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[彷徨いの中。聞こえてくるのは、ナニかの声]
『……望み、は。我らの望み、は』
(オレは、そとに、いきたい)
『我は、縛から、逃れたい』
[なら、一緒に目指す。
切欠なんて、その程度。
けれど]
(越えらんなかった、な)
『越えられなかった、な』
(……このまま……消えちゃうんかな)
『……消えたい、か?』
[疑問に返るのは、問い]
(消えたら。
……どこか、いける?)
『消えたら。
……なくなるだけ、だろう』
(……そっかぁ)
『……そう、だ』
[ゆら、ゆらり。
揺らぐ、ゆらぐ。
ゆらぎは侵蝕をほんの少しずつ、緩めて。
本来二つの存在だったソレらを、あるべき姿へ戻してゆく]
(なくなったら……)
『……望みは、二度と、叶わぬ、な』
(それ、やーだなぁ……)
『……なら……どうする?』
(…………わっかんね)
『……我も……わからぬ』
[互いに、わらう。声はない、けど]
[どこからか、聞こえる泣き声。
沈んでいたモノたちがゆれる、ゆらぐ]
『……喧しい……』
[何気に、酷い物言いの後。
ゆらり、立ち上る、ぎんいろのひかり。
それは陽炎のよにしばし揺らめいて。
やがて、半透明の姿を形作る]
『……つかれた。ねむい』
[誰にともなく、一方的な言葉をぶつけて。
現れたソレ──銀灰色の、三本尻尾の小さな狐は、眠る少年の横で、身体を丸めた**]
[――雨上がり。
濡れた河原に、移民の男は両足を投げ出し呆けている。
浅く起こした上体は、後ろへついた両腕で支えている。
ロケット花火が炸裂した音の余韻は、まだ耳奥。
転覆した舟は、壊れながら遠く流されていった。
タカハルは少し離れたところへ横たわり、
匿われていたたましいたちは器と共に還り来て。
事態の収束。眠気に身を任せるセイジ。見守るアン。
我を取り戻した態のボタン。喜び合うギンスイとホズミ。
一通り見渡して、ゆるゆると、深々と、溜め息をついた。]
…
ンガムラさん。
[『タカハルは?』尋ねた化粧師には、誰か答えたろうか。
やがて立ち上がる男は、ンガムラが岸辺に脱ぎ捨てた服と
借りたこうもり傘を拾って来てそろりと彼の膝元へ置く。]
舟、ひとりじゃ 岸に寄せられんかった。
ありがと
[もうひとつ、拾ってきたのは着慣れたサマーセーター。
やはり生きて戻り来たキクコのほうへ歩を寄せながら、
ぎゅうと絞る。びたびたと落ちる水に、男は眉を寄せ]
キク嬢ちゃん――
せっかく 乾かせっ くいやったとに すんません。
[かくん、と 頭を下げる。しばらくはそのままに――]
…
ご無事で 宜しゅ ごわした。
[低い声が、胸裡を押し出すようにキクコの帰還を慶んだ。]
[不安定だったひとつはふたつに戻り。
やがて、目が覚める]
……んー……。
[目蓋越し、感じる光が、眩しい。
何度か瞬いてから、起き上がった。
身体が重いのは、濡れたからか、それ以外の要因のためか。
ぼんやりしながら周囲を見回したなら、目に入るのは、三尾の銀狐]
…………。
[傘を飛ばして、何もない、左手。
そっと伸ばして、ソレを抱え込んだ]
あー……。
[左腕には、銀狐。右手には、てるてる]
どーすっか、なぁ……。
[まだ少しぼーっとしたまま、空を見上げて。
ぽつり、小さく呟いた**]
[――晴らし神のなきごえ。
――銀ぎつねの淡い寝息。
同調していたタカハルの、つぶやき。
耳にして、振り返った移民の男の面差しには
まだ静かな憤りが…確かに息づいていた。]
…
[落ちていた櫂を拾い上げ、絡む白布を解くと
無言のまま元あった船着場へと置きに行く。]
[己の所業、反省もせずに、身勝手に泣いていた ひとならざるモノは、]
[混じり合っていた気配が変容するのを感じとり。]
……あれ。
[少年と、三本尻尾の狐へ、忙しなく頭を振り向け]
もう いいの?
