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−回想・喫茶店−
ほら、ここって最初はアンの名前が書いてあったんですけど
[そこまで言って、口を噤む。今度はフユキの名前が赤く染まっていたのだ――]
[当人が気づいたのかどうかは分からないが、それを口には出せなかった]
[ヤスナリは、気がつくと、誰かの名前を呟いていた]
冬木夏彦・・・
[ノートの、アンの隣にあった名前だ。気分が悪くなって、少ししか見ていられなかったけど、何故かすんなり出てきた名前。・・・途端に酷い寒気と眩暈がして、湖の岸辺に膝をついた。]
何、今の・・・。
ノートの名前・・・、なんで俺
呟いた?
[顔も判らないのに]
[水に滲んだその名前は、何故だか妙な虚ろさがあって。それでもさほど気にならなかったのは、アンの赤ほどの悪趣味さがなかったせいか]
水でも、こぼしたかな。
[サテンを出た所で仕掛けが発動した…感触はあったんだが。]
ありゃ?
[なんか様子がおかしいな…もしかして、夜刀と被ったとか?]
うーん、予想外だな…。
[ま、こんなアクシデントもあるから面白いんだけどな。]
さて、名前がどうなってる事やら…明日が待ち遠しいぜ。
[夏の陽も落ち、夜の時間が近づく。女子高生が行方不明になってる以上、長居はできないだろう。現に外では役場の車が「早く帰りましょう」と帰宅を促す放送を流していた]
あ、すみません。
アタシもそろそろ帰りますね。
……お話、ありがとうございます。
[それは事件の参考というよりも、話を聞いてくれたことの礼か。ともあれ、放送にせかされるように店を後にする。次に姿を消すのはその作家志望の青年だとも*気づかず――*]
―回想・昨日―
アンちゃんが、さらわれた?
[周りのみんなの会話に耳をそばだてながらも、実感は無かった。ただ、マスターやその他の人々の様子を見ているうちに、何となく不安な気持ちが広がっていった]
[件の自由帳に目を落とすと、真っ赤に塗られたアンの名前が痛々しい。そして、隣に描かれた意味の無いはずの絵が……]
あれ?
[ぐるぐると輪を描いて動いている。思わずごしごしと目を擦ったけれど、今度は見間違いではなかった。そして]
あ。アンちゃんがいる。
[絵が描いてあったはずの場所が、ぽっかり抜け落ちて、居なくなった人の姿が映っている。そこが異界の入り口]
アンちゃん。
[小さく声をかけるけれど、彼女はどこか違うところを見ているようだ]
聞こえないのかな?
[周りをそっと伺うが、アンが見えているのはどうも自分だけらしい?レモンスカッシュを頼んでくれたモミジが傍にいたので、たずねようと口を開いたが、ちょうどその時、喫茶店の扉が開いた]
お母さん。
[行方不明の事件が起こって、心配になった母親はいつもより早く迎えに来てくれた。自由帳に思いを残しながらも、手をひかれるままに、帰途についた]
―夜 帰路―
[学校からの帰り道、すっかり暮れた道を足早に進む]
怖くない怖くない怖くない。
[街灯の少ない田舎道だ。何が起きてもおかしくない気がした]
明日は絶対早く帰ろう。
[自身の迷推理にそれぞれ思うことはなんだろうか。
結局アンの行方は判らず、犯人の目星も、消された名前も自由帳に書かれた絵の事も判らず、ポルテが喫茶店を後にしたのはかなり日も落ちかけた時刻。]
狐憑き…? だったらルリちゃんでも女子高生を…攫える? まさか。攫ってどうするっての? 馬鹿馬鹿しい。
[喫茶店で潔白を記した手紙の中に名を書かれた男は、次なる手紙の投函を張ってみるとか言っていた。
果たしてその約束は守られただろうか。]
てかまた入っているし…。
[翌朝、やはり郵便受けに投函されていたのは、朝刊と一通の封筒。
