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『あ、ネギヤ―?!』
[通りかかった「グレート・ブリテンおよび北アイルランド連合王国」の
屋根の煙突の先でもがいている、餅っぽい影はネギヤだろうか。]
おやまあ…
[煙突から出たそれは、
不安定に屋根を渡ろうとして、[庭園]の方へすり抜けて行ったようだ。*]
[飛び込んだ、水の中。
つめたい。
そんな感覚は、すぐに消える。
けれど、この流れに乗っていけば。
そうすれば、『堰』を越えられる。
相互侵蝕で混濁した存在は。
ただ、それだけに、すがる、けれど]
[力の足りない呪いは、望むようには行かせない。
越えられない、『堰』。
封じは破られない。
先には、進めない。
『思い違い』。
そう言ったのは、誰だったか──]
タカハル君……!
[川に飛び込む姿に、叫んだ声は、...のもの。呼応するように、吹いてもいないリコーダーが、鳥の鳴き声のような音をあげた。雨音に紛れるような微かな音]
(……あー……)
[ぼんやりとした、意識]
(なんかこれって、ただの濡れ損?)
[それどころではない、という認識はなくて]
(……ちぇ……行きたかった……な)
[川の先、『堰』の先。
ココロの隙間に入り込んだモノ。
それから聞いた話を思い返す]
(……なー)
『…………』
(見てみたかった……なぁ)
『……ああ……』
[ぽつり、返る、呟き。
それきり、ナニかは黙りこみ。
少年の意識もまた──闇へと、堕ちる。
それでも、右の手に握る、てるてる坊主は、放す事はなく]
[古き魔のヨリシロとなっていた少年は。
水の流れに抗う事無く。
やがて、越えようとしたモノ──『堰』たる岩に、その身を預け。
ゆらゆらり。
揺らぎながら、狭間を漂う**]
探すの大変だから川に飛び込むのやめろよ。
まったく。
[タカハルが飛びたった先を見て、冷静に溜め息]
大事なことを言い忘れてた。
俺、東京行ってからふんどし派になったんだ。
―― 挿話 / 船頭衆との会話 ――
船頭に なりたか 理由 …?
[人形店のボタンからの差し入れ――いつもの握り飯を
喰いながら、見習いの男はキクコの父の問いを反芻した。
村の川下りは、穏やかな淵から豪快な急流まで楽しめる
起伏に富んだ流れが売りだった。
まだまだ未熟な見習いは、昼飯時までに既にずぶ濡れ。]
…
三途の川じゃ、
もう渡し舟は 営業しちょる らしかで…
川下りなら 目新しい て
仏さんが わらって くるっか ち 思うて。
[頬についた飯粒を行儀悪く舐めとった朴訥な見習いは
はじめて「魚道」を突いて越えたばかりの堰を見遣った。]
[緑蜂はキクコの願いを。――「 早く 暖かくなれば 」
白蜂はネギヤの願いを。――「 もぎゅもぎゅ……。 」
黄蜂の別なる群が担う、ボタンの願いは何だったろうか。
青蜂は助手席の女の願いを
――(/*こわい考えになってしまった*/)]
[橙色の蜂の願いは――未設定。*村の人びとへ託された*。]
ラジオ体操第一。
ちゃんたらーららららーたらららららららー♪
(略)
[ふんどし一丁になった化粧師は、増水した川へ飛び込んだ]
[流されている**]
[常よりはやい、川の流れ。
薄く濁った水のなか、身を投げたタカハルが見え隠れ。
少年を押し流さず留め、追う高瀬舟を追いつかせるのが
『堰』なる岩だとは知らぬまま――男は船底に膝をつく。]
――沈むな、タカハル !
[ ご ごごう ]
[奔流に揉まれそうになる舟が、『堰』を通り抜ける瞬間。
移民の男の手が…タカハルの脇下へ潜り学生服を掴んだ。]
[意識をなくしたタカハルを、引っ張り上げる。
その間に舟は流れ流れて、目の前に次なる瀬の大岩が迫る。]
…っ !