[ぽつり、問いという程でもない。]
[どーすっか、なぁ……という、先をおもう、少年の声の響きに、ふらりと揺れ。」
[振りかえったヌイの顔色を認めて悄然と縮めると、
いよいよ老婆から離れ、川面へと風に流されて行く* ]
[キクコに背を向けて、歩を進めながら
神を宿していた疲れから眠るセイジと寄り添うアンに微笑んだ。
大きな石へ凭れるボタンに手を貸し、腰が楽なように座らせた。
そそくさ と和服を着込むンガムラの顔は、見ないふりをした。
紫色の蝶々を追いかけそうになったギンスイを留めるホズミと、
束の間だけ目が合った。何か言いかける彼女を、視線で制する。
長い櫂を、船小屋へ丁寧にしまうと、
遅れてきたネギヤとすれ違って――移民の男は河原を後にした。
ぶ ぶうん…
ほぐれた虹のようないろだった、蜂の群れも何れ*どこかへ*。]
[黄蜂ぶーん]
[なぜかそばで、ロケット花火ばーん。]
……やかましかっ!
[原因を悟り、ンガムラの無事を認めれば。ホズミと、ついでにンガムラも怒鳴りつけた。
それから]
…わしゃ、蜂は、好かんわ。
[耳元を過ぎて空へ上って行く蜂。
それでもまだどこかから羽音が聞こえるよう。]
[きらめく蜂の羽が飛び行くのが、どこか流れ星にも似て見えて。]
いべんとの、あんころ餅の当たりが、
あたりますように。
[小さく小さく、そんな願いごとを口にした。]
[自分の、いべんと、の言葉に、ふと]
今年ももう、トランクス音頭の時期じゃのう。
アンやおキクたちのトランクス姿が楽しみじゃわ。
[トランクス音頭を踊る際には、トランクス着用するみたい*]
[羽音を立てて飛び去る緑色の蜂]
そういえば……何だったんだろ。
あんな色、見たことないけど。
だけど……何でだろうな。
[不思議と、あの蜂が自分を守っていてくれた気がして]
リリアンの夢を見た気がする……
[意識混濁ぎみに着物を着ていると、ロケット花火の破裂音とボタンの怒鳴り声とが聞こえてくる]
冥土に行ってしまったのかと思いました。
[いなくなったはずの人々が集まっていることを確認すると、短い溜め息を吐いた。
銀狐は見えないようだ]
タカハル、おまえ正気にもどったのか?
[足元のじたばたに気付かず、紫色の唇ががたがた震えている]
祭りの日、トランクス一丁で川飛び込んでしまえ!
―― あんころ餅屋の前 ――
[残されたのは、あんころ餅屋の木戸に凭れた一台の自転車。
錆の浮いた自転車。それから蓋の開いたトランクがふたつ。
蜂の巣は、最前の土砂降りで水浸し。
それを見た御老は…これじゃもう蜂は戻らんなあと呟いた。
トランクの持ち主は現れない。やがて切り出される、巣蜜。
――――其のお裾分けに預かった者も、いたかもしれない。
そして耳にするだろう。
トランクの巣箱には、蜂の幼虫は一匹もいなかった、と。]
[まるで、自分の巣を追い出されたはぐれ蜂たちが、仮に
身を寄せ合って暮らしていたような…蜂の巣だった、と。
残されたトランクは、綺麗に掃除され望む者の手に渡る。
そして、村で無事にイベントが催されたその日。
あんころ餅の「あたり」を手にした、幸運な老婆には。
――百花が香るはちみつをとろりと混ぜたあんころ餅が
ひと月のあいだ、好きなだけ振る舞われること*だろう*]
[それで悩んでたら、当の銀狐が尾を踏まれ]
……正気にっていうか、分離したっつーか……。
つか、足! 足、どけて!
[じたばたもーどに、ちょっと焦った声を上げていたり]
……え?
