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[侮蔑の視線を向ける赤毛の男に目を向けることもなく、女の股に顔を埋めようとしたとき、
薪を運ぶ男の一閃に、気狂いの男は、打たれたように大袈裟に転がって、やや、痛い痛い、と身を捩らせた。
されど、打った本人にはわかるだろう、本当は、それは掠めた程度で、元は軽業を業となした男は、それをひどく打たれたフリをしてごろごろと地面に転がってみたことを。
それからは、彼らとはやや距離をえた場所で、それから起こる出来事をにやにやと、だけど、表面上は仮面のような顔でみつめている。**]
[――魔性討たれて、その日は変わり。
陽のささぬ夜明けの海に、
赤毛の青年が逆さに浮いていた。
信仰に眩んだ瞳の僧が糸で切り刻む間も
ヘイノを押さえつけていた彼の枷の鎖は、
引かれた様に水底へ垂れてとぐろを巻く。]
まだ死ぬ訳にはいかない、と
言っていたのだったか。
[皆も気付き出す頃、浜辺から眺め――*]
死儀を執り行う私が弔らえば救われるのですよ。
どんなに穢れていてもね。
それを邪魔する奴などは、堕ちてしまえばいい。
[ケラと笑う、笑う]
死の主導権を奪おうとするお前は一人で逝け
[か細い糸で狙うは首一つ。
しかし死体をバラすようには行かずに糸は、赤く染まる
赤い朝露が滴り落ち、僧の指が一つ、二つ落ちる]
……
「気づけば何もない
指の激痛に囚われながら、赤い川を作りながらも
男は石女の死体を片づける]
ああ、気に入らない。
気に入らない
気に入らない
気に入らない
死を御しようとするモノがいるのが
気 に 入 ら な い
[守るべきは己の信仰に沿った世界]
絶望しかない滅びの世界であっても、理に沿って滅びるべきだ
[バラした女の断片を食む]
あの告発した若者はドコに消えた?
[弔い損ねた男を探索するようにさまよう]
[とむらいの在りよう占めて譲らぬ僧へ
口出しする者は、今のところいなかった。
他の生き残りは仮面外さぬ物狂いの軽業師に、
虚空の死人へ話しかける重石つきの学者――
堅物の執行人が話しかけるのは、
いきおい、無気力そうな男になる。]
"彼"のああした姿は、
よほど魔物じみていると思うが…
[彷徨う僧を示し見遣って首を動かすと、
フェルト帽の四ツ房が重たげに揺れる。]
さし当たって、
"食糧"の分配が滞るほうが問題だな。
[端的に、本音と建前を並べて提示した。]
… 助勢を頼めるか?
[揺れるエリッキの返答待たぬ侭に、さくり。
霜柱を踏んで、弔いする僧へ徐に歩を向ける。
斧の頭はやがて、不意打ちに風切る音を立て*]
[桟橋を引き摺る金属に壊しながら、
赤い川に浮く指の一本を拾い上げポケットに入れた。既に僧によって胴とは分かたれた女の脚の一本に、ツバのみを引っ掛ける。
――そして血の匂う獣臭い毛皮とを引っつかんで男は機嫌よく一度塒へ戻った]
研究者にとって、
資料というのは大事で貴重なものだからね。
[広さだけはある朽ちた作業場、船の墓場のようなその場所の一角に飾られたいくつもの“資料”に囲まれ眠るのが男の常のこと。満足げに資料を飾れば、指の一本にふと眉根を寄せる]
ああ、しかし、そうか。
これの持ち主は―――、生きている。
それは、いけない。
[片手には昔この村がまだ今より幾分良かった時に作った僧杖
今は朽ちて、飾りのあった面影
鈴は錆びて、揺れるたびに、細い輪を削る]
私が弔わなければ、誰が弔う?
この身に、鳥達を取り込んで、私は皆を救う為に、同化する。
[罪悪感と、己の価値観を崩す魔物、そして己を支える為の狂信]
……
[足を止めて、振り返る]
貴方は死の理を守るモノか?