寝起きの頭でかさかさと封の中から一枚の髪を取り出すも、なぜか昨日とは打って変わった紙の印象。]
はっ、これで人攫いの名前が書いてあったら笑え…
[ぺらり――]
[めくった先には昨日とは打って変わって殴り書いたような朱の文字。]
はっ、…笑えないっつーの…
【森下紅葉は人攫い。怪の惑に騙されるな!】
って。冗談きついって、朝から…
[そこに記されていたのは、よく知る人物の容疑を暴く*文字だった*]
―翌朝―
[外の喧騒に目を覚ます。
それがフユキを探す人々の声だとは気付かず、それでも胸はざわめいた]
数学が予定より遅れてる。
[口に出すことで自分の背中を押そうとしていた。
制服を纏い、騒ぎに興味がない顔をして*学校へ*]
―翌日・喫茶店―
[いつもの勢いはどこへやら。そっと店の扉を開けると中を伺う。やはりアンの姿はない]
昨日のは何だったんだろう。
[恐る恐る自由帳を広げてみると、赤く塗りつぶされた名前が増えていた]
えと。誰だっけ。
[消えた名前と残った名前を見比べているが、いかんせん読めない漢字が多いのだった。そして、名前の隣の奇妙な絵は]
……動いてないや。
[心なしかホッとする。昨日のはやはり、何かの見間違いだったのだろうか?……と思いながら、窓の外に目を向けた]
[ふと、窓の外にフユキの姿を見つける。店に入るでもなく、暑い陽の下に立っている彼は何処を見つめているのか]
へんなの。
[店内に目を戻すと、カウンター脇にかかった鏡が視界の隅に入る]
あれ?あれ?
[よく見れば、その鏡の中にもフユキの姿が映っているのだった。何がなんだかわからないのだけれど、不思議と怖さはなくて。じっと彼の姿を見つめていた。異界の入り口は広がっているようだった]
―朝・アパートの自室―
…今日も、あっつい。
[朝…というには少し遅い時間に、暑さにぐったりしつつ目を覚ます。机の上には、仕事として頼まれた分厚い洋書がどっさり]
終わんないー締め切り、いつだっけ。
[カレンダーを見て悩んでいれば、チャイムの音が聞こえてきた]
[軽く身支度を整え玄関に向かう。玄関には、近くの交番の警官の姿]
どうしたんですか?
[お巡りさんが話し始める。昨日の朝行方不明になったアンに続き、今度は冬木夏彦という青年の姿が消えた事を]
フユキさん?
[喫茶店で会話した事のある男性と気がつき、顔色が変わる。
警官に昨日喫茶店で顔を見た事を話す。特に変わった様子もなかったと。
話しを聞き、防犯に気をつけるよう告げて帰っていく警官の後姿を見送れば、背筋がぶるっと*震えた*]
―翌日・喫茶店―
ちーっす。オレンジジュース一杯ー。
[いつもの席じゃなくて自由帳の方へ一直線。中を確認したら赤い色水で滲んだような名前が…。やっぱりか?]
えーっと、冬木さん…だったっけ?
張り込みしてて自分が攫われるなんて笑えないっすよ…。
[こっちの言葉が異界に届くかどうかなんて分からないけど、これは何も知らない一般人としても言っとかなきゃな。
―実際は光景を想像すると面白くて笑いそうだけどな。]
―喫茶店(夜)・回想―
アンちゃん帰ってきた?
[勢いよく扉を開けるが、マスターは静かに首を横に振るばかり]
…そか。
ドリアとホットドックください。
[テーブルの隅に置かれた自由帳をちらちらと見る]
…もう一度試すべきか…否か。
[ぐぅとしばらくそれと睨めっこしていたが、やがて決心したように鞄からペンを取り出した]
[自由帳を手に取ると例のページを開く]
よ、よし。…あれ?
だれか零したのかな…。
[そこで見たのは水に滲んだ冬木の名前]
ま、いっか。とにかく。
[握り締めたペンで自分の名前をぐるりと囲む]
[何をしてるんだ、と声をかけられ、はっと顔をあげる]
マスター…!まるが消えなーい!
