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[―――と、視界ジャックの対象が集会場から変わる。
教誨所の裏手に向けて移動する低い姿勢。抑えた呼吸。]
「…かくれるまえに わすれものをとりにいかなきゃ」
[水の中や布団越しに聞こえたような声。
ノギ自身はギンスイの事を然程知りはしない。
旧家から覗く顔。格子窓越しに見えたギンスイの顔は、感情を顕にしない人形のような顔だとノギは感じていた。
―――少年の名は住民簿になく、其れもまた、この村への不安と疑念を深める一つの要素だった。]
[ ざ ざざっ ざー ]
[その主を解さぬ視界へと瞬時、切りかわる。]
[途切れ途切れ、砂嵐の向こうに見え隠れした、村役場の光景]
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[赤い涙を流す美津保、上ずる早口の少女の姿。
その二名を切り替えた視界の中に認めた瞬間、
少年はその少女の視界へ自身の感覚をつなぐ。
――若い警官。
有象無象の屍人たちの他、瞳の主を確かめる。
赤い涙の滲みさえ見逃さぬつもりの…「凝視」]
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「知っている?」
[無邪気に笑う少女の姿が見える。]
――なにを?
[問い返す声も、また幼い]
「うふふ、知らないのなら。
まだ、教えられない」
―― 野良ネズミの視界 ――
ぴちゃん
……ぴちゃん
[滴る音。その液体の色は定かではない白黒の世界。
ほとんど光のない洞窟を、小さなネズミは歩いていき、人の気配を察知すると物陰に隠れるのだった]
「――手…みが…き…の。
招待…み…い。
結…す…みた…
あ…な奴、死…え…い…のに」
[綺麗に折りたたまれた便箋。
封書の中には、華やかに飾られた一通の招待状。]
「盛大に祝福されている最中に、
土砂でも隕石でも落ちてきて、
皆死ねばいいのにっ!」
[呪いの言葉を綴る女の声と泣き崩れて霞む、視界。]
[塩昆布にジャムを乗せたお茶請けを、
美味しそうに口にする家族を、
低い位置から眺めている。]
――……。
「みけも食べたい? 美味しいよ?」
[家族のひとりが、楽しげに塩昆布を差し出した。
ふい、と拒絶するように視線を逸らす。]
[ 目標をロストした男性は、のろのろと歩きだした。
どこへ向かうのだろうか、話は通じるのだろうか――屍人の中には人間としての意識を残す者もいると聞いているが。
ふと、よぎる考えがある。
もしも話が通じるのならば―――]
―― ある女の視界 ――
[村を眺める動きの最中、一瞥された手元の新聞。
何か発されている言葉は、波長が合わないラジオのように聞き取れない]
[―――もしも話が通じるならば。
この村のどこかにあるらしい、異界との“境界”。
その、在り処について訊いてみたい、と。
古い文献には、屍人ははじめ、“境界”を守護するために生まれたと記されている。
それは真実か否か、そして―――その役目は、今もなお伝えられているのだろうか?]
[ギンスイがアンの視界をジャックしている事には気付かない。ノギは、携帯した武器の重さと、手に伝わる命の暖かさを感じながら、路地裏の表を徘徊する人影に意識を向けた。]
[――視界ジャック。]
[彼等の視界を擦り抜け、安全な場所へ行く事は出来るのだろうか。それは、誰にも分からない。]
…付いてきて。
[アンに一声かけ、ノギは屈み込む。歩き回る彼等の視界に少しでも入らないようにする為、だった。辺りは夕暮れ。否、夕暮れの影響だけでなく。村は、赤く、染まっていた。**]
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