるかもしれなかった]
ま、面白くなかったら楽しいお掃除ね。
[言うが早いか、翼を傾け供儀の娘が居た辺りへ体を向ける。
軽い落下と共に気流に乗り、羽ばたきは最小限に目的地へ飛んだ]
[苦い面持ちは、泡立つ傷に。
熱い身にはつめたく感じる濡れた肉の裡、
触れる気管を指先へ引っ掛け――玩ぶ。]
律儀に返事してんなよ
…阿呆が
[額を―赤い徴を―ぶつける態で寄せて。]
[ぷち、ぷち、と何かの神経を逆撫でて。
筋繊維を、頚の骨から浅く扱き離して。
胸板から滑り滴る血溜まりが足元を潤して]
あああ もう
[旧友の頚がぐらつきだしても、まだ――]
[不意に、軽業師の腕が真横へ打ち振られる。
振り捨てる態で地へマティウスの身体を放り]
なにしたら死ぬの お前
くっそ…
[苛立たしげに横を向き、道化た帽子の中へ
片手を突っ込んで煤けた色の髪を*掻き毟った*]
[右手に酒瓶、左手にひとふりの片手剣を携えている。
酒瓶など邪魔になるのだから、ねぐらにでも置いてくれば良いのだが。]
[大きな影が頭上を過ぎる。
ふと見上げると大きな鳥……ではなく、翼をつけた人間(のようなもの)が、男からは到底手の届きそうもない空を渡っていった。]
異形か、天上人か。
……どちらでも私には関係の無い事だ。
[恵まれて罪など無いと噂される世界も、空の上の出来事も。
空から地上へ視線を戻す途中で、人影を見止める]
[恵まれて罪など無いと噂される世界も、空の上の出来事も。
空から地上へ視線を戻す途中で、人影を見止める]
[男は、供儀と呼ばれる少女にも興味を示さない。
これから死にゆくものなど男の興味を引くものではないのだ。
救済や終末というものも既に過ぎ去ってしまった。
生贄の儀式から目線を外し、廃墟の中を歩いて行く。]
[つむじ風の吹く辻――
壁を崩した瓦礫の傍に、ふたつの人影がある。
ひとつは瓦礫に凭れ居て、ひとつは立ち尽し。
立ち尽すのは軽業師…銜は顎までずらされて。
風に流されきらぬどす黒い煤煙と刺激臭が漂う]
供儀の代わりにでも
なるつもりだったか? …
[旧友へ苦く言い置いて、踵を返そうとした。]
[思い出したように持ち上がる指が、手探って
顎までずらしていた馬銜(はみ)を元へと戻す。
決まり悪そうに噛込むと煙の黒さは和らいで]
……
[サンテリの視線を受けると僅か置かれる間。
片目を眇める道化た笑みで、男は戯言を紡ぐ。]
( ― おっと、剣呑 ― )
( ― 鼻から煙でも出てた? ― )
( ― まいったね ― )
[目を細めわらう、遣り切れない色だけが本音。
滴るほどたっぷりの鮮血に塗れた手は、手話を
紡ぐごとにぬめぬめと動く、別の生き物に似る。]
…
( ― 商売にしてる と思ったら ― )
( ― あんた、とっくに抜いてる ― )
そうだな。
[何に対しての肯定か]
[レーメフトから目を離さず、地面に酒瓶を置く。その手で懐から小さくパックされた薬剤を取り出す]
[それから少し目を伏せた]
お前の馬銜は何のためにある?
[顧客たる相手の視線は逸れず――縫われ。
軽業の男も、軸足を踏み替えさえしない。
酒瓶の底は、ざりと砂塵噛む音を聴かせる]
…… ふ
[常から丸腰と吹聴する引揚げ屋の両手は、
意を紡ぐゆえに容易く相手から見える位置。
煤煙と共に漏れた音に笑みらしきは含まず]
( ― ヤなこと訊くね ― )
( ― もう 知らないあいだに ― )
( ― 殺しちまわないために だよ ― )
[応えを渡した手指は、そのまま握りこむ。
肩肘を引いて――――静かに息を*詰めた*]
[頚に触れるのは暖かく、熱い指先。自らの指先は震えていうというのに。
後ろの瓦礫に椎骨が当たり、頚の裡の気管や神経や筋繊維が弄ばれ続けた。糸の切れた操り人形のように、意識せぬダンスを身体の末端は踊ってしまう。]
―――(ごぽごぽ)―――
[やがて放り投げだされた時には、頚の穴は無残に広がり、顔が半ば瓦礫や塵芥に埋まる侭にずるずると倒れて行く。]
[軽業師が話しかける言葉は、全て届いてはいた。返す事が出来なかっただけで。煤煙に包まれるまま、額同士を一方的にぶつけ合わせられた時も届いていた。]
ちがう
[最後の音>>10へ。血の泡が弾けるような呟きは軽業師の耳に届いただろうか?]
