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迷子は大変。
二度と戻れないかも。
[レンの背後を見やる]
大きな荷物……家出?
このへん、村しかない。
町だと……歩くのは、無理。
隣村でも、歩いて2日はかかる。人の足なら。
大切なものなの。
[トランクについて、意にそぐわぬ与えられたセリフを諳んじるように言った]
バス停、探してたのに。
乗り遅れちゃった。
[笑う声もまた、嫌々の演技のように]
[視線をトランクに向けている合間に、気付かぬまま頭をなでられていた。
慌てて振り向く]
な……
[口を『に』の形に開いたまま茫然とレンを見つめ、表情を見て取ろうとした]
宿、ない。一番近くて、隣村。歩いたら、二日。
夜通し歩けば、宿要らず……
[手をぽんと叩いて、家の中を指差し]
今日から、宿屋。
開店記念で、宿賃サービス。
[リウのおかえりという言葉に少し首を傾げたものの]
ただいま、お姉、ちゃん?
[玄関で靴を脱ぎ捨てて廊下に走って行き、また戻ってきて靴を揃えました]
[広間から賑やかな玄関の方を見。此方を見られれば、一たびの礼を。床に手をつき立ち上がりかけるが]
……う。
[足が痺れていたのか、一寸よろけた。ふう、と溜息]
じゃあ、お邪魔させて頂戴。
何だか不安だけれど。
[小声で言って、トランクを運び込もうと持ち上げた。
遠く、カッコーの鳴き声が聞こえて振り返る]
不気味。
[当たり前の用に動くリウとルリを不思議そうに見ながらも、ぼんやりと眺めている]
……宿屋?
[建物は宿というより民宿といったたたずまいで]
あー……。
[蝋燭の中で、【タカハル】という名前を見つけると、顔をしかめ、【レン】と書き直す]
これで、よしっ。
[部屋の中だけれどもサングラスと帽子を取る気配は無い]
[迷う様子もなく、ごく自然に家のなかをぐるりと一周し、広間に戻ってくると、ネギヤの隣で地味にお茶を飲み始める]
やっぱりお茶だよね。
[ちゃぶ台に羊羹などを並べる。
微妙に*じじむさい*]
[蝋燭に気付いたらしい二人を、様子を窺うように見ていたが。その視線はふと、壁面へと向き]
――地球を、七回半。
[そこには薄明かりが照らす黒板。少しく目を細めながら、男は白墨で走り書きされた文字を読み上げる。
後、卓上の束からノート一冊と鉛筆一本を取り。どこかの頁に、その短い文を*書き留めておいた*]
[レンの言葉にはこくりと頷き]
細腕繁盛記。宿屋の、バイブル。
ようこそ、おこしやす。
お風呂にする……ご飯にする?
[一人、玄関先で三つ指をつき、変な人と化している。
やがて広間へと足を向けると、不思議な光景に]
どうしたの、フユキ?
地球を、七回半……
[読み上げられる言葉を、とり憑かれたように*反復する*]
地球を七回半。
確か……光が一秒に進む距離、だ。
……そこに書いてあるのが、そういう意味なのかは知らないけれど。
[リウに向けてまた繰り返し、言葉を足してから]
……。
客、なのかな?
迷子になったから、お邪魔させて貰っているんだよ。
[おじさんと呼ばれたのには、ほんのり落ち込んだようだったが。一言ずつ考えるようにしつつ、*ルリに答え*]
ソラ。
[蝋燭に印された名を読み上げる。
それが自分の名であることを確かめるように]
地球を?
[黒板に目を向けてから、どこか不安げに、茶を飲む人々を*遠巻きに眺める*]
ネギヤ、リウ、フユキ、レン、ソラ、ルリ……。
[蝋燭にかかれた名前を指差し確認しながら読み上げる。
最後にレンの名前の上で指を一旦止め]
これオレの名前。レンっていうんだ。よろしく。
ここってお客さんの名前を蝋燭に書くサービスしてるの?
