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―若葉宅―
…ん?若葉ちゃん?
[体を揺さぶられる感覚で目を覚ますと、見えた姿にふと、昔の呼び方で呼ぶ。しかし、呼ばれた方はきょとんとした様子で]
あ、ごめん。双葉ちゃんか。
ははは、昔の夢を見たせいかな。間違えたみたいだ。
おはよう。起こしてくれてありがとう。
[起こしに来てくれた双葉の頭を撫でると、布団を畳んで、双葉と一緒に朝食へ]
アンさんが?
[ホズミにつられて姿を探すが、既にその場を離れてしまったようだ]
逃げられちゃった、か。妙な話だね。
栂村さんを怖がってるとか、そういう訳でもないだろうし。
何かあったのかな……。
[首を傾げるばかりで、答えは出て来ない]
何を怖がる必要があるー、よね。
あれ、私も今逃げられた形?
[思案顔]
こうしていても暑いだけよ、進もう。
カキ氷食べたくない? 氷。
そうですよねぇ。
[アンが向かったと思しき方向を見詰めてから]
氷? そりゃ食べたいですけど、仕事がまだ……
[言いながらも、見えない引力に引き寄せられるかのようにホズミの後を追う]
あっついなぁ。
仕事は氷を取ってから行けばいいのよ。
[暗に、運んでくれと意味をこめる。
相変わらず扇子で扇ぎながら、天然氷のありそうな方へ進む]
そうだセイジ君。
今度の生贄って誰だか知ってる?
[円卓を囲んだ食事を終えれば洗い物を済ませ、双葉は先に縦笛を嬉しそうに持ったまま学校へと向かって行った。]
そろそろ儀式のための生贄が決まる時期だね。
決める前に村長さんは必ず私のところに来るからなんとなく解るんだよね。
[これは内緒だけど、とダンケの方を向いたまま人差し指を唇の上にあてて言う。]
そうですね。
ちょっとは涼まないと、体が持ちそうにないし……。
[氷のひんやりした感触を思えば、それを運ぶくらいはお安い御用だった]
あ、生贄ですか?
そういえば、まだ聞いてなかったな。
[集会所に居た年寄り連中なら知っていたかもしれない、と]
え、誰を、って……。
[訊ねられて、困ったような顔をする]
……ネギヤさん、かな。
柔らかそうというか、脂が乗ってそうというか。
[彼の餅肌を思い出しながら答えた]
ホズミさんは、食べたい人とか居るんですか?
[机に置いて読んでいた本を閉じ、元あった場所へとしまう。それから冷たい茶を湯呑みに注ぎ、縁側へと腰掛けた。年寄り臭い。いわゆる悪ガキで有名な少年に、そうからかわれた事を思い出しつつ]
今日も、暑いですね。
……けれど、秋も遠くはないのですね。
[足元に落ちている二匹の蝉の死骸を見て、目を細めた。烏や猫やであれば不吉にも感じるだろう死骸は、夏の終わりの蝉である限りは、珍しくもなく]
儀式の生贄は、1人 だからね。
[理由を問うのならそう答えて、食器を洗い終えれば仕事の支度を始める。
古い戸棚を開けば母が残してくれた手記らしきものが大切そうにしまってある。そこには仮に殺人が起きた時にどう対処すべきかなども記されていたものだった。]
さ、ほらほら。
ダンちゃんもそろそろ畑行かなきゃ。
お野菜さんたちがお水待ってるよ。
それじゃあ、仕事行くね。
[戸棚から鉛筆と紙を取りだし鞄へ詰め込んで出勤の支度。
診療所の方には
『本日は学校と回診日です。
戻りは夕方ころです。』
と、張り紙をしてから家の外へ向かう。]
ひみつー、ですか。
[誤魔化された事に釈然としない顔をしたが、ノコギリと紐を手渡されて]
はいはい。
氷は少し余分に食べさせてくださいね。男なんで。
[お駄賃を要求しつつ、氷を探しに洞窟の中へ]
ほわー。
今日も暑くなりそうだぁ…
[蝉の鳴き声を聞きながら
陽が昇り始める村の青空を見上げた。
学校へ向かう前にその足で小料理屋へと向かった。**]
おはよう。若葉さん。
うん。美味しそうな匂いだ。
[居間に入ると若葉に挨拶をして、いただきます。と手を合わせて、朝食を食べ始める]
ポルテさんを?分かった。じゃあ、畑に行く前にでも行ってみる。
そいつは助かる。それじゃあ、今日もお願いしようかな。
[ポルテの事を頼まれれば頷きつつも、続く言葉には嬉しそうに答え、頷き合う親子を楽しげに見つめる。食事を終えると、片づけを手伝いつつ、学校へ向かう双葉を見送って]
うん。そろそろ決まる時期だねぇ。
へぇ、そうだったんだ。
[生贄がなんとなく分かるという若葉の言葉に驚いた表情を見せて、人差し指を立てる仕草に黙って頷く。]
ちなみに、若葉さんは誰だと思ってるの?
[声を潜めて聞く]
それなら取っておいて、後で冷たい水として飲みますよ。
[見付けた氷をぎこぎことノコギリで切り取っていく]
昔? どうなんだろう。
砂糖も貴重だったんだろうしね。
[今も贅沢に使える訳ではないが]
他の飲み物を冷やして固めたりはしてたのだろうか。
……よいしょっと、こんなもの?
