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ね? 僕の聲が聞こえるひとが、言っていたでしょう?
「人狼はかみ殺す」って。
[既に事切れた姿を見下ろしたまま、彼は残念そうに呟く。言葉の意は綿雪のように軽く、地に落ちた刃物の、鈍く反射する光の前に消え去る。]
ちゃんと忠告したのに――、残念だったね。
あぁ、でも「ハズレ」を引いたのは正解かな。
[手に滴る鮮血を舌で舐め取りながら、数時間前自身に向けられた文句を思い出し、拗ねたように息を漏らす。]
喰らい尽くす前に邪魔が入っちゃった。だからヒントを与えのに…。
[ひとの姿で再び捲る物語は、かつての人狼審問を綴る。ひとと人狼、そして介入する存在が刻まれた。]
[もうすぐ夜が明ける。
目が覚めると同時に、人は命ある事実に感謝しながら、新たな犠牲となった者を嘆き悲しむのだろう。]
でも、僕には関係のない話だ。
君にとっては、多少関係のある話なのかな?
やっぱり同じ人間が亡くなると、悲しいむものなの?
[くつくつと押さえても漏れる嗤いで、口許が歪む。]
[夜にだけ聞こえてきた声に、気紛れに訊ねるも答えを欲することもせず。新雪が足跡を消し去る内に、彼は村を後にする。]
あぁ、この本には、人狼に加担し自ら犠牲になる人間の話もあったけど――…
やっぱり人間は信用に足らない生き物だってことが、今回よく解ったよ。
[重苦しい音を立てて閉じられた本と共に立ち去る姿は、二度と振り返ることは*無かった*]
―― 村の入り口 ――
[同じ場所へは二度と来ない。
総てを喰らいつくそうが、まだ獲物が残っていようが、命ある内に立ち去れる幸運に肖る獣は、場所を捨てる。
第三の介入者が居たお陰で、思うように狩りが出来なかった彼は、痕跡が消えかけた村の入り口にてふと立ち止まり、短いため息を吐いた。]
別れを惜しむことなんて感傷的なこと。する間柄じゃないし。
早く去ってしまいたいんだけどなぁ…。
[聲を封じた人狼は、この村で出会った聲が聴こえるひとに囁くことはもうない。踏み潰す雪の感触を確かめるように、また一歩踏み出せば、もう後ろの世界は過去のものになる。
躊躇うことなく次の歩を進めるだけなのに、彼はその次の一歩を踏み出せずにいた。]
……気のせいかな? なーんとなくいけ好かない臭いが鼻につくんだけど。
きっと気のせいだよね。だって僕等が奴らを殺せないように奴らには僕等は殺せない。
[一度閉じていた本を、気紛れに再び捲りだす。
辺りにははらり、はらりと擦れる紙の音だけが、暗闇に響いては雪に存在を*奪われていた*]
しかしなんで僕はこんなところで立ち止まっているんだろうね。
[自らを追うものが厄介であることは見当が付いているにも拘らず、彼は冬の夜に佇む。
そもそも厄を齎す存在とは自分等のような立場からは邪魔以外何物でもないが、相手からは異端審問に係らない限り脅かす存在でもないだろうに。]
――気まぐれとか。
それとも…喰った相手に特別な情があった、とか?
[嘲笑のように口許をゆるく歪めて、ふと思い止まる。
特別な情とまではいかないが、自らもまた、聲の届く少女へと興味本位で問いかけていた。]
「わからない」か。
[同じ人間(なかま)が命を奪われる事について。少女は「わからない」と答えていた。両親が死した時は悲しかったがと付け加えて。]
時が許したなら、もう少し話してみるのも良かったかもしれないね。
でも――…
[体温を奪われつつも感興に熱のこもる唇を、指でなぞる。
紡ぎかけた言葉は、浚うように吹いた一筋の風によって意味を失った*]
あーあ、ベッドで愛を囁いていてくれたら良かったのに。
それとも、デートの途中だったとか?
[風が、変わる。頬を撫でる感触に目を細めて、彼は空を見上げた。
ため息交じりの冗談は軽く、一度宙に舞い足許に転がる。]
なら、僕は邪魔ものだよねぇ。
ねぇ、そろそろ帰ってもいいかな? 僕、君らに追われる必要が無いと思わない?
[しかし、忘れ物と声を掛けられると訝しげにも声の方へ振り向く。]
栞?
べつにいらな――…
[言いかけて、口を噤む。思惑があるのなら乗ってみるのも一興かと思い、気まぐれに相手の出方を窺う。]
別に照れる歳でもないでしょう? お姉さん?
[予測より速いスピードで近づく姿に瞬きはしても、口許を歪めた表情は変えず。]
そうだね。だってそれが僕らの生きる糧だから。
人が家畜を殺し、植物を刈り、血肉へと変えるように。
[ローズマリーの手から離れた栞は、夜風に舞う。
ひらひらとあてもなく彷徨う姿は、まるで彼自身のようで。]
つかまえた。
――で、僕じゃない誰かの恨みを、僕で晴らすつもり?
[向けられた銃口に、彼は鮮やかな微笑みを向けた。]
[硝煙の臭いがいやに鼻につく。鮮血が辺りをひとつ、ふたつとしたたり落ち、まるで雪に散る花のようだとどこか夢見心地で彼は眺めていた。]
逆恨み、ね。それにしては代償が大きかったかな…。
[弾丸をかわすことは、おそらく出来ただろう。しかしあえて受け止めることを選んだのは、この村を以前襲ったのは――]
ねぇ、これで気が済んだ? 気が済んだなら、そろそろ夜が明けるから。
僕は――…
[返事を待たない人狼は、最後に一つだけ笑みを落し。本来の姿へと姿を変え、村の外へと*消えた*]
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