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…ふぅん。
ま、つまらないわね。埋めてしまったの。
狼に食べさせたらまた時間稼ぎができるとか思う人、いなかったの?
[薄い唇にそっと当てる指先は手袋をせずに僅か赤く]
ビャルネ様が無実…と。成程ね。
何方からそれを?…あぁ「保身のために」いえないでしょうけれど。
疑惑と真実が交わるのみ、と。
そこには秘匿も、あるのだわね。
無ければ、そんな険しい面持ちで
帰ってくるものではないよ。これが怯える。
[これとは相手ゆえに指しもせず仔犬を示して、
ぐずと鼻先へいつもの音を立てる。怯える、と
口にするほどには当の仔犬は怯えもせず―――
ぱふりとマティアスの脛へと両の前足をつく様子]
否、こちらの用件で上がり込んだのだ。
あたしがやろう。
[慣れた室内を進む相手に声をかけ立ち上がる。]
先刻の問いは覚えているかね、"49"。
…そうか――有難う。
[言って、立ち上がる相手に指で水場を差し、自身はストーブの近くへと。
あん と 子犬が鳴く]
…勿論だ。
答えもこう、単純なものだ――
…――何か合った時の為、
機転を利かせろと言ったのは…
――お前だと、記憶している…。
[低い声 顔を蛇遣いへと向け
口元に浮かべるのは、微かな笑み]
[コトリ。カウコに茶を渡そうとする手は、もう彼に触れた折に着いた血の色はない。自分の分のカップを両手で包み、彼の言葉に黙し耳を傾けた]
…………ありがとうございます。
ひどい問いだったのにに答えを頂け感謝します。
ただ僕は…
長老が今日も誰かの名を挙げる心算だったなら…
あるいは誰かの手にかかるなら…
僕ではないかと思ってあそこへ赴きました。
でもそれは死ぬ為でなく出来るだけ生きる為です。
[彼の言葉の終わって後に口を開き、不審も信用も過分になれば危険が増すであろう状況で、弁明をして叶う限り人をいかしたいが為とは伝わるか否か。彼の想いとは違えど厭う事はなく、静かに頷いて茶を啜る]
説得が無理ならせめて村を襲う理由を聞きたい。
いかしいきる為の手段と同時に…
誰ともなく話す事しか僕には思いつきませんでしたが。
[コトリ。一本だけ脚の短い机にカップを置き、手を伸ばす先は容器の並ぶ棚。ひとつを手に取り、カウコへ差し出す]
…傷薬です。
化膿止めくらいにはなると思います。
[傷の事を訊ねるよりは、先に置いた問いに答えてくれた彼が来訪を求めた件を聞こうと、温まり湯気にも曇る事のなかった眼鏡の奥の眼差しが促す。彼が狼使いか否かよりは、薬を持つ事を知られる事に怯えるように視線を逸らした]
まぁともかく。ビャルネ様が無実というのなら……さぁて…あのイカレ帽子屋さんから何が聞けるかしら。
えぇ?イカレ帽子屋?どこかの遠い遠い国の御伽噺に出てくる帽子屋さんですって。
保身か、秘匿か。どこで見極めるかは…死後でも十分ではなくて?
死人にくちなしとはいうけどね。
狼らへ受け渡せば、時間稼ぎにはなるだろうが。
出来るものなら、死は二度もたらされるべきではない。
[イェンニの赤みを帯びた指先を見ながら、感情に染まらない声色で告げる。やや緩慢に瞬きをし]
私ではない。それ以上は、言わない。
その者が直接に伝えない限りは。
あるいは、その者が死んでしまわない限りは。
[言えないではなく言わないと。己の意思を含む行動]
彼を殺した貴方がこわいです。
でも疑いで人を殺す貴方は狼使いには見えない。
…装っているだけかも知れませんが。
[訥々と語り、カウコを見上げる。曇らぬ眼鏡をはずせば、彼の姿は滲む―――カリといつもの癖で眼鏡のつるに歯を立て、かけなおした]
[ビャルネの亡骸を見つけ、アルマウェルが
埋葬するのを見届けてから別れたその後]
…やっぱり疑ってた、ってことなんだろうね。
うむ。せいぜい恩に着ろ。
[教えられた水場で壺から水を汲むと、薬缶を
ストーブにかける。蒸気の噴出すだろう注ぎ口を
自分のほうへ向けて置くのは、村で教わった流儀]
…
…
それは、あたしにしか通用せん理由だな。
…それで、自己評価はどうだね。
好い機転だったと思うか?
