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あ、いや、ええと?
[なにか地雷を踏んだらしい。
だが、当然のことを口にした以上の心当たりを思いつかない男は、目を白黒させるだけで]
あ、うん。
[頷く]
いってきまーす。
[退散を決め込んだ*]
……ったくもー、もっと言いようあるでしょうがっ。
あーもー、珍しくオシャレしようと思ってミュール買ったけどさぁ。
履き慣れないわ歩き難いわ靴擦れ起こすわ散々だわ。
挙句にサンダル呼ばわりとかなんなの。
そりゃあ私はお淑やかでも何でもないわよ。
家に引き篭って物語書いてるだけだし、ヒッキーもいいとこだわ。
お爺ちゃんがお婆ちゃんみたいになって欲しいって同じ名前つけてくれたけど、私生まれる前にお婆ちゃん死んじゃってるからどんな人だったか分かんないし。
同じ誕生日で同じ名前にしたからっておんなじようには育たないわよっ。
私は私だっつーの!
[零れ落ちる文句は段々と明後日の方向へ]
― いま ―
[最大ボリュームの追撃に、つんのめりそうになりながら]
さすがモミジさん。
[ぽり、と頭を掻いた後、とこらえきれずに笑う]
女子力っていうか、
女性らしい、とは思うけどね。書いている本とか。
[明後日の方向へと続いている文句は耳に届かないから、
安心してつぶやいた*]
[どうにかこうにか、アンと、それからケンの顔を見て理解する]
おかえりなさい、ですかね。
少しだけ、あなたたちより多く年を取ってしまいましたよ。
─ 2014年 夏祭り ─
え、ケン君それ二つとも一人で食べるの?
お腹壊さない?てか溶けちゃわない?
まぁでも待ち合わせじゃないなら良かったー。
アン探してたんだけど見つからなくてさ、ちょっと今動きたくなかったんだよ〜。
あの子携帯持ってないから連絡つけられないしさ〜。
はぐれた時用に待ち合わせ決めとけばよかったんだけど、決める前にいなくなっちゃってー。
ね、ケン君。この後暇だったらだけど、アン探すの手伝ってくんないかな〜。
お礼になんかおごるし、ほら、アンと合流できたらケン君両手に花だよ?
─ 2014年 夏祭り ─
と…え、いいの?
イチゴも食べたかったんじゃないの?
や、私も暑いし食べていいなら喜んでもらっちゃうけど。
…あー、うん。
折角冷たいのが溶けちゃうのは勿体無いね。
んじゃ遠慮なくもらっちゃう。
えへへ、ありがとねー。
しかしカキ氷のシロップってしっかり色ついちゃうよねー。
私ブルーハワイ好きなんだけどさ、あれってすっごい青になるじゃん、舌とかもろに。
その点イチゴはいいよね、唇赤になっても可愛いしー。
お化粧とか柄じゃないけど、口紅ひいてもらったりしたみたいじゃない?*
─ むかし 祠 ─
[鳴弦の響きの後、聞こえたのは何かが落ちるような音]
[視線巡らせた先にいたのは、一番最初に消えた少女と]
……あなた、は。
[知らぬ姿に、ぱちり、瞬く]
[戸惑う所に、アンが化粧師さん、とその人に呼びかけるのが聞こえた]
[それが微かな記憶を繋げて]
[祭りの時に訪れていた化粧師だと気づく]
[今世で握りつぶされ、散る花弁を視界に収め。
何かの終わりを察する。
祭りは、無くならないだろう。
花盗人も、いなくならないだろう。
しかし、そこに力が宿らなければ――。]
解った。この花と引き換えに。
帰る道を教えてあげる。
[彼女の本音。
くつり――。
紅く引いた紅で笑む唇。
青い星砂はサラサラと散りばめられて。]
さぁ、お帰りなさい。
戻ることを願われているのだから。
[やがて一筋の道が出来たのなら。
今世へ帰る、道しるべとなろう。]
―― 回想 はざまで 再会を望む時 ――
[青い小さな花を携えた姿は、誰かの姿を待つ。
同じ遣いを受けた、その姿を。]
戻ることを望まれているのならまた、
帰る場所に待つものも居なければ…
寂しいものじゃないのかね?