[濡れた身体は重い。然しためらいは無く。
男は、細い舟の上へ自らも仰向けに転びながら助け上げた。
拍子、舳先が跳ね上がり――ちいさな舟は岩を飛び越える。
誰かの声が。リコーダーの音色が。…きこえた気がした。]
[みじかい浮遊感。天気雨。飛沫に虹。
跳ね起きた移民の男は、長い櫂を掴む。
何分、見習いの身。この流れの中、岸へ寄せるのは至難。
舟が着水すると同時、櫂の先を濁流のなかへ突き立てる。
――がくん。 櫂に絡む「何か」。しろく棚引く長い布。]
?!
ええ え
ンガムラさん… ?!! !
[舟は、直後 流木に乗り上げて――おおきく傾いた。]
[ ざっぱーん ]
[高く、宙へ。
しかし運良く、弾みで岸のほうへ。
投げ出されるタカハル。白が絡む櫂を握る移民の男。
そしてふんどしで一本釣りされるンガムラ――
あおい蜂の群れが、帯になってぶうんと横切ったのは
きっと倫理上、束の間隠すべきものが*あったから*。]
タカハル……!
[届かない叫び。届いてもどうにもならない、叫び]
だ、誰か……ンガムラさん!
[ふんどし姿の男が飛び込み、そして流される様に、またしてもただ叫ぶのみ]
何やっとるんじゃー!
ああ、もう!ヌイだけが頼りじゃ!
[速い流れに漕ぎだしてゆく、見習い船頭の姿へ。何度目とも知れぬ祈りを託す]
[そして、放物線を描く、舟。人。ちいさな虹。真っ白な、長い布]
おおーい!
タカハル!ヌイ!ンガムラさん!
大丈夫かー!おわ!
[駆け寄る足を滑らせる、河原の丸い濡れた石]
い……て……
顔、まともに打ってしもうた……ん?
何で、打つんじゃ?
[左の手をじっとみつめ]
[右の手でそこらの石を掴み上げ]
……透けとらん。
[ンガムラまでもが流されるのには、もうどうしたらいいのか、というような顔をしたが。ヌイが彼らを救出するのを見ると、息を吐いた。それから。ふと、聞こえてきた声に振り向き]
……あ、……
[消えていたはずの姿が見えれば。まず、驚愕し――すぐに、泣きそうな笑みを浮かべた。へたりとその場に座り込み]
……良かった……。
[呟くと、そのままうつ伏せになる。切れた緊張の糸。近付けば、静かな寝息が聞こえる*だろう*]
[ぼんやりたゆたう、闇の奥。
響いてきたのは、誰かの声]
「――沈むな、タカハル !」
[とおいような、ちかいような。
ただ、なんとなく──それから、遠ざかっちゃいけないような。
なんでか、そんな気がして。
ゆらり。
闇の深い方へ堕ちかけていた意識が、少しだけ、光の方へと動く]
(……沈まなかったら……)
[何か変わる?]
(……沈まないなら……)
[何処かにいける?]
(……オレは……)
[どこに いって なにを したい?]
(……わかん、ない……)
[意識はもう少し、彷徨いの内**]
[スクリーンいっぱいに、ぼやけた映像が広がるのを想像していただきたい。
カメラが引くにつれて、乳白色の世界のピントが合っていく。
そこに現れるは誰かの胸の谷間。
カメラはもっと引く。黒いバニーガールの編みタイツ。うさ耳。
そしてバニーの顔――]
ボタンさん!??
[カッ!!と目を開いた。
頭がくらくらする。爆音が聞こえる。
それがロケット花火の音だと気付くのに時間はかからなかった]
ぶえっくしょん!