[切り出した氷を指差す。
小振りだが二人で食べる分くらいはあるだろう]
はい、お疲れ様。
[ノコギリだけ受け取る]
触ってるだけでも贅沢だったかもしれないね。
[と、氷で冷えた手のひらをセイジのうなじにぺとり。
そして脱兎]
おっと、そうだね。そろそろ畑に行かないと。それじゃあ、また後で。
[若葉に急かされると、若葉と分かれてまずは滝に水を汲みに向かう。]
…………。
[放置された氷に紐を巻いて手提げ状にする]
こんな洞窟がいくつもあるとは思えませんしね。
[ホズミに同意していると、うなじに冷たい感触]
うわ!?
[思わずびくっとする]
こら、ホズミさん!
[された事を理解して声を上げるが、相手は既に逃げ出した後]
もう……からかわないでください。
[ぶつぶつ言いながら、氷を持ち上げた]
[ノコギリの刃先をスカートの裾で拭って元あった場所へ仕舞うと、洞窟の方へ声を張った]
セイジ君、知ってるー?
氷ってね、溶けるんだよ。
[はしゃぎ声を上げて、木陰を早足で進む。
時折、振り返って姿を確認しながら]
わかってますよ、そんなこと……!
[氷を提げて、ホズミの後を追う。
荷物の重さが邪魔をして、なかなか追い付けない]
まったく、いい年してはしゃがないでくださいよ……。
[時折こちらを振り返る様子が、からかわれているようで余計に癪だ。
それでも折角の氷が小さくなるのも嫌なので、歩調を上げる]
[そのうちに自宅を出て歩き始めた。時にゆっくり、時に慌しく行き交う人々とすれ違う。未だに心に引っ掛かっているアンの姿は、辺りには見付けられなかった。
村人達の会話には、一日一日と、儀式の単語が増えていっているようだった]
いい年って言ったから、カキ氷は1杯しかあげない。
[ずかずか歩いていくが、その歩みは日差しが強い道に差し掛かると緩む]
暑い。暑いよ。
……あれ、ンガムラさんかな。
[道の先を指差し、振り返ってセイジにそう尋ね]
アンちゃん居たけど居なかったですよー。
[先ほどと同じように、扇子を持ったままの手を振る]
や、だからそういう所が子供っぽいって――
あ、栂村さん。
[ホズミとの言い合いは栂村の姿を見付けた所で中断した。
彼女に訊ねられて頷く]
そっか、元々栂村さんがアンさんを探してたんだっけ。
[そう呟いて一人で納得した]
嗚呼。今日は、ホズミさん。
セイジさん。
[見えてきた二つの姿。声をかけられると、小さく頷くようにして挨拶を返した]
居たけど、……
やはり、逃げられてしまったのですか?
[ホズミの言葉にそう確認する。返事を貰えば、そうですか、と頷いただろう。藹々として見える二人の様子には、微笑ましげに]
氷ですか。毎日暑いですからね。
おや。私まで……良いのですか?
折角取ってきたものを。
[ホズミに言われれば、大きくはないだろう氷塊を見て、首を傾けるようにして]
―滝―
[滝に向かう前、一度自宅に帰り、木桶をもう一つ持つと、滝で水を汲み]
よいしょっと、家から出れないと水も汲めないだろうし、持って行ってあげようかな。
[両手に木桶を下げ、まずは水を届けに小料理屋へ向かう。**]
……もはや何も言う気はありません。
[ホズミの『ふーんだ』に諦め顔をする]
逃げられた……。
やっぱり、いつもと様子が違うんですか? アンさん。
[先程ちらりと見ただけではよくわからず、栂村に訊ねる]
ああ、氷は良かったらどうぞ。
[栂村の返事があれば、溶けないうちにとかき氷の準備を始める*だろう*]
そうですね、はっきり何処がどうとは言えませんし、気にするべき事ではないのかもしれませんけれど……
普段のアンさんとは違っていたように感じます。
[先日垣間見た姿を思い出しつつ、セイジに答えた]
有難う御座います。
では、宜しければ。
[重ねて勧められれば、そう言って*頷き*]
[座って、紙に何か書き付けている]
『 ばーちゃんへ
帰りが遅いのでその辺を探してきます。ばーちゃんはごはんでも作って待っててください。絶対外に出ないで待ってて。
あと、ほかほかの梅おにぎりがいいです。
万代 』
[ため息を一つ。そして何かを振り払うように頭を振ると、殊更ふざけた調子で]
…まったく、年を考えてよね…。
どこまで遊びに行ってるんだか…。
―木陰―
[村に一台しかない氷削機を借りて来ると、適当な木陰に入って氷を削り出す。
器の上に、氷片がはらはらと積もって行く]
はい、じゃあまず、ホズミさん。
[器に小さな山が出来た所で、ホズミに手渡した。
ついで栂村の分を作り、最後に残りを全て自分の器に削り落とす。
他の二人よりやや大きな山に、満足げに笑んだ]
ポルテさーん。
お邪魔しますね。
[ダンケが水を汲んで持ってくるより前に朝の回診で彼女の元へ向かった。
問診の後、体温を計り―――常より高めの体温に思い悩む顔。]
あの、ポルテさん…
もしかして ――――
[幾つか質問を繰り返してから]
…暫く無理はしない方がいいと思います。
体調が良くなるまで時間がかかるかもしれません。
また明日来ます。
[数日ぶりに学校に来ても職員間では儀式の言葉が飛び交うようだった。
同時に、アンの様子がいつもと違うことも自然と耳に入った。狭い村は少し広い家と似ていた。
保健室へと向かえば白い布に囲まれた世界。
椅子に腰かけて机に頬杖をつく癖。]
そういえばマシロちゃんのお婆ちゃん
見つかったのかな。
[窓の外の天気は相変わらず良かった。]
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