[さて、記憶が薄れていた「コエ」の持ち主は。
此方へ戻ってくるのか、それとも――*]
―― 2014年 8月 1日 ――
ちょっと! 栂村! これお釣り多いって!
[手渡された五百円玉二枚を返そうと、追いかけるがなかなか捕まえられず。]
くっそー、どうすんのよ、この小銭。
[口惜しそうにビール酒まんじゅうに齧り付く。
メイクが崩れたらあいつに直してもらおう。
そんなことを考えつつ――]
あ、綺麗なミュールね。
あなたにお似合いだわ。
[靴擦れを起こして休む姿を見かけ。
その足許に置いてある青いミュールに目を留める。
どこか懐かしい色。
目を細めて――]
─ 2014年 夏祭り ─
ああ、そういやあいつ、携帯持ってないんだっけ。
[おかげで連絡網とか面倒なんだよなあ、なんてちょっとだけ思いつつ]
ん、どうせぶらっと見て回る心算だったし、手伝うのは構わんぜー。
……両手に花は、ともかくとして。
[組み合わせ的にちょっとどうよ、なんて思ったのは口には出さず。
いいの、と聞かれると、ああ、と頷いた]
ブルーハワイも悪くないんだけど、あの色がなー。
ガキの頃は面白がってたけど。
[なんて軽く返しつつ、レモンをしゃくしゃく。
ひやり、冷たさが喉を落ちて行く感触が心地いい]
イチゴのシロップが化粧っぽい、って発想はなかったなあ……。
普段、そーういうのと縁遠そうだけど、自然に出てくる辺りはお前も女子なんだなあ。
[その冷たさを楽しみつつ、素で言った言葉が。
かなり酷い物言いなのには気づいていない、鈍感がひとり。*]
[カメラを提げた青年は、ぱたり、ぱたり、気怠げな歩みで熱気の中を進み、かき氷屋まで進んで]
……お?
[ふと見えた二つの人影、
ケンとマシロのそれに、立ち止まった。ややあってからにっと笑い、カメラを構えてファウンダーを覗き込んだ。 かしゃり。
ちょっとした隠し撮りに、気付かれたなら]
んー? やー、夏の熱愛発覚かと思ってんよ。
そんなんとは違ったけ?
なーん、いい記念になるやろいね。
[などと、軽口を叩いて笑っただろう]
― むかし ―
(ああそうか)
[ぷつり、と。
茎の折れる手応えを感じたのが、この世での最後の記憶。
なにかを悟る、とか、感慨にふけるとか]
(そう、走馬燈だ)
[何かを思い出す、なんてこともなく。
少しだけ気になると言った村の行く末どころか、ヤンキー座りするンガムラの姿さえ、見えず]
(これにて、おしまい――)
[物思う自我も、かき消えた*]
― あのよ ―
[ひら、]
[青い花びらが一枚。
下方へ落ちて、波紋を散らす]
[ぴちょん、]
[水滴が落ちるでもないのに、
いくらか先に、広がる波紋]
[ひとつ、もうひとつ]
赤ワインはインパクトが弱かったかな。
あーん。
美味しいんだけどなぁ。
星の砂さま、星の砂さま、どうか赤ワインの売り上げがぐぐっと伸びますように!!