[あまりに当然のことにあきれた様子を見せるマスターにぐっと言葉を飲んで、出された食事にありついた]
[ジュース一杯でだらだら粘って、目は窓の外と店内と自由帳を行ったり来たり。
…正直すげぇ暇。
宿題なんてこの騒動が終わるまでやる気ねぇし。だって俺が仕掛けの対象や夜刀の標的に選ばれないとも限らないだろ、俺は観客の気でも役者と思われてるかもしれないし。そうなったらやった宿題が無駄になるじゃねぇか。
かと言って外で遊ぶ事も出来ねぇし…暇だ。]
[一足早い夏休み休暇を取ったポルテにとって、実家での生活はやることはあまりない。]
うへ、とりあえず喫茶店にでも行って見るか…。
[身支度を整えてふらっと家をあとにした鞄には、昨日と同じ手紙が収められている。
昨日とは打って変わって告発するような内容の手紙が。]
あ、おまわりさんお疲れ様です。
あのぅ、アンって子は…? はぁ、そうですか。誘拐って線は…? なるほど。こんな小さな村ですけどねぇ…
はい? 冬木夏彦って…あ、ハイ、喫茶店に居た…は? 居なくなった? どうして…? あぁ、そうですか…。
では新しい事がわかったら…はい、お願いします。
うそん、アンって子に続いて、冬木さんまで行方不明…?
まさか恐怖新聞並みのこの手紙の送り主の反感を…? いや、有り得ないわ。だって手紙の送り主は――…
[喫茶店へ向かう道中、すれ違った巡査に冬木が行方不明になった事を聞く。
これでやはり冬木は人攫いでないことは証明されたようなものだが――]
じゃぁ、あの手紙は…――
本人に聞いてみないと…。来る、かしら?
いや、絶対来るはずよね。
[立ち止まって考えること数分。
何か決意を固めたように歩き出したポルテは、そのまま喫茶店の扉を開けた。]
おや? 今日は傘の少年と、ちみっこルリちゃんだけ?
[閑散とした喫茶店は、どこか物寂しさすら感じる。
バナナジュース片手に鏡に視線を向けるルリ。そして自由帳を覗き込むタカハル。
変わらないようで微妙に変わっている日常。
この中にもモミジと同じ人攫いは居るのだろうか?]
何か自由帳、変わった事あった?
[アイスティーを注文しながら、自由帳を覗き込む。相変わらず絵は形容しがたいもので、書き込まれた名前は、二つ赤く滲み、一つ丸で囲まれていた。]
行方不明になると名前が滲む…?
―昼―
[机の前で仕事をしていたけれど、中々やる気も出るわけもなく]
ああぁ、もう!喫茶店でも行って、気分転換してきた方がよさそうね。
[大量の本を尻目に、準備をして、いつものように喫茶店へ向かう事にした。
向かう途中の道端でも、アンちゃんとフユキさんの話が小耳に聞こえてくる。小さな村では珍しい大きな事件なので、みんな気になっているようだ。
程なくして喫茶店に着く。いつものようにドアを開けた。ベルの音が響く]
[相変わらず疲れた表情のオーナーの様子を見れば、アンちゃんが戻って来てないと明らかにわかり。
アンちゃんのことには触れずに、アイスコーヒーを注文した。
店を見渡せば、ポルテの姿が見える]
あ。ポルテ。おっはよー。
[手を振ってポルテの席に向かう。途中、開いた自由帳が目に入った]
…フユキさんの名前が滲んでる?アンちゃんの名前といい…
[小首をかしげながら、ポルテの座っているテーブル席に座る]
どうしたの?
[ゆっくりと目を細め、*笑顔を向けた*]
[ポルテさんとモミジさんに挨拶して、またボーっと…してるように見せかけて2人の席に意識を集中する。]
…どうすんのかな?
[そう、まわりに聞こえないように呟いて。]
−道−
[喫茶店へ向かう道の途中で、何やら調査中らしい警察官に出くわす。アンの手がかりは何か掴めたのだろうかと、思わず彼らの会話に耳をすませた]
また行方不明だって?
ああ、今度は成人男性らしいな。冬木夏彦……とか言ったっけ
誘拐じゃないのか!?しかし、こんな小さな村で立て続けに行方不明者か……神隠しにでもあったとしか思えないな
(行方不明……!?)
