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ざぁっと音を立てて風が吹き抜けて行きます。
アイノにつづいて宿へと向かうドロテアは、なんだか嫌な感じを覚えて、不安そうに空を見上げました。
少女の懸念が現実になるには、まだもうしばらく先のこと――
あーあ……ほんと、見られてるなんて思わなかったんだよなあ……
[小さく呟く声は、人には聞こえない音。
幼いころからこの町にいるから、街の住人を襲う気はなくて――だから近くの村を襲っていたのに。
土砂崩れとともに騒ぎ出したドロテアに、深い吐息をこぼすしかない。]
タイミングが、悪いんだよなあ……
これが、もうちょっと後でも先でもよかったのに、なんでよりによって今なんだろ……
[これでも、数日、我慢していた。
一番人が食べたくなる時期。
さっき少女と話していたときも、その手を伸ばさないようにと、止める努力が必要なほどに。]
――でも、俺、未だこの町にいたいから……ドロテアには、悪いけど。
[食べしまおう、とは声にはならず、虚空へと消えた。]
─宿の一階─
ま、落ち込んでて道が開くわけじゃなし。
……まして、非力なアタシじゃ道開ける手伝いもできないし、ねぇ。
[冗談めかして言う所に、主人からベルンハードの行方を問われ]
ああ、ちょっと用事があるから、って出かけてったわ。
そろそろ戻ってくるんじゃないの?
―― 宿の一階 ――
[きぃ、と音を立てて扉を開く。
父親がカウンターに立って居るのを見れば一瞬ぎくり、と肩をすくめ]
あー、ただいま……
[声を掛けながら中に入れば、アイノやドロテアも来ていたことに気づく。
へら、とごまかすような笑みを浮かべて軽く手を振り。
ラウリも戻ってきて居るのなら同じように軽い挨拶だけしておいた。]
―― 宿一階・窓際の席 ――
あまり、人狼がどうのって話はしない方がいいと思うのよ。
なぜって、説明するのは難しいけど。
[小声でそう言って顔を上げると、ドロテアは窓から空を仰いでいた。]
ドリー?
っと、賑やかになってきたこと。
[やって来た者たちに、ひらり、と手を振る。
ベルンハードには、お帰り、と笑いかけつつ、ドロテアの方へ軽く視線を流し]
……あんまり状況、かわってない?
[ぽそり、と尋ねた]
ドリーが、『ベルンが冷たいのー』って怒ってたわよ。
[次の句は、ベルンハードへ耳打ちした。]
ここに居た方がいいと思う?
それとも、連れ出した方がいい?
─宿一階─
ただいまです。
[きぃ、と音を立てて扉を開く。]
……立て付けの悪い扉ですね……。
[一週間以上滞在していればこの音にも慣れたけれど。その前に居た大きな街と比べてしまい、小さな声で呟いた。
集会場に居る人々には小さく会釈をして。カウンターの席へ着く。]
軽い食事と、ミルクを。
[ここ一週間、お決まりのオーダーをした。]
[駆け寄ってきたアイノに不思議そうに首をかしげ、告げられた言葉と、同じタイミングで聞こえたウルスラの声にう、と詰まりながらもしぶしぶと頷き]
結局怒らせちゃったからなあ……
[耳打ちされて苦笑を浮かべ]
んー、たぶん居ても大丈夫だよ。
俺が迂闊なこと言わなきゃ、きっと。
[あはは、と笑うしかないのだった]
[宿に居たのは見慣れた面々。見慣れるつもりはなかったのに、いつの間にか覚えてしまったな、と嘆息する。
街へと向かう旅の途中、一夜の宿を取るだけのつもりだったのが。飾り道具が壊れ、その修理を頼むのに四日。更に土砂崩れで足止めされて三日。自らの運の悪さを嘆くほかない。]
……そのうえ、人狼? 田舎町らしいというかなんというか……。
[口上の練習をしているときに耳にした、化け物の名を口にしてみる。
馬鹿馬鹿しいとの思いをこめたそれは独り言のつもりだったけれど、近くにいた人は聞きとがめたかもしれない。]
……あららー。
まだまだ、修行が足りないわねぇ。
[頷くベルンハードの様子に、くすり、と笑う。
アイノの耳打ちの内容までは聞き取れないものの、その後に続いた返事で何を言ったかの察しは大体ついた]
[ともあれ、ドロテアの事は、年の近い少女同士に任せておけばよいかと思い。
巡らせた視線は、一週間前から滞在している手品師見習いへと]
ため息つきたい空気かもしれないけど、つきすぎると、幸運逃げちまうよ?