ならば静かに通してもらいたい
ならば貴方が尽きた時、弔ってあげます
一緒に天に召しませう
[ケラと笑う]
[気狂いの男は、笑みを隠しながら、眼の前の凶行を見物していた。済ました顔や、猛々しい僧、自らが犯した学者の姿が無気力そうな男とやりとりするのもすべて、楽しげに。
赤毛の男や、何か喚きながら凶器を振り回してた男、彼らが、その命を消す様も、眼を爛々としてみている。舌なめずりちゅるりと。]
ほうほう、分配するのですか。美しい行為ですね。
[斧の男の言葉にはそう答えつつ、赤毛の男が海に浮かび、魔物と呼ばれる男。それらの肉が行った海を惜しそうにみやりながら、女の肉はぺろりと舐めた。]
[浜辺に至れば、水に浮く赤毛の男の亡骸。
沈む鎖ごと引き摺って、浜にその躯を転がした]
おや、君、魔物に引き摺られたのかね。
……取り込むは、後悔すると言っていたか。
しかし、わたしは好奇心が旺盛でね。
[手にある錆びついた鑿は、屍より肉を抉る。ひとつは己のポケットに運び、ひとつは己の口に運ぶ。屍より抉る血肉の味は]
……やはり、甘くはないものだ。
[不意打ちを避けもせず、僧は足を止めただけ。
――――彼の右肩へ、斧は半ばまで喰い込む。
静かに振り返る相手の挙動に合わせて
ぐと斧を抜き取ると…飛沫くいろが霧めいた。]
守るもの ではないね。
死のことわりと言うならば、
…そういう名を負ってきたので。
[ほんの数日前だった禊の水の、
赤黒さを…彼の脚衣に見つけられない。]
禊は、もうやめてしまったのかね?
[斧の男に話しかけられ、そちらに首を巡らせた。]
…“魔物”は死んだんじゃないのか?
[男たちが落ちた海のあたりを指をさすが、
斧の男の視線の先、女の死体を食む僧侶をみ、]
…さぁ、な。
[“彼”を魔物と評してしまえば、皆“魔物”ではないか等と。]
ん?…助勢?
[聞き返した時には、既に僧侶の元へと男は歩みよっていて。]
ああ、分け前をいただけるなら…?
[懐に手を入れつつ、近づく前に、斧が風を切った。]
穢れていないのに禊は必要なし
これは私が取り込んでしまった鳥の代わりにする功徳。
[斧はか細い肩の骨を切り砕く
男はゆっくり座るように跪いた]
私が死んだら、誰が魂を天に還す、肉を大地に還す。
貴様は、それを分かって、殺すか。
[自分の死を前にしても腑に落ちない表情]
なぜ、殺すか。
食いもしないのに殺すか。
意味もなく殺すのは、お前もアレか。
[曲解した言葉に、己を奮い立たせるように、釣り糸を伸ばすが、そのまま力尽きたように倒れた
瞳は信じられないと言わんばかりに見開いて]
おや?
[次にその視界に映るのは、
斧が一閃、僧の肩にくい込む場面。
そこから、きらめくように血が吹き出す。]
―…慣れていらっしゃる。
[人を殺める行為に、躊躇いが見えぬ者へ、それまでとは違う声色で、目を細めた。]
[ゆっくりと倒れ伏す僧侶を少し離れた場所から見ていた。]
…助勢はいらなかったな。
[手馴れている…知らず気狂い男と同じ感想が浮かび、傍に近づくのは躊躇われ、足は止まった。]
[反撃や逃亡を織り込んだ斬撃は、
失血に長く長く痛苦の微睡みを伴う致命傷。
無い指の付根が蠢くのを見詰め、]
…… 生き肝をくれ。
[誰の声にも応えることなく
エリッキへ"助勢"を*頼んだ*]
[ポケットの中、長い指はそぎ落としたばかりの耳朶の曲線をゆっくりとなぞりあげる]
――その人ならざるもの、も、
喰らえば力を己が身に取り込めるかね?
ああ、……興味があるな。
[振り返る、霧のように細やかに飛沫く赤。
細められた男の目に滲む熱は欲の色]
[血しぶきをあげる僧は、そのうちにどぅっと倒れる。]
ああ、海の肉、そして、ここにも新鮮な肉。
一つは酒につけておきたいものですな。
[そうつぶやきながらも、斧の男がエリッキたる男にかける声に首を傾げ…。]
[倒れる男、事切れようとする命。
ぞくりと背筋を走るものと湧き上がる焦燥。
一瞬の後、我に返る]
そういえば、何故、殺しているのかね。
よもやここでまで、職務に忠実であるというわけでもあるまい。
[ずず、と引き摺る重石に手を触れた。はらりと白い甲殻類が剥がれ落ちその下、
錆びた金属の色を覗かせる]
[笑いかけてくる気狂いに、
よくも笑うと学者は薄く眉根を寄せる。
じくりと残る痛みと、もうひとつ。
問うに根拠は何もない]
アレを呼んだのは――、君か?
[呪わしき水底の、絶望。
絶たれるべき望みなどここには何もないのに*]
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