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いやだなあ、先生。
絵馬なんていずれ捨てられちゃうじゃない。
そんなものにお願い事は書いてられないよ。
[猫少年が顔をあげた隙に布巾で口の回りを拭いた。
ともだち…と言われれば]
ああ、そうだね。
ともだち、だよ
[と猫少年の頭を撫でる]
友達じゃあないな。
[鈴木の疑問符に否定の言。
エビこの問いに一瞥して]
ん?
物置に落書きがあったんで、思い出しただけです。
あいにく、願かけるようなものは持ち合わせてないですね。
ぇへー
[エビコとホズミに、目を糸のようにして笑う。グンジの否定する言葉には、目を瞬いて]
…ちがぅ?
[少し悲しそう。きょろきょろと辺りを見回して、]
いるぅ?
[何もない空中の一点を見つめて、手を上げて挨拶する。]
落書きですか?
相合傘とか……?
[そう言えば、神社の柱にもいっぱいあったなぁと思い出す。]
先生は願掛けないんですか?
ツチノコを見つけたい、とか書けばかなうかもしれませんよ。
願い事は燃やしちゃいけないのか?
[日本って広いなぁと思っている]
ああ、居るよ。
すぐそばに。
[鈴木の頭を一撫でしてから、椀に口をつける]
相合傘の二人、別れてたら気まずいだろうな。
[箸を持った手で口元を多い、くつくつ笑う。
ツチノコと言われると、ああと呟きはしたが首肯はせずに]
それは紙の人形を燃やしたときに願掛けしました。
おさかなに、食べられるの?
ずいぶん大きい魚なのね?
[震える少年に、何か上着はないかと見回した。
不意に、彼の衣装を用意していたマシロを思い出し、言葉に詰まる。
その服はいまもここにあるのに。]
[グンジに頭を撫でられると、にーっと笑った]
…おねがい、もやすと、みんな、もどって、くる?
[フナムシをくれた少年の姿を空中に探している]
戻らんよ。多分な。
[言い淀み、鈴木から気まずげに視線を外す]
狼煙でも上げてみるかね。
[テーブルの隅に置き去りにされている広報誌を見やる。
お悔やみ面。
閉じるか迷ったがそのままにしておくことにした]
[視線は空中を彷徨わせたまま]
おさかな、おっきい…おぉきぃ…ぉおきぃ…
[またかくかくと震えている。細い瞳には恐怖の色が濃く現れて。]
…さむぃ…つめたぃ…あおぃの…
中には絵馬に書いてお祭りで燃やす、って子もいたけどさ
あたしはずうっと残しておきたかったからね。
[むしろ、書いた、というより彫ったに近い願いの言葉は
―『絶対、一人前になって帰ってくる!』―
その言葉通り帰ってこれたのはきっと言葉を残したからだと]
魚は今はないなぁ。
[などと猫少年に語りかけたがその視線の先を一緒に見た]
あらやだ、何もないじゃない?
何か見えてるの?
[首を傾げる]
佐々木君?
大丈夫?
やっぱり貴方、具合が悪いんじゃ……。
お布団で寝る?
[震える少年に、とりあえずと自分の着ていたカーディガンをかける。]
[いつの間に炊事場を出ていたのか、
入り口のほうから再び現れる]
なんだ、にぎやかになってんな。
[豚汁を取った手のひらには緑色の軟膏が
塗られているのが見えるかもしれない]
うぅん…みぇない…ちがぅ…だめ
たすけて…じぃちゃ…
[浴衣の上にかけられたカーディガンに、震えは少し収まったか。]
らぃど!
[入ってきたライデンをすがるような目で見た。]
ときどき見えるよ。
[ホズミの問いが自分へのものかはわからず、小さく言った]
ライデン君おかえり。
[少年がライデンの名を強く呼ぶ様子にやや目を丸くした]
おっきい?
さむくて、冷たい…
[猫少年の言葉を反芻する。
それはさっき自分が勢いで振り払った嫌な感覚によく似ていた。
ふと何もいえなくなって口をつぐむ]
……ふっ
[口をつぐんだのも束の間、現れたライデンの掌を見たならば
不意に笑いがこみ上げた]
やっぱ、薬屋、なんだねぇ。
[おびえたように震える少年の様子に]
…薬がいるだろうかね。
[風邪の薬か、気の薬か。]
糖衣のなんか、もってきてたっけねえ。
[半分冗談で言うが、心配そうに]
ライドウさん……。
佐々木君の様子がおかしいんです。
震えて……。
[薬屋にほっとした顔で少年を指し示す。
その少年が何事か呟くのを聞き取ろうと、口元に耳を寄せた。]
おじいちゃん……?
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