[嘆息する理由には思い至らぬものの、軽口めいた言葉を投げかけ]
……田舎町だから、ってのは、関係ないと思うけどねぇ。
ほんとほんと、怒らせないようにするって。
[いぶかしげな顔をするアイノに何度もうなずいてみせる。
ドロテアはアイノの行動を見ていたけれど、ベルンハードには視線を向けなかったから此れはかなり怒っているなあと、苦笑をもらす。]
修行っていってもさー……
しょうがないじゃん、こればっかりは。
[ウルスラの言葉にがっくりとうなだれながらカウンターに座れば、アイノの注文をこなす父親にすら情けないという視線を向けられ深い吐息をこぼす。
そんななか、ふとラウリの言葉が聞こえて軽く瞬き。]
ラウリは人狼なんかいないと思ってるんだ。
まあそう簡単に信じられる話じゃないよな。
[わかるわかると軽く頷きつつ、ドロテアには聞こえないような小さな声なのは当然なのだった。]
ま、これも修行の内と思ってがんばりな?
[うなだれるベルンハードにさらりと言う。
一体なんの修行なのかは、説明はせずに。
明らかに面白がっている様子に、あんまりからかうな、と宿の主人に釘を刺されたなら、はいはい、と笑って頷いた]
手品師さんは
“こわーい人狼に帽子を被せて、指をパチンと鳴らして鳩に変えちゃいます”
みたいなのは出来ないの?
[水の入ったグラスを両手で持った姿で、カウンターの方へ顔を向けている。]
ええと。それはその。
[>>11聞かせるつもりはなかったから、聞かれたとなるとばつが悪い。]
……街の近くには狼がいない、狼を見たことのない人が多ければ、人狼の信憑性だってなくなる、それだけです。
[あまりフォローになっていないフォローを返した。]
僕は旅が多いから、狼も見たことはあるけれど。人に化けられるような狼が居るのなら、人を食わずとも牛でも鳥でも食べればいいでしょう。狩と違ってお金を出せば食べられるんですから。こんな風に。
[最後の言葉は、肉を焼く音のする調理場を指してのもの。
宿屋の息子と緑髪の少女が、黒髪の少女を宥めていたなんて知らないから、声は普通の音量だった。]
信じられないのも当然だけど……
現実に居るんだからしょうがないよねえ……
[はあ、とため息をつきつつ、普通の声量のラウリをあわれんだ目で見ていた。]
うう……がんばる……
[ウルスラの激励だかからかいだかわからない言葉にはあ、とため息をつき。
普通の声量のラウリにあわれんだ視線を向けた。]
あー……そんなこというと……
[ドロテアが怒る、という前に。
少女ががたりと椅子をたって声高に人狼を見たと主張をし始め。
あーあ、と額に手を当てた。]
[ドロテアは、人狼を否定する...の言葉に、「人狼はいる」「見たもの」との言葉を返してきた。]
……「見た」って言われても。
[緑髪の少女に「人狼を鳩に変えられないか」と問われれば、]
僕はまだ見習いですから。師匠ならきっとできるでしょうね。
[そう言ってポケットからカラフルなボールを取り出した。それをドロテアに向けて。]
いいですか、お嬢さん。ここに取り出しましたるは魔法のボール。種も仕掛けもございません。
さあテーブルに置きましょう。ボールはここにあります。貴方は確かに「見」ましたね?