[出掛かった言葉を、喉の奥に押し込む]
[昨日、事件について話し合った人間が姿を消したというのが、引っかかっていた]
(どうして――?)
[偶然なのか必然なのかは分からない、分かっていることは、アンとフユキが姿を消したという事実だけだ。考えながら歩くうちに、見慣れた喫茶店が見えてきた]
−喫茶店−
……こんにちは。
[マスターにアンのことを聞くのも躊躇われ、言葉少なに注文する。ナオのもとに届いたのは、予想よりも飲みにくかったアイスコーヒーではなくクリームソーダだった]
また、何か変なことになってるのかな。
[自由帳を覗いてみる。10人の名前が書かれていたページは、既に2人の名前が――]
……この丸印って?
これにも、何か意味があるのかな。
……だけど、絶対いい意味じゃないよね。
[名前の塗りつぶされたアンも、滲んでしまったフユキも姿を消してしまった。どうしても、良くない方向に想像してしまう。その現実から目を背けるように、謎のイラストを見やった]
―学校―
[CH3だの、COOHだの、鉛筆で囲みながら気はそぞろ]
暑い。暑い。
あつい……。
[ふっと机に突っ伏して、ノートに額を付けた]
[ふと、イラストの横に文章が付け足されているのに気づく。やれライオンに見えるだの、たいやきみたいだのと談笑していた頃、いや、昨日までは確かにそれはなかった]
「深き海に棲むは魚、高き空に棲むは――――」
[続く文章は、擦れたように薄くなっていて読めない]
--朝--
[いつもお昼を食べにいっていたあの店へ、あのノートを確認しにいくのが怖くて、部屋の布団に寝転がる。]
冬木夏彦。
確かにあのノートにあった名前。
俺の名前もあったんだよな・・・
なんなんだあれ。
なんで俺、顔もよく知らない奴の名前が口をついて出てくる?
あの絵も、もう見たくない・・・
[何時間か過ぎた後、結局着替えて店へ向かうことにした。・・・もしかしたら、アンも見つかっているかもしれないーー微々たる期待を胸に店へ向かう。]
(そーだよ、きっと見つかってる。
いつもみたいに明るい声で迎えて くれる)
[カラン、とドアを開けると、やはり店の中にはアンの姿はなく]
―よろず屋に続く坂道―
[熱風に髪がなびく。
汗はじわじわと滲み出て、こめかみや背中を伝う]
たいやき。
[空を見上げ、雲に呟く。
ゆっくりと瞬きをする最中、眩暈を起こしそうになると同時に音を聞いた]
水?
[はっと目を開いても雨粒一つも見当たらない。
色をなくした顔色のまま、よろず屋の菊婆さんへ会いに行く]
―よろず屋―
フユキさんが?
[昨夜は消える姿は見かけなかったらしく、菊婆は噂話だけを伝えて数珠を擦り合わせていた]
これください。
[買ったのは、いくつかの花火]
はぁ……何でこんなに得体の知れないことばっかり起きるんだろ。
人はいなくなるし、悪趣味だし、怪奇現象も発生してるし……。
[考えることにも疲れたと言わんばかりに、支離滅裂な独り言を呟きながら大きな溜息をつく]
[ナオがノートを覗いているのに気づき、恐る恐る近づいた。]
竹若、それ、また何か、書いてあんのか・・・???
[自分で見る勇気が無く、震えた声で尋ねた]
[店に入ってきたヤスナリの姿を認め、手を振った。その問いかけには、力なく答える]
んー……また増えてたね。
[イラストに添えられた文章、謎の丸印、そして水滴が落ちたように滲んだフユキの名前。それらを説明したところで、一言だけ伝える]
……フユキさんも、いなくなったって。
[店にやってきたサヨにもひらりと手を振ったところで、彼女が手に持っているものに気づく]
……花火?
それどうしたの?
[遊ぶという発想には思い至らずに尋ねる]
―喫茶店―
ねぇ、花火しない?
[神妙な顔つきの店主や客を見渡して、紙袋を掲げながら訊ねた]
買ったの。
たまには遊ぼうかなと思って。
[ナオの問いに、ん?という顔で瞬いた]
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