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あれ...?
[なんとなく動きたくねーなって、ぼーっと海を眺めてたら、また一瞬歌が途切れた]
また、か?
[兎のまくしたてた台詞が蘇る、狭間に落ちちゃった、誰か......
がさり、と胸元で手紙が音を立てた]
『見つけないで』
(探しに来て)
[歌声の途切れた隙間に、入り込む、こえと、コエ]
......やっぱ、人探すか。
[鍵と螺子を探す気は起きない。けど、巻き込まれた人間が知らないうちにどーにかなっちゃうとか、ちょっと笑えねえ。
笑えねえんだよ、ほんと]
[流木から立ち上がって、街の方へと引き返す。多分、あっちに人がいるって気がする。
勘だけど.........なんかこう、匂いみたいなのがすんだよ。
人に会ってどうするかなんて、まだ決めてねえけどな*]
[パオリンと紅葉、二人に向けた問いへの答えはどうだったか。
自分の耳──というか、意識には、相変わらず歌が届いている。
懐かしさを帯びて響くそれは、今どこでどうしているかも知れぬ者──『一族会議』とやらの決定で別れさせられた者のそれと重なって。
それが、捜したくない、捜させたくない、という思いとするりと結び付いていた]
…………。
[ふる、と首を横に振る。
話の途中、一瞬意識が浮いたのは暑さのせいか。
いずれにしろ、浮いた意識は歌声に浚われて]
…………。
[何となく、呼ばれたような気がしたのは、やっぱり暑さのせいだろうか。
ともあれ、からん、と下駄を鳴らし。
朝顔が呼ぶよに揺れる方へ向けてある気だした。*]
[同じくらいの年かな、なんとなく、最初に会ったのが女性じゃなくて良かった、て気がするあたり情けねえ。]
兎に無茶振りされてるって意味なら、御同輩ですかね。
[なんとなく営業用スマイルで、近付こう、として、足が止まる]
『見つけないで』
(見つけたよ)
.........あんた、
[近付きたいような、逃げたしたいような、微妙な気分。
なんだこれ?]
[がさりと、また胸元で手紙が音を立てた。俺は息を整えるように吸い込んで、足を踏み出す]
俺は、我邑夏生...
ここで会ったのは、あんたが初めてなんだけど......
[とりあえず、自己紹介だろ、ここは、ああ、けど...]
.........あんた、鍵か螺子、持ってないか?
[いや、ストレートすぎるぞ、俺!*]
……てぇ……はい?
[鍵と螺子、それは兎の捜し物で]
いや……持ってるくらいなら、探す必要は……。
[ないでしょー、と軽い口調で言いかけて。
ふと、生じた疑問。
持ってるなら探さない。
探そうという気になれなかったのは、持っているから、だとしたら]
あー……。
[ふる、と首を横に振る。
なんだか頭の中がごちゃっ、としてきた]
ていうか、そこでそういう直球投げてくるそちらさんこそ、どーなんですかと。
[少し思考をまとめる時間が欲しくて、返したのはこんな問い返し。*]
いや、その...
[そりゃそうだ、持ってるなら探す必要ねえよな...あれ?]
兎が、誰かが持ってるかもって言ってたんで、つい......
[ここは謝っとくとこだろ、なんか疑ってるみたいに聞こえたに決まってるし、て、思ったんだ、思ったんだけどよ]
.........俺は、良く判らないんだ。
[問い返されたら、ほんとに判らなくなった。あの歌と、こえと、コエ...
近過ぎて、遠すぎる...]
いや、すみません、わけわかんないですね。
[なんとか浮かべた笑みはぎこちなく見えただろうと、自分でも思う**]
……なあ。
探されたくない、見つけないでほしいって。
そう、思うのには、なんか理由があると思わん?
[口にしたのは、多分、聞く方にはかなり唐突な言葉]
その理由が、はっきりせんと。
……無理に見つけだしても、また、ループするだけのような気がするんだよね、俺は。
[言いながら、懐に手を入れる。
鎖を通した、未だに処分できずに持ち歩く名残を軽く、撫でて]
兎が言ってた、時計の主……だっけ。
『それ』は、『何で』沈んでるのか。
それがわかれば、なあ……とか。
そんな事思ってたりするんたけど、これ、おかしいかね?
[相変わらずの苦笑いのまま、こんな問いを投げかけた。**]
─ 診療所 ─
[夢を見ていた。
海岸に立って波打ち際を見つめていると、
どこからか白い霧が立ち込めてきて、なぜか自分はこの海の上を歩けると確信する。
そして、波の上に足を乗せる……。
海の上から振り仰ぐと、崖と灯台と青空が眩しかった。
でも、自分はもうあの場所へは行けないのだと思った。
舞台やTVドラマのスモークの演出よろしく、初音は霧に包まれる。
白すぎて何も見えない。
そう思った瞬間、落下する感覚に全身が総毛立った。]
[海に落ちたのだ。
青、青、青。
叫ぼうとして、初音は気づいた。
自分が処置室のベッドで上半身を起こしていることに。
眠っていたのは数分か、数十分か、あるいはそれ以上だろうか。
動悸のおさまらない胸でヴァイオリンケースをぎゅっと抱え、背中を丸めた。**]
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