[半ば呆れの面持ちで、マティアスの口元を見遣る]
問いが酷いんじゃなくて――俺が酷いんだよ。
[言葉はどこか自嘲めくも笑ってはいない。
茶を受け取れば礼を添え、一口含む。
返されるレイヨの声に耳傾け、ゆっくりと、嚥下して。]
……――そういうのを、見てから動くのも、
良かったかもしれんな。
[どこまでを理解してか、そう呟いて。
それでも早まったとは想わない様子ではあり。]
お前が、まじない師なら――死んだらダメだ。
俺のとは、"性質"が違う。
生きる者は差し出すくせに。
綺麗言ばかり。いやぁね。
やはり保身ときますか。
いいわ。死で無実を知れるなら、それを繰り返せばいいだけよ。
ありがとう。ではまたね。
皆にそれを伝えるのでしょう?
…むしろ「理由」が必要な事だと、
思わなかったな――?
[歪めた口元を戻し、素直にまっすぐな言葉を零す。
蒸気の向こうへ向いた気配に、
頬を僅かに緩めたのは、一瞬]
ただ、気になったから行っただけで…
――正直なところ 効かせる機転も何も…だな…
[差し出される傷薬に瞬き、レイヨを見やる。]
ウルスラにでも言わなきゃないかと想った。
……ありがたく、使わせてもらう。
[しかし傷薬をもらいにいけば怪我の理由を問われると。]
説得と言えば、マティアスが――狼と話せば
狼使いに声が届くかと、俺に聞いたことがあった。
――止めても行きそうだったから、狼だけからは
"守っていた"、――俺の血を以て。
ひとつ、教えてくれた礼だ。
ひとつ、情報かかえとけ。
綺麗事。……違うな。
これはただの私欲だ。
[イェンニの言葉に、表情と声色は変わらずも、返した内容は何らかの心情が過ぎるものだった]
犠牲の可能性を減らすためだ。
嗚呼。力と血を以て、深奥を暴かん。
[続けた言葉は普段と変わらず。確認には頷いて、踵を返す。止められなければそのまま歩き出し]
正直、誰の真偽もわからんし、結局自分しか信じてない。
でも、それで滅びるのは俺らだから。
お前の言葉を最初に信じてみるのも一興だ。
味方同士で殺し合うのも滑稽ではあるけどな。
[お茶をもう一口すすり]
――こういう力だから。
誰かの盾になるのが俺の力だから――
俺が死ぬ代わりに誰かが死なないなら、それでもいい。
だから、迂闊な殺しも一番にやっちまったのかもな。
[そして付け足すように]
……本人の血なら少量で済むから、
守られてくれる気があるなら、
ちっとだけ分けてくれると助かる。
俺の血ばっかでやると、俺が勝手に死にそうだ。
[最後は軽口に似た言葉。]
俺が死んだら、俺は誰かを守れたと想うだけだから
俺が自分を守ることはない。
[守らないのか、守れないのか――真相は本人の*内*]
貴方と僕は違います。
…どちらもひどいのだと思います。
[笑まぬ自嘲の言葉に笑まず答えるかたちは、いつかトゥーリッキに面白いと語った言葉とも似る。早まったとも思わぬ後悔のない様子の彼の言葉―――死んだらダメだ―――俯いてしまわぬように彼を見たまま唇を噛んだ]
…僕がわかるのは死んだ人だけです。
それでもこの力が少しでも役に立つかも知れないと…
彼女を止められませんでした。
[性質と言うカウコの言葉に焔から彼へ視線をあげて、生きる意思のあるのを示すようにぎこちなく軋みそうな所作なれどうなずいた。傷薬を渡した彼の言葉―――ひとつの情報にマティアスにも想いは流れる]
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