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そんな筈………
[ドウゼンとタカハルに声をかけられ、泣きそうな顔を上げる。
指先に感じる冷たさは現実。
ドウゼンから止血を受け、ゆっくりと視野が広がっていく。
ペケレの血だまりとその側で倒れ伏しているフユキさん]
せんせ、雨園君。ありがとう。
ごめんなさい。本当に、ごめんなさい。
[震える声で、止めてくれた2人に言った。
倒れてる女の子から血が出ていないことだけ見てほっとする]
[管理棟から出てくる義兄が見えた。
無言で立ち上がり、のろのろと上着を羽織る。
ぱさり、と幽かな音がして、足元に落ちたのは銀のタグ。
義兄に預けていたはずのそれ]
…………。
[無言で拾い上げれば、その中の獏は腕に小さな傷がついていた]
オッサン。オッサンが、親父を、皆を殺したのか?
俺が、親父を止めたりしなければ、こんなことにはならなかった?
[真っ赤な手でタグをぎゅっと握り締め、
ドウゼンと義兄のやりとりをしばらく見てから小さな声で尋ねた**]
[手の中のタグを握りすぎ、じわりと握った掌に新たな血が混じる]
…………。
[一歩、足を引く。ニキを支えるタカハルへと近づいて、
しゃらりと赤く染まった銀のタグを差し出した]
口ばっかりで、ごめん。雨園君。
やっぱり、俺は儀式を手伝えないと思うんだ。
………俺、責任、取らなきゃいけないよ、な。
だから、これ、持ってて。上手くいえないけど、それ、俺だ。
このタグが砕けたら、その子連れてどこかに逃げたらいいと思う。
[疲れたような声と表情で、どこか投げやりに渡そうとする。
それだけ言い終われば、くるりときびすを返して義兄にまた向き直った**]
うさ、ぎ?
兎が、親父を、皆を殺したのか?
……じゃあ、親父とオッサンのあの争いはなんだったんだよ。
[ニキの、兎に関する言及を耳にすれば、忌々しげにそう呟いた。
ぎり、と歯軋り1つ。あとは背中を向けて幽かに届く声を聞いていた]
やめろ。やめろやめろやめろやめろっ!
[風の流れを感じれば、思い切り義兄に飛びついて押し倒そうとする]
義姉さん、オッサンとめて!
[徐々に香りを高めるハナミズキに、声を張り上げた]
雨園君、逃げて。
あの子、追わないと。早く。
オッサンは俺が、食い止めるし。
[振り返れないまま、背後に向かって大声を張り上げる]
てか、せんせも何してんだよ!
雨園君も!
あの子、止めなくていいのかよ。
オッサンは、何とかするから。絶対何とかするから!
んなショッキングな話知った子、1人にすんな!
[地団太踏んで、言う。せめて、建物の中に入ってもらえば何か変わるのではないかと期待を込めて]
[義兄にとりすがり、必死で風とその絶望の声を止めようとする]
もう、いいだろ。
結ぶものって、もういねえよ。雨園君はそんなんじゃない。
小さな女の子を殺そうとする人じゃない。
もう、やめろよ。俺も、死なないから。
オッサンより先には、死なないから。
もうそんな辛いことは、止めてくれよ。頼むよ。
[背後を振り返る]
[黒い風に行く手を塞がれているタカハルを見て、焦りの色を強くする]
…………姉さん。助けてよ。
[ぽつりと呼びかけるのは、姉の名。
ハナミズキの名を持った、義理の姉。
濃密な花の香りが沸き起こり、
ゆっくりと一片の花びらがタカハルの元へと降り積もる]
雨園君、絶対、絶対助けるから。安心していて。
[穏(オン)とどこかで獣が鳴く。
タカハルを包む黒い風の中にうっすらと銀の毛並みが見え隠れして
少しは拘束が緩まるだろうか]
………っ
[と、少し気を抜いた途端、体が義兄に投げ出された。
ぐっと地面を握り締め、狂気に犯された姿を眺めていた]
オッサン………。
もう、やめようよ。やめてくれよ。
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