なんもねー、って。
[自分には、じたじた振り回される三尾がきっちり見えるわけで]
……見えないん?
[とりあえず立ち上がりながら、問いかけてみた]
え、だって、ここに……。
[左腕に抱えた銀を見て。
それが隙になった]
ちょ、ま、ガム兄、いたい、いたいっつーに!
[ぐりぐりされてじたばた。
両手が塞がってるので、抵抗できなかったり。
銀狐もばたばたばたばた、尻尾振り回し]
……他の連中。
お前、見えんのかな?
[腕の中の銀狐に向けて、小さく問う]
『……知らぬ』
[返されるのは、短い言葉]
……見えなかったんって、ガム兄だから、ってのも、ありそうだしなぁ……。
『……かもな』
[一体どんな意味で言っているのやら]
[セイジと、アン。
ギンスイと、ホズミ。
キクコ。ネギヤ。それからボタン。
順に、見回して]
……っとー。
なんか、思いっきり、今更な感じ、なんだ、けど。
……いろいろ、ごめんっ!
[深くふかく、頭を下げる。
抱えられた銀狐も、言葉はないが一緒に頭を下げた。
もっとも、こちらは本当に反省しているかは、謎だが]
でも、って、さ。
……やっぱ、こいつ。
……眠らせないと、ダメ……なん、かな。
[数呼吸おいて、頭をあげて。
誰に問うでなく、呟く]
……こいつ……確かに、良くないものなのかもしんない、けど。
でも。
……オレ、ずっと、一緒にいたんだよ。
だから……。
[だから。
言葉の先。
続けていいか、惑う、けれど]
……だから。
もし、どうしてもっていうんなら、ちゃんと、眠らせる、から。
だから……もうちょっとだけ。
一緒に、考えよーぜ、って、決めたから。
その答えが出るまで……。
一緒じゃ……ダメ、かな?
[恐る恐るの問いかけ。
それに、返されるのは如何なる言葉か]
[すると、タカハルの謝罪が。]
…あ?
[憑かれていた間は意識が混濁していた。彼らとの会話は思い出せたとしても、ぼんやりとしたもの。]
川へ飛び込んだのは驚かされたわい。
……まったく。
[べしり、タカハルの頭をひとつ撫でる。老婆にしては、強い力で。
てるてる坊主は少し色あせて、巾着に下がっていた。]
まあ、わしもおかしなのに憑かれておったようじゃ。あまり、人の事を言えんかのう…
[心配かけたなら悪かった、とまでは告げられない老婆だが。言葉尻が窄んで、心の内を表す。]
[投げかけた問いへの答え。
得られるかどうかすらわからなかった、それは、唐突に]
『理を犯さぬのであれば、しばしの猶予を』
……え?
『……だが、それは大きな責。
それを背負いきれるか』
……やんなきゃ、なんないなら。
やってやる。
[声が何者かはわからない、けれど。
低い声で、こう返す]
雑種犬は、予想外に大きくなったりするから気をつけた方がいい。
俺が小学校の頃拾ったゴロウマルはすごかった……
[焚き火に独り言状態でぶつぶつ。
爆ぜる音]
あっちぃ!!
― 騒ぎから暫くして ―
[裏山のお社に向かい、手を合わせる、一つの人影があった。小脇にリコーダーを抱え]
今日も、明日も、いい日になりますように。
[口にした祈りに呼応するように、どこかで、何ともつかない声が笑ったようだった。一度、瞬いてから。リコーダーを構えて吹く曲は、晴れ晴れの歌。
空は、青く*澄み切っていた*]
ねぇ。さっきセイジくんのあれ……神様を「見た」ってことになるのかな。
なるとしたら、一年間幸せに暮らせるのかな。
みんなも、てるてるも、狐さんも。
[消された影響も残っているのか、見えない者には見えていない者達を確かにその瞳にとらえて]
イベントはもちろんやるよね、お兄ちゃん。
準備遅れちゃってるからすぐにはできないけど…
晴れたから、遊ぼう。
お祭りきっと楽しいよ!
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