[セイジを見つめて。意識せず自然にぽつり、ぽつりと紡がれる、歌]
雨、雨、さよならまたあーとーでー
晴れたらあーそーぼー
晴れたらまたあーそーぼー
お空が笑うの待ちきれないから
お山のお社御参りに行こう
社の神さまお願いします
いますぐ天気にしておくれ
雨の涙を虹に変えて晴れ空にっこり笑ったら
みんなで一緒にお外で遊ぼ
晴れたらあーそーぼー
晴れたらまたあーそーぼー
[口ずさみながら、ぼうっと眺めていたが。川に飛び込む音にはっ、として]
…タカハル!
……っと……ええええええ!?ンガムラさんー!?
[タカハルを追ってふんどし一丁で飛び込み流されていくンガムラを見て絶句]
……………。
あ……ヌイさんの船!よ、よかったぁ…。
[しばらく放心したようにぽかんとしていたが
ヌイが二人を救出したのを見て気を取り直し、ほっと一息ついたところで聞こえたギンスイの>>18「透けとらん」の声に振り向き]
え?透けてない…?
ギンスイ、透けてないって、顔打ったってことはまさか!
セイジくん、見える…?
私達のこと見えてるんだ…!
[>>19セイジの視線は明らかに消えたはずの自分達の姿を見とめていて。その泣きそうな笑みを安心させるように、やわらかく微笑み返すと、へたりと座り込んだセイジに駆け寄り手を伸ばす。その腕はもう透けることはなく。セイジの体を*支えて*]
―河原・タカハル&ンガムラ漁の後―
ありゃ、まあ、ギン坊…。
[もはや透けていないギンスイの身体。
目を丸くする。
確認のため近寄りかけると、草履の先で小石が音を立てた。]
ありゃ、まあ…。
[両手を、身体を見下ろす。
もういちど石を蹴れば、確かな感触がある。]
……もどってきたんかぁ。
[いつもどおりの腰の痛みが現実感を伴う。
眩暈の感覚を覚えて、手近の大きな石へ寄りかかり、ぼおっとしていた。]
[己の内からナニカが浮き上がる気配。]
[ふわり。
ソレは、タカハルを覗き込む。]
『どうしちゃったのかしら。
どうしちゃったのかしら。
ここにいるのに、なんだか遠いみたい。
どうして こうなっちゃうの。
わかんないわ、わかんないよぉ。』
『ヌイには、願いを叶えない手だって、ゆわれたの。
アンには、とおせんぼ されたの。
[「晴れたらあーそーぼー
晴れたらまたあーそーぼー」
内がわで、蘇りこだまするアンの歌声。]
どうしよう。
これから 好きになってもらいたいのに、遊んでもらいたいのに、
このあと どうすればいいか わからないわ……』
[彷徨いの中。聞こえてくるのは、ナニかの声]
『……望み、は。我らの望み、は』
(オレは、そとに、いきたい)
『我は、縛から、逃れたい』
[なら、一緒に目指す。
切欠なんて、その程度。
けれど]
(越えらんなかった、な)
『越えられなかった、な』
(……このまま……消えちゃうんかな)
『……消えたい、か?』
[疑問に返るのは、問い]
(消えたら。
……どこか、いける?)
『消えたら。
……なくなるだけ、だろう』
(……そっかぁ)
『……そう、だ』
[ゆら、ゆらり。
揺らぐ、ゆらぐ。
ゆらぎは侵蝕をほんの少しずつ、緩めて。
本来二つの存在だったソレらを、あるべき姿へ戻してゆく]
(なくなったら……)
『……望みは、二度と、叶わぬ、な』
(それ、やーだなぁ……)
『……なら……どうする?』
(…………わっかんね)
『……我も……わからぬ』
[互いに、わらう。声はない、けど]
[どこからか、聞こえる泣き声。
沈んでいたモノたちがゆれる、ゆらぐ]
『……喧しい……』
[何気に、酷い物言いの後。
ゆらり、立ち上る、ぎんいろのひかり。
それは陽炎のよにしばし揺らめいて。
やがて、半透明の姿を形作る]
『……つかれた。ねむい』
[誰にともなく、一方的な言葉をぶつけて。
現れたソレ──銀灰色の、三本尻尾の小さな狐は、眠る少年の横で、身体を丸めた**]
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