情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 4日目 5日目 エピローグ 終了
[1] [2] [3] [4] [5] [メモ/メモ履歴] / 絞り込み / 発言欄へ
― 廊下 ―
それにしても、人におしごとを頼まれるなんて、久しぶりだねぇ…
[介護棟へ戻る廊下を歩きながら、少し前のことを思い出していた。
我が家は、おじいさんが死んだ後、息子がほぼ完全にリフォームした。
バリアフリーにはなったものの、満州から引き上げて以降、ずっと動いていた柱時計が、針の音がうるさいし大きくて邪魔という理由で捨てられたのが寂しかった。
そのすぐ後の話だ。
孫は大学へ、嫁と息子は働きに出ていた。
あの日も、みんなのために、まだなれない新しい台所で夕飯を作ろうとしていた。
いつものように作ったつもりだったが、フライパンから火の手が上がった。
ぬれぶきんぬれぶきん、と探したが、思った以上に台所の配置は変わっており、ふきんがみつからない。
あれあれまぁ、どこだろう、と探しているうちに、炎は高くなり、真上の天井に触るくらいになった。
少しこげたにおいがした。
それでもふきんをさがして下の棚に頭をつっこんでいる時に、後ろから早くに帰ってきた嫁の声が上がった。
『おばあちゃん!何やってるの!!』
[棚から顔を出すと、嫁がコンロの火を止め、バスタオルやら大きな鍋の蓋やらをとにかくかぶせるようにするところだった]
…ごめんねぇ…
[何もいいようがなく、ただ座り込んで謝る自分を、嫁は大きなため息をついて見下ろした。
使えない奴、という目だった]
―自動販売機前―
[病室で本を読んでいたものの、何度も何度も読み飽きた本は退屈すぎた。
このままだと爆弾が爆発しなくても死んでしまいそうで、本を閉じて廊下へ出る事にした。
とはいっても院内だって歩きなれていて、新鮮味など存在しない]
あーあ、つまんないなぁ…。
[せめてお金があればジュースを買えるのに。
と、未練がましい気持ちを胸に自動販売機の前まで行ったところで、声が聞こえて]
どりんくばーで、おなかいっぱい?
[きょとんとして、首をかしげた]
[そんな目でみられたことに衝撃をうけた。
自分は美人だとは思わない。
でも、昔からよくちゃきちゃき働くねぇ、手際がいいねぇ、と褒められてきたものだ。
今日は火があがったけど、これまでだってちゃんとみんなのご飯を作ってきたのに。
当の嫁だって、義母さんは台所のことなら何でも出来ますね、と言ってくれたから、わたしが色んなことを教えてきたのに]
『…これからは火を使わないでください』
…うう、うぇえええん
[怒るような言葉と、見下されたことに、つい涙がこぼれた。
嫁はもはやこいつ超面倒、という表情を隠さなかった]
何もするな、なんて言わなくてもいいじゃないか、ねぇ
[思い出を振り切り、ふっと顔を上げると、廊下の自動販売機の前に、大体1ヶ月くらいに1度、検診を受けに行く外科の先生の姿が見えた。
近づくと、立ち止まってぺこりと頭を下げる]
こんにちは、先生
いつもお世話になっております
[そして少し考えた後、問いかけた]
あの、やっぱり外科のお医者さんから見ても、わたしはぼけているように見えますかねぇ
[自分の呟きが、木霊して帰ってきたのか。
いや、にしても声が若いか。
首を傾げながら顔をあげると、人影があった。
聞かれたか?
ああ、聞かれたろうね。
だから、木霊したのだものね。
苦笑いを浮かべながら、小さく手を振った。]
やぁ、どうした
君もジュースを飲みに来たのかい?
[誤魔化す手段が思い浮かばなかった。]
[苦笑いついでに、辺りを見回す。
丁度こちらに近づいて来る老女の姿があり。
若者は、彼女が下げる頭に合わせてお辞儀をする。]
いえ、その後お加減はいかがですか
[お世話になっております。
お加減はいかがですか。
いつでも、どの患者とでも、行われるやりとり。
彼女と自分とは、孫ほど歳が違うと言うのに。
それでも、先生なのだろうか。]
ぼけてるように、ですか?