面白いね。
地球を七回り半か。光の速さ。
1光年って単位があるよね。光が一年かかって移動できる長さ。
いまオレたちが見ている星ってさ、何光年、何十、百、千光年も離れてる。
だから、いま見えている星の光が見えているだけで、本当にその星がいまもそこにあるかは分からないんだ。
[淡々と説明をすると、にこっと笑った。
サングラスの下の目は見えないけれど、口と眉は笑みの形]
[フユキの言葉にしばらく何かを考えていたが
突然床の一点を中心にして、その周囲をぐるぐると7回転半。
回り終えると、ふらふらとよろめき、息を切らせながら]
はふ、はふぅ
……何秒?
光、速い。世界、まだ遠い
[床に倒れ込み、呼吸が整うまでしばらく休憩]
[フユキの視線の先を見やり、黒板に気づく。
黒板の前へと進み出ると、書かれた文字をじっと見つめる。
やがて白墨を手にすると、おもむろに何かを書きはじめる。
辺りにカツ、カツと白墨が削れる音が響く。
書き終えると、白墨を置き手をぱんぱんと払う。
白い粉がはらはらと床に舞い落ちる]
○月×日 たぶん晴れ 日直 リウ
[書かれた日付はなぜか霞がかかったように
ぼんやりとして認識できない。
文字の隣にはデフォルメされたキリンの落描き。
しばらく黒板を満足げに眺めていた]
[卓上の束から、表紙にキリンの絵が描かれたノートを取り
広間の食卓の上に置く]
……宿帳。
[まだ真っ白な二ページ目を開いて、その脇に鉛筆を*置いた*]
温泉ない。露天風呂なら作れる。
ドラム缶……庭に運ぶ。
[レンに名前を呼ばれて、不思議そう。
戸棚に近づき、蝋燭を眺める]
……蝋燭が、宿帳?
[名前の書かれた蝋燭にそっと触れ、少し*悲しそうな顔*]
おじさん迷子なんだ。
私も町に行った時に、迷子になったことがあるの。
お母さんが迎えにきてくれたから良かったけど・・・。
おじさんも、きっと誰かが迎えにきてくれるよ。
[フユキが迷子で落ち込んでいると思い込み、元気づけるように*言いました*]
今見える星が本当にそこにあるのかはわからない。
同じように、今見えている宇宙も……
遠い端ではもう終わり始めているのかもしれない。
[レンの説明に、詩か何かを読むように続け。羊羹を勧められれば、頂くよ、と頷いて]
ああ、私はフユキという。
迷子、なんだろうね。目的地を見失ってしまったから。
[肯定に続けた言葉はどこか曖昧に]
怪しい奴。……
危険人物は来ない事を祈ろう。
光にはまだ遠い、かな?
[七回転半して息を切らすリウに、首を傾げ。その後黒板に何かを書き付ける様を見守る。やがて書き終えられた文字とキリンの絵とを見て]
ああ。何か学校のようだね。
出席簿も必要になるかな。
[日付の部分を幾分注視していたが、ふと目を逸らし。広げられたノートの白い頁を一瞥した]
うおっほん。
[低い声でわざとらしい咳払いを一つ]
……起立礼前転着席。
出席を取る。ええと……
[蝋燭に書かれた名前をひとつひとつ読み上げていく]
……ん。
誰かが迎えに来てくれたら、嬉しいね。
[ルリの言葉に、何か悟ったように頷き。それから慰めに同意し、口元に小さく笑みを浮かべ]
[聞こえる返事には、顔と名前を覚えようとし]
自由選択。
[フユキにふるふると首を横に振り
手伝いを申し出たソラに、首を斜めにかしげて]
露天風呂作り?
庭に石を積み上げて
ドラム缶を運んで
薪割り小屋から薪もいる。分担する?
[女将の歌を口ずさみながら、ドラム缶を取りに*勝手口へ*]
そう、なら良かったよ。
体育の成績は悪くてね。
[ふう、と息を吐いてみせ。立ち上がるリウに]
あ、私も手伝うよ。
[と言って*後を追い*]
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