声が出せぬ訳では無いようだな。
ほう……
[薬剤を、包装ごと口に押し込んで飲み下す]
……。
そうだ。
一つ誤解のないように言っておくが。
私は別にお前の事が心憎くて刃を抜こうとしている訳ではないのだよ。
……だが、お前が知らぬうちに殺した者の中に、私の愛するものが居たかどうか、それを判ずる手段を私は……持たない。
君は……ふふ。少しは気安く思ってくれていたようなので、あえて、こう言うが。愚かだと笑ってくれても構わないよ。
[何度か息をつきながら語り]
[上げた目は、薬効で真っ赤に染まっている]
[笑うように、何度か喉を鳴らす]
くく。そうだ、まだ報酬を払って居なかったね。
私の命で贖うかい?
[*口元に笑みの形すら浮かべて。*]
・・・失礼します。
今宵、神の供物となるドロテアの姉でございます・・・。
最後に、別れの挨拶をしたくて・・・
妹は、今何処に?
[儀式を取り纏める面々である白装束に尋ねる。
彼は場所を伝えた後、彼女は大いなる犠牲になるだの、魂は浄化され云々等長々と宗教について話すのだった]
――・・・あぁ、もういいヨ。
お宅らの宗教感、興味無いネ。
[白装束の会話を遮るようにそう告げる。
予想外の反応に戸惑いと苛立ちを浮かべる白装束の口を掌で覆うと]
――信じられるのは己の『剛力』のみ。
それがこの街で唯一つ、私達が信じれる戒律ヨ。
[そう言い捨てると同時に、小太刀が男の首筋に紅い線を描き
白装束を朱く染めていく]
早く終わらせて、バカンスの計画でも立てるネ。
[刃についた血液を拭いながら、女は目的地へと向かった**]
― 路地 ―
[一度店へと戻れば、仕事用の道具を詰めた荷を抱え、再び外へ。
頼まれ事は、明確な依頼で無くとも一応は調べておくかと、話題の場所へと足を向ける。]
……あン?
[通り抜ける路地の影に、見知らぬ黒い帽子>>3。
眠っているようではあるが、無造作にもほどがある。
死体にも見えないと、殺気を向けるではなく単に睨みつけるも、眠っているのならば気付かれないか、あるいは。]
旅人カ……命知らずカ、自信家カ。
この辺りハ物騒モ多い、気をつけることダナ。
[目深な帽子が上がる事はあっただろうか。
今は仕事を優先するも、何か返る声があれば話くらいはしただろう。]
― イケニエの祭壇近く ―
[祈る弱者に、単なる野次馬に、あるいは宗教じみた白装束に。
その周囲には、普段とは比べ物にならないほどの多くがざわめいているか。とはいえ、人気さえ疎らな常よりも、というだけで然程多いとも言えない人数。
その中に情報屋は紛れ、周囲から聞こえる声を拾う。]
……バカバカし過ぎテ反吐が出るゼ。
[ぽつりと落とすのは、あまりに滑稽なイケニエと宗教論について。
一度その近辺から離れると、まだ高さをある程度保つビルの階段を登る。
天井がすっかり消えた最上階、真上は羽ばたきが在れば直ぐに見つけられる、赤く濁る空。
粗末ながらも多少の効果を期待できる集音器と双眼鏡を構え、祭壇を伺って]
……ハハッ、あのネーさんは派手だねエ。
[飛び散る飛沫に染まった白に、苦笑した。]
―砂塵の街―
[塵に塗れて倒れ居る旧友をちらと見遣る。
街の乾きを潤す如き有体が、然し『否』と
――贄の肩代わりでないと聴いたその意が
耳の奥へ残る。ゆっくりと、視線を戻す。]
…
[薬包含むサンテリの様子には面持ち曇るも、
薬効の廻りゆくと思しき間も声は遮らない。]
ん。… ん
[渡すのはひとつ、ふたつとごく浅い頷き。
声でなくとも言を継げるはずの手は握って]
[つられ、感じる息苦しさに目を細め――
軽業師は、ふと
真っ赤な相手の目から
唐突に僅かだけ上へ視線をずらすと
サンテリが剣携える逆方の脇へと疾駆した。]
[ごぼっ]
[ごぷっ] [ぷっ]
――――…ひゅ……はぁ―――……
[一際大きな血の塊が頚から吐き出された。ドクリ、と軽業師の指で千切られた筈の血管の表面が傷を繋いでゆく。]
……げほっ…ぅ………うぅ……
[気管から這入り込んだ血液を唾液で薄めたものが、口元から垂れて、砂塵と混ざり合う。]
う……うぅぅ……――
[両手の指先に力が篭り、手と額を支点にして身体が僅かに持ち上がった。]
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