[席に浅く座って頬杖をつくと、そのまま視線をぼんやりと窓の外に向けた。
アンティークだけどどこか懐かしさを感じる窓を、淡い色のカーテンが縁取っている。その額縁の向こう側の景色は毎日少しづつ変化していて、見てて飽きない。むしろ楽しい。]
…………
[誰にも分からないような、小さな期待の微笑み
今日はどんな芸術と出会えるかしら]
[「窓」という作品を鑑賞していると、ふとその額縁の中に暖かそうなコートを着た親子が入ってきた。赤いとんがり帽子をかぶってはしゃいでいる男の子の横で、大きな荷物を抱えた父親が微笑んでいる]
そっか…もうすぐクリスマス、だもんね
[そういえば街でもイルミネーションの飾り付けがちらほら目立つようになったな、と思っているところに、ココアの香りが鼻をくすぐった]
ねぇ、知ってる?
[ココアをテーブルに置く彼女もちらりと窓を鑑賞したように感じたから。]
…クリスマス、あれね
イエスの誕生日じゃないんだって
[窓の外の子供は、父親と母親の間で手を繋いで幸せそうに笑っている。きっとこれから暖かい家に帰って団欒の時を過ごすのだろう]
[案の定彼女は盆を胸に抱えたまま興味なさそうなありそうな読めない表情で僅かに首を傾げただけだった]
ふふ、ごめんなさい
あんまり気にしないで
[彼女の背を見送りながら、冷えた両手を温めるようにコップを持った。冬だというのに、店のどこかからカランと氷の回る音が聞こえた気がした。]
まぁ、私には全く分からないけど
[誕生日の無いナオは、作品に登場した幸せ家族が舞台から降りてゆく様子を複雑な気持ちで眺めていた]