一般にいう、ボケ、と言う奴はですね
言ってみれば、人より多くの時間眠っているような物なのですよ
子供が寝ぼけて、枕を抱いて歩き回る
それと同じような状態なんです
ですから、意識がはっきりしている間はなんの変りもありません
医者にかかる時のように、ある程度緊張を伴う場では見られないのですよ
[子供特有の好奇心の詰まったような輝く瞳で見つめ上げた後、首を左右に振り。
二つに結った髪の毛が動きにあわせるように揺れて]
ううん。
あのね、おこづかいは、にちようびに200円もらえるの。
だからね、るり、いまはせつやくしてるの。
えらいでしょ?
[無邪気に笑顔を浮かべ、口の横にえくぼを浮かべた]
医者の目から、と言うと可笑しいですが
私の目から見れば、今の貴女はしっかりしていらっしゃいます
立派な淑女でいらっしゃいますよ
[若者は立ち上がると、淑女と少女に椅子を勧めた。]
どうぞ、お二人のレディ
飲み物、飲みませんか?
御馳走させて頂きますよ
そうかい、節約してるのかい
とても偉いね
[200円って、それで何を買えと言うんだ。
まぁ、親御さんがお世話を焼いて下さるのだろうし、個人で持つお金はそのくらいで大丈夫なのだろうか?
小さな少女に笑顔を見せながら、若者は考えた。]
何か飲みたいかい?
お兄さんが御馳走するよ
賢いレディには敬意を払わないとね
[すっかり灰になったたばこを、私は携帯灰皿にねじ込みました
この灰皿は、かみさまの吸ったたばこもしまわれてきたものでした
わたしは柵の方まで歩いていって、それから、下を覗きこみました
豆つぶみたいにちいさなひとたちが歩いているのが見えます]
[ここから落ちたら、かみさまの所へいけるでしょうか
かみさまはたかい所にいるのに、落ちてたかい所へのぼれるのでしょうか
いずれにせよ、ここから落ちたら痛そうです
わたしは、いたい事は好きじゃありません
かみさまがそうだったように。
ふわりふわりと、風に髪の毛がなびきました]
[医師と老女の会話は、殆ど理解出来ていない。
だから丸い目をさらに丸くさせながら、首をかしげ]
おばあちゃん、ねむいの?
あのね、ねむいときは、ひつじをかぞえるといいのよ。
かんごしさんが、おしえてくれたの。
[分かる部分だけを拾って解釈し、にこにこと笑う。
本人はアドバイスのつもりのようだ]
[大丈夫だと言ったのに、
具合の悪そうな男性は椅子に沈む。
病院に病人が居るのは不思議じゃない。
でも少し気にかかったのは、
その人が、大丈夫なふりをしたから。
少し、見つめていると。
冗長な溜息と呟きが。私の耳に届いた。]
…なら、手紙を書いて。私に。
[暇を潰す提案を。]
[豆みたいなひとたちが、せかせかと動いています
きゅうくつそうなスーツをかっちりと着込んで、息苦しくないのでしょうか]
……あ、
[そんな豆つぶたちの中に、見覚えのある影がありました
ひろくんです
それから、一緒にいるあのお寺さん、名前はなんて言ったかしら
きっとわたしに会いに来てくれたのでしょう
部屋にもどらなくっちゃ、わたしはぱたぱたと屋上のでいりぐちへ向かいました]
うん!
[ほめてもらえて嬉しかったらしく、相手の内心には気付かぬままに満面の笑みを浮かべて。
御馳走が奢られるという意味なのは理解出来て目を輝かせる]
ほんとに?
ありがとう!
るりね、ジュースがすきなの。
オレンジジュース。
くだものをね、おみまいでもらうけど、ジュースのほうがおいしいんだよ。
あまくてすっぱいの。
そうかい、るりちゃんはジュースが好きかい
オレンジだね、待ってて
[コインを投入して、自販機でオレンジジュースを買う。
甘くて酸っぱい、と言うのはどう言う意味だろう。
このオレンジ、酸っぱかったろうか。
まぁ、好きだと言うのだから良いだろう。]
はいどうぞ、オレンジジュース
[少女に差し出すオレンジ色の缶。
子供が笑うと言うのは、無条件に可愛らしいものだ。]
[1] [2] [3] [4] [5] [メモ/メモ履歴] / 絞り込み / 発言欄へ
情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 4日目 5日目 エピローグ 終了