あ、いらっしゃいませ。
[花が摘んだ人間の願いを叶えるならば、代価(花)もそれと同じだけの力がある……と願ってもそうははいかなかったことも、それが、自分自身の記憶を削るものであることも、それ故に、忘れてしまった。
ただ、送ることだけ、贈ることだけ、憶えている]
……。
[足音は、ないまま]
あ。
[さまよい歩いた足は、漸く止まる]
[道の上に立ち、参り道を逆に辿る]
…………
[一度歌姫を振り返った後、胸に青い花を抱いたままゆっくりと歩を進めた。
歩むにつれて近付くひかり。
胸に抱いた青い花は解けて、靄となり宙へと解け行く。
異質な場所にありながら消えることのなかった記憶。
ここまで来れば守るものが無くとも忘れはしない]
[先に戻ったケンに遅れて、モミジもまた時の進んだ世界へと舞い戻った*]
…そろそろ行くとするよ。
すぐ戻るって皆に言って来ているから、あんまり遅いと不安にさせてしまいそうだし。
シンヤ君、色々ありがとう。
それじゃ僕はこれ──…
この、音…?
…すまない、シンヤ君。
少し付き合ってくれるだろうか。
僕の勘違いでなければ、もしかしたら…いや、行けば解る。
一緒に行こう、迎えに行くんだ。
[青い花を携えたひとがいる。
見ている先は、青い星を敷き詰めた道の方だろうか。
ふ、と笑えば。
揺らいでいた存在が先ほどまでいた世界と同じように模った]
……かえりみち、どっちだっけ。
[そのひとにかける声音は、そっと*]
音が聞こえたのはこっちだったよね?
あぁもう、暗いと走り辛くていけないな。
早く…、あっと、ここ木の根が出てるから気をつけて。
───…あぁ。
やっぱり、勘違いじゃなかった。
アン、ケン君。
みんな、お帰り。
帰ってくるのを、待っていたよ。*
記念は、記念やろ。
……折角の夏祭りやさけ。
皆の姿が撮れたら、
後から見ても、こう……
いいと思わんけ?
[ケンに、口数は多くも悩み混じりに言っては、笑い]
学級新聞のネタにも最適やじ?
なんて、うち学級新聞ないけどー。
[照れ隠しに、そんな冗談を付け足した]
─ 2014年 夏祭り ─
そうそう、いい加減持って欲しいんだけどおばさんが駄目って言ってて〜
…あ、ほんと?手伝ってくれる?
ありがと助か…って、何よぅ私とアンに文句あるの〜。
これでも近所のおばちゃん達は綺麗になったって言ってくれてるんだから──…っ、
あー…カキ氷って美味しいけどなんでこー頭痛くなるんだろ。
うんそうそう、子供の頃は皆で舌見せあいっこしたりもしたけどね。
えー、だって唇まで赤くなるじゃん、コレ。
女子だからっていうかー、男の子だって化粧する子いるらしいよ。
ケン君もしてみる?リップ位なら今持ってるし塗れるよ?
これでもいちおー、女子、ですからー。
─ 2014年 夏祭り ─
ん?
なになにケン君、どうし…あ、シンヤ君だ。
やっほー。
って、え、何、やだばれちゃったー?
なんてねー、シンヤ君もカキ氷買いにきたのー?
イチゴで良かったらあるよ、私の食べかけだけどケン君からもらったのー。
あ、そだそだ。
シンヤ君さ、どの辺見てきたの?アン見なかった?
はぐれちゃってさ、探してたんだー。
折角のお祭りだしさ、少しでも一緒に遊ぶ時間欲しいじゃない。
アンも誰かと一緒にいるならいいんだけど。
一人はさみしいもんね*
― いま ―
結局手伝わないまま祭りは無事開始してるし。
[準備の手伝いを頼まれた。
盛大に遅れたのは、引き出しに入っていた、古い日記を読みふけっていたから]
日記、じゃないよな、あれ。
[えらく細かい字は、自分のものとそっくりで。
日記と言うよりは、備忘録――]
いや、
[記憶、か?
思いついた単語に首を振る]
―― あのよ ――
[耳を掠めた懐かしい声に。
目を細めては、尋ねられた言葉に。
くつり――。
いつもの訳ありの笑顔を浮かべ。]
かえるの? なら、案内するわ。
[その為に待っていた。
だって、アタシとアンタは相棒でしょう? と。
くすくすと立てる笑い声に。
続く道もまた、青くうつくしく、瞳に映し*だされていく*]
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