情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 4日目 エピローグ 終了
……、「たからもの」…が、仕舞っている記憶なら…、
無理に取り出そうとするのって、辛いよね…
[そう息も絶え絶えに告げるのは、同情でも気遣いでもなく、嘘偽りのない素直な気持ち。
自分が見たあの夢は、探そうとして見つけたのではない。
仕舞っていたのはきっと、思い出して支えにするには生きていくには苦しかったから。
夜の海に映る月が、どんなに手を伸ばしても掴むことが出来ないように。
もう二度と、得られないものだから。]
『モミジちゃん....!』
[なぜ、胸の奥。
水面に拡がる波紋。
夢だと、幻だと、仕舞おうとした記憶が何かに共鳴するように。
心の雪を溶かして、響く。**]
……見つかった…
[止まった雪の代わりなのかどうなのか。
空から振ってきた兎の調子は最初と何も変わらない。
熱で長く目を開けて居られなかったから、雪が止んだことは知らず聞こえた言葉を確認するように呟いた。]
───…じゃ、あ…
[兎の言うことが本当なら、これでみんな。
元居た場所に戻れるということ。
回らない頭でもそれくらいは理解できて。
けれど、霞が、肝心な元居た場所を曖昧に揺らがせる。]
( ───……じゃあ、
夢は、どこから……? )
[時計の鐘が鳴っている。
頬に当たる光の感触。
子供の頃と同じよう。
境界線がわからない。]
「消えないよ。」
[子供ではない、相応の。
意志の見える、はっきりとした声が聞こえる。
もう一度、"私"の名を呼ばれて。
近く届けられるその音は、どの鍵よりもしっかりと。
心に、響いて。]
………夢じゃない…
[漸く、やっと。
止まっていた時計が、螺子が。
記憶の針が、動き出したような、そんな気がした。]
───…
[つめたさが頬を覆う。
記憶よりも大きな手。
あの時は背だって、私の方が高かったのに。]
……大きく、なったね……
[片手で鞄を抱えたまま。
存在を確かめるように、手を伸ばす。
耳に届く言葉に、忘れていた笑みが、
自然に溢れて、*零れた*]
[そうして、暫くして。
届いた随原の声に、視線を送る。
咄嗟に感謝を伝える冬木とは違って、私が口を開いた時にはもう。
彼の姿はなくて。]
……うん。
[帰ろうという冬木に頷く。
でも、やっぱり少し、怖くて。
世界が変わるその瞬間、無意識に。
重ねた手に力を込めてしまったこと、冬木は気付いただろうか。]
-病院-
[戻った場所は、最初に居た通りではなく、人気の無いバス停のベンチ。
冬木の付き添いの元、タクシーで病院に向かった。
診察後、医師より念の為今夜一晩、入院することを勧められる。
その間の、看護師さんと冬木やりとりは知らず、心配気にこちらを見つめる彼に、大丈夫、と笑って、その日は別れて。
でも、きっと、あの時。
私が無理して笑っていたから。]
─────…走って来たの?
[朝一番、こんなに息を切らせて、会いにきてくれたのだと思う。]
…おはよう。
[零れるように笑いかける。
窓から差しこむ朝日。
小鳥の鳴き声。
目に映る何もかもが、綺麗で、優しかった。**]
-昨夜-
……あの時みたい。
[窓に映る自分を見て、呟いた。
淡い桜色の寝衣。
雪にすっかり濡れてしまった洋服はクリーニングに出している。
病院の消灯時間は早い。
眠って、起きたら朝だったら良かったのだけれど。
点滴と薬が効いたのだろう。]
───…
[夜の街。
深夜だというのに、ちらほら灯りが見える。
ガラスの向こうの音は何も、聞こえない。]
…うそつき…
[大丈夫だなんて、相変わらずお姉さん気取り。
子供の頃と何にも変わってなくて、呆れてしまう。]
[ずっと、平気だったのに。
別れて未だ、数時間しか経って居ないのに。
考えなきゃいけないことは他にも沢山、あるのに。]
……逢いたい…
[抑えられない感情が雫になる。
仕舞っていた色んなことが、堰を切ったように思い出されて、声を押し殺して泣いて。
気が弱くなってるにも程がある。]
[でも。だから。
凄く、嬉しかったの。
肩で息をしながらも、おはようって。
名前を詠んで。
笑いかけてくれた。
そのことが、とても。**]
私に?