[大仰な動作で、周りの注目を集め、シルクハットを帽子に被せる。]
確かに確認したのなら、この帽子を被せましょう。ここに確かにボールはある! だって貴方は見たのだから。
[ドロテアが頷いたのを確認して、にやりと笑う。それはずいぶん意地の悪いものだったろう。]
はい、ワン・ツー・スリィ!
[シルクハットを取り去れば、そこにボールは跡形もなく。
あっけにとられたドロテアと、拍手を待つ手品師が残るのみ。]
[ドロテアをとめようとした手は空を切る。
ラウリとドロテアの間で繰り広げられる小さなイリュージョンは、しっかり目に入った。]
消えた……
[ぱち、ぱち、とまばらに拍手。]
―― 宿の一階 ――
ドロテアはラウリの手品にあっけにとられてぼんやりとボールがあった場所を見つめていました。
アイノに手を引かれて、「謝って」と諭されても口をへの字にしてラウリを睨みます。
「ほんとうに、見たんだから……
信じなくて人狼に襲われたって、知らないんだから!」
叩きつけるように叫びました。
そしてドロテアは絶対謝らないとばかりに背を向けて、元の席へと戻るのでした。
[叫んで背を向けたドロテアの様子にやれやれと肩をすくめ。
幼馴染のペッカが静かに一部始終を眺めていたのなら、もうどうしようもないというような意味を込めた視線を向け。]
どーしてあそこまで信じ込めるんだろう……
女の勘ってやつなのかなあ…
[ひそひそとドロテアに聞こえない程度の声でぼやくのだった。]
いるわけないじゃない。
[小さく小さくつぶやいて、ドロテアの座る席へ戻る。
ベルンハードとドロテアの顔を一度ずつ見てから、テーブルに並ぶパンケーキにナイフを入れた。*]
ふぅ。
[激高するドロテアを見て、ため息。
あまりにも予想通りの反応をされて、つまらない……などと思いつつ、ミルクを一口。]
[ウルスラ>>23にそうかもなあ、と頷きながら。]
まあ、土砂崩れが取り除かれれば、きっとドロテアだって人狼のことなんか忘れるよなあ。
[とはいえ、いまだに復旧の目処は立たず。
街側で土砂の撤去作業が行われていたとしても、あと数日はまだ確実に閉じ込められたままだろう。]
ラウリもさー、あんまドロテア刺激しないように頼むよ。
[な?とミルクを飲むラウリ>>25に声を掛けて。
それから、ようやく自分の食事も頼む。]
ゆっくりと日が傾いて、夜の闇が町をおおいます。
すっかり拗ねたドロテアは、それでもアイノと会話をしたりしながらパンケーキをつつき。
星がでて月明かりが道を照らすころにようやく家へと帰るのでした。
人狼を見た、と少女が騒いでいても未だ平穏なこの町で。
惨劇が起きるのは*二度目の朝日を迎えたころになるでしょう。*
―― 宿 → 自宅 ――
[夜道。
アイノとドロテアを送り、ペッカも帰途に就く。
送るにも、心配ごかしに並び歩く性分ではない。
年少のふたりが家族に迎えられるのを見届けた、
とその程度。汗の乾いたタオルを提げ道を行く。]
…
パンケーキで落ち着く辺り、ガキだよなァ。
[皆が手を焼かせたドロテアが帰宅するのへ呟く。
仕向けたアイノの手際に感心しつつ怖さも覚え。]
『いるわけないじゃない』――、か…。
[小声ででも、あの場で口に出したアイノは――
友人たるドロテアの取乱しように呆れていたのか。
抑えつつも否定を声にせずにいられなかったのか。
正確なところを推し量ることは出来なかったが、]
女ってのはもうちっと…
人前じゃ繕うもンじゃね?
[…何にしてもおっかねェな、とペッカは思った。]
…気詰まりなンかもしんねェな。
ウルスラ姐も言ってたっけか、
[『気晴らしは、アタシにも必要そう』――
皆の為、特に出産を間近に控える自身の姉の為、
街道が使えない今、村には娯楽が必要だった。]
娯楽って言や、ああいうのなンだろけど。
どうも…進んで人を
楽しませるってタマじゃねーみてェだし。
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