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夕刻:屋上
[荒い呼吸を繰り返しながら屋上へと辿り着く。
傾き掛けた太陽が、やけに大きく空を染める。
屋上の端から端まで目を凝らすものの、そこに鎌田の姿は無かった。
半ば呆然とよろけながら、中庭寄りの柵へ身を預けて階下へ視線を巡らせると、ボールを抱いた少女の姿が確かに見えた。]
――…さん、……鎌田さん!
戻りなさい、……外になんて出たら、 …………ッ!!
[免疫力が著しく低下している筈だった。特に、少しでもつまづいて怪我でもしては命に関わる、と……、伝えようとした言葉は若しかすると、更に彼女を追い詰めるだけになってしまうかもしれなかった。
けれど、それを考慮するだけの余裕も、今の自分には存在しなかった。
冷たい柵を握り締め、聞こえるかすら解らぬ言葉をただ、叫ぶ]
……はぁ、やだやだ、クサクサしちまって。
顔までしょっぱくなったら、婆ちゃんどうすりゃいいんだい。
奈緒ちゃんの検査終わって、元気になったら
くれぇぷ食べに行くって約束したじゃないかい。
しょっぱい顔で甘いもん食べても幸せになれないよォ!
[ぱしん、と乾いた音を立て、老婆は両頬を叩いた。]
よっし、あたしァあたしなんだからしょうがないじゃない。
奈緒ちゃんもご家族の方と一緒の方が
検査怖くなくなってたのさ、うん。
……孝治くんや、あの羊の子も、
ご家族と会いたいんだろうねェ。
羊の子……千夏乃ちゃん……だっけかね、
会えてたみたいだけど……
孝治くんは、どうなんだろうね。
うん、明日ァ 奈緒ちゃんの体調聞きに言ったら
二人のところォ行ってみようねェ
小春ちゃんの所行ったか聞いてみたり、 ああ、またお菓子広げたり……
今度ォ、中庭とかでピクニックするのも楽しいだろうねェ
体が足りないね……あたしがもう二人でもいたら完璧なんだけどさ……
あんたもお話しするだけじゃなくて――――あら?
[腕の中にあるはずの人形がない。
そう思った時には、足を滑らせて彼女は水の中だった。夜の海は暗く、冷たい。
けれど、彼女が滑り落ちたのは岩場であり、浅瀬の方だった。助かる可能性はまだあった。岩場の隙間に、足を挟まなければ、助かる可能性の方が高かった。]
[彼女が感じるままに口にしていた思いや考えは、いまや水に阻まれ、何一つ言葉になることはない。
皺だらけの、水分を失い干からびた手が何度も、黒の海を突き破り海面を掻いたが、それが意味をなすことはなかった。その手に、彼女の家族である人形が触れることもなかった。
「あんたもお話だけじゃなく、動けたらいいのにね」
老婆が言いかけた言葉が現実になったとしても、家族と老婆の距離は縮まることがないゆえに、老女の死は依然として孤独なものだっただろう。けれど言いかけた言葉は、言いかけのまま。言わない言葉は無いも同然のものだ。]
あンら……
いえね、……夢ェ見てたみたいだよぅ
やだねえ婆ちゃんになるとすぐ寝ちまって。
体調は大丈夫かい。
そんなら今日は 届出だすよォ……
かわいい女の子になりに行きますってさァ。
おすすめのお店、案内してくれよう。
海
[夜の海に浮かんだ泡沫と飛沫は、すぐに収まった。
水の跳ねるような音が消えた後は、
ささやかな波音が、それまでと同じように繰り返す、穏やかな時間が到来した**]
真夜中・314号室
……寒い。
[目が覚めたのは、夜中のことだった。
病室にはしっかり暖房がかかっている。それなのに、酷く寒い。体が凍りつきそうだった。
千夏乃は毛布を頭まで被って、震えていた。
風邪をひいてしまったのだろうか。夜眠る前までは、なんともなかった。今日は一日おとなしくしていて、食事もいつもどおり食べたし、薬もちゃんと飲んだ。それなのに、まるで冷たい水の中にいるように、体が冷たい。]
だれか、よばなきゃ
[何かあったら押すように、と言われていたナースコールのボタンに手を伸ばしたが、冷えて感覚のない指先ではなかなかボタンを探り当てられない。やっと見つけて、しかし押したかどうかわからないうちに今度は酷い睡魔に襲われて、千夏乃は深い深い眠りの底に引きずり込まれるのだった。]
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