[最初に読んでほしいと言われて。
いいのだろうか、と封筒に落としていた顔を上げて。
続けられた言葉に、とくん、とひとつ、心が跳ねた。]
……ありがとう、読んでみるね。
[応えてそっと、封筒を受け取る。
自分のことを思いながら、の意味は読んでみないとわからない。
わからないのに、その言葉に心臓が勝手に反応するから恥ずかしくて。
少しの間、俯いて彼の顔を見ることが出来なかった。]
[その物語は、私の好きなハッピーエンドのファンタジー。
あの雪の世界で起きた、不思議な出来ごとをモチーフにした、王道の冒険譚。
読み終わった後、彼から、幼馴染と結ばれる主人公は彼で、相手は私だと聞いた。
『虹の鍵と青空の螺子』というその物語は今も、当時、家の本棚に唯一あった『雪の花と氷の剣』の隣に大切に並べてられいる。**]
…そろそろ、かな。
[部屋にスズランを飾りながら、小さく微笑む。
あれ以来、冬木は殆ど毎日と言ってもいいくらいの頻度で、顔を見せに来てくれている。
もうすっかり風邪も治って元気になったのに、休んでてって、作ってくれるご飯はどれも、とても美味しくて。
改めて、部屋を見回す。
新築ではない1DKのアパート。
一般的な女性の部屋と比べると、かなり質素で、だから散らかっていた訳ではないけれど、今にして思えばやっぱり、綺麗に掃除した状態の部屋を見て欲しかったなって思う。]
[病室で彼から渡された物語のヒロインと現実は全然違う。
モデルは私だと言われて、確かに所々、設定とか特徴は似ていると思ったけれど、正直かなり美化されているように思った。
でも、「美化し過ぎだよ。」って笑ったら、真剣に否定されて。
自分が主人公なことは、柄じゃないなんて言う癖に。
紅い顔で、そんな風に言われて、どう対応していいかわからなくなって、あの時はお互い黙り込んでしまって。]
もう、いい大人なのに。
[思い出して、また笑う。
彼の目を通した見た私は、私が考えていた私と全然違うのかもしれない。
同じように、私が見た彼も。
そして、それは悪い事じゃなくて。
少しずつこうやって、お互いを知っていって。
いつか本当にあの物語のように───。]
[インターホンがなる。
スリッパを鳴らして駆けて、ガチャリとドアを開ける。
立って居る彼を見上げて、いつものように。
私はふわりと笑いかけた。]
*いらっしゃい。*
-後日:喫茶店-
……管理本部、ですか?
[営業担当に問う。
契約終了の予定で進んでいた仕事に、ストップが掛かったと言う。
聞けば、現部署である財務経理部のひとつ上の部署が、引き抜きたいと申し出ているらしい。
どうですか、と意思を確認されるのは、担当が現部署であったことを知っているから。
今回の契約終了は表向きは業務減少による人手過多であったが、本当は私が上司の不興を買ったことにある。
具体的には、たび重なる食事の誘いを断り続けた結果。
そして、こういう会社は法律がどうであれ、未だに多い。]
…少し、考えさせて下さい。
[応えて、席を立つ。
次が決まっていないのだから、首を縦に振って、続ければいいとは思う。
ビジネスライクに。
けれど、このまま、気持ちの無いままでは駄目な気がして。
どこかに、本当に必要として信頼してくれる、信頼出来る、そんな場所があるような気がして。
そんな"甘い"考え、ずっと、しないよう生きてきたけれど。]
……ええ、今、流れてる曲。
綺麗だなって。
[買った花を受け取りながら、駅を見遣る。
通りかかった宝くじ売り場は行列だった。**」
-後日談おまけ:駅前-
…あ、この歌、結人くんだったんだ。
[冬木に連れて来られた路上ライブ。
人だかりの中央に居る結人を見て、呟く。]
こんにちは。
ううん、私も凄く素敵な歌だと思ったよ。
[ライブが終わり、掃けて行く人々の中、結人に話しかけた冬木の後を追うように、同意を示す。
その後、冬木が結人に依頼していることは仕事のことなので、口を挟まず。
二人からライブに誘われれば、勿論、と応えて、微笑んだ。*]
-後日談おまけ2:宝くじ売り場-
…時給□□□□円…
[くじを買う冬木の隣、求人募集の張り紙を眺める。
個人的にこの手の夢に手を出さないのは職業柄というか、そんな余裕はないから、というのも大きい。]
…100枚?
[隣で、聞こえた声に振りかえる。
乙葉はあの街で見たまま、特に変わってないように思えた。]
大丈夫だった?
[50枚で許して?もらったらしい冬木に苦笑する。]
私も、1枚だけ、買ってみようかな。
乙葉さん、1枚だけでも買える?
[尋ねて、鞄から財布を取り出した。*]
情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 4日目 エピローグ 終了