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― 夜 ―
[居間にやってきたマティアスに、少し目を見張った。
縄を外すのに否は唱えない。
違う場所の話をヴァルテリがするのを、いつもより興味深げに聞いていた。
やはり、余り自分の方から何かを尋ねたりはしなかったが。
そうして皆が部屋に戻る頃、自分もまた部屋に戻った。
一人で部屋に入る事に、何ら恐怖があるわけでもなかった]
― 早朝 ―
[イェンニの悲鳴に、彼は目をこすって、扉を開ける。
ドロテアの部屋の扉が壊れているのは、見て取れた。
部屋の中までは見えないけれど、そのにおいは、彼のところまで届いていた]
――…
[まだ少し眠そうにしていた目が、細まる。
ドロテアが、妹が。
そんな叫び声に理解する。
つまり、供儀が殺されたのだ、と]
[顔を上げたのは、扉の開く音が聞こえた後。
廊下に出てきたヴァルテリの姿が見えた。
小さく頭を下げて、壊れた扉の、ドロテアの部屋の前へと歩いてゆく。
――近づくにつれ、血の匂いが酷くなって、
廊下の床に視線を落とした]
ヴァルテリさん…
[呼ばれ、少し沈んだような、静かな声で返す名。
それから視線を、扉の方へと向ける。
彼が戸を開く先をのぞく。
部屋の中は、血の海のようだ。、
イェンニがその赤の中、赤くそまったものを抱きしめていた。
供儀の少女が流した血からも、
彼女が死んでいるのは、明らかだ]
[イェンニがヴァルテリの名を呼ぶ。
呼ばれた彼は入ってゆく。
自分は、少し扉の前で立ち止まった。
赤い血の中、むせかえるようなにおい。
部屋の扉の前に佇む形]
[歩いてくるクレストに、視線を向ける。
扉の前、見せない方がいいだろうか、と。
立ち尽くしたまま、彼に言葉を投げる]
……見ない方が、良いと思、います。
[一応、控えめな静止の言葉]
血だらけ、
イェンニさんは、
――…落ち着いたら、落ち着くために、かな。
何か、あたたかいもの、作りますね。
[こちらのほうにやってきたヴァルテリへ、そう小さく言う。大丈夫だろうかと、視線は心配げに中へと向かったが。
それからクレストの様子を見て、]
……見ない方が良いです。
下、居間のほう、行きませんか。
[心配そうに、声をかける。どんなことを考えているのかはわからないが、ここから離したほうが良いのでは、と]
[そこまで強く止めたわけではなかったから、クレストが見るというのなら、彼は邪魔をしなかった。
先に階下へと行くヴァルテリに頷いて]
温かい物はおちつきます。
……僕も、すぐ行きます。
[一応、クレストの様子を見る為に、この場から見送る。
それから、中を見る人を見ると、彼の口がなにかを語る。
――慣れていないから、読み取るのは難しい。だけれど、何度か自分の口を動かして]
……ごめん?
[何故そんな言葉を、と。
意識を失った体を見下ろす。
運ばなければと思うものの、彼の力はそこまでない。
困ったように室内を見て、それからだれかくるまで、その場にとどまることになるのだった**]
― 回想 ―
[部屋の前で、来る人を止める言葉を言っていたけれど。
見に行く人を止めることはなかった。
クレストをユノラフがつれていくようでほっとして、
イェンニとウルスラが出て行くのを見る。
自分に向けられた視線に、アイノの方を見て、
声をかけるのもためらわれた。
だから一度、そっと下に行こうとしたけれど。
少しして、その部屋の前に戻る]
――アイノ。
[そっと、声をかけて]
うん。
[近付く。彼女の視線が合うといい、と。
そっと願いこめて、手を伸ばす。出来るならば、手を取ろうと。
自分の手は、そんなにあたたかくないだろうけれど]
……下、一緒に行こう。
アイノ、伝承なんて僕は信じてなかったけど、
生きる為には、
[一度言葉を切って]
……探さなきゃ。
どうすれば、いいのか。
僕は、君にも、死んでほしくない。
――…うん。
本当は、いるわけないよ。
[アイノの否定に、少しの沈黙を挟んでそう答える]
いちゃいけないね。日常には、いないはず、だよ。
[口に上らせる言葉は、彼女を安心させるように、少し柔らかくなるように。
視線は会わないけれど、その冷たい手をぎゅっと握って]
だから、一緒に、日常に戻ろう。
こんなの、いやだから。
きっと、これは、夢だよ。
……"人狼"を、いなくすれば、きっと目が覚めて、いつもに戻れる。
[昨日の様子と違う彼女に、そっと囁く。
嘘か真か、安心してほしい、というように]
ね、だから、一緒に、戻ろう。
[アイノが口元を緩めるのに、ほっとしたような顔になる。
彼女の様子が昨日と違うことは、彼にとっては、些細な変化だった。
まだ出会って二日目だからというのも、ある。
彼にとって好ましい変化であるから、というのも、ある]
うん。なんだか、見分けられる人がいる、って。
それが、自分だってユノラフさんは、言った。
でも、本当かはわからないから、話したりしてたら、人狼が、ボロ出したりするかもしれないのを、待つほうがいいかもしれない。
食事がおなかいっぱいで食べられない、とか――
[見分け方は自分もわからない、と、困ったような口調ではあった。
続く言葉は、言わなかったが、ごめん、とさっき伝えた言葉を繰り返されて、頷く]
――うん。
食べてしまって、殺してしまって、ごめん、っ事なんじゃないかって、思った。
あそこで、ごめん、なんていうのが必要なのは、人狼だけ、じゃないかなって。
[言葉は少し、迷うように揺れる]
もしかして、クレストさんは、人狼になりたくなかったけど、なっちゃったのかなって。
覚えてるのに、自分じゃ止められないとか。
それなら、……どっちも、かわいそうだって、思った。
ええと、あの人。筋肉質の。
[どの人だ、と教えるように、特徴を少しずつ口にする。
どうしたらいいんだろう、という言葉に、頭を振って]
でも、出来る事はやらないと、ね。
[ニルスがあがってくるのに全く気付いていなかった。
声がかかって、はっとして、それからこくりと頷いて]
うん、いきます。
教えてくれて、ありがとうございます。
[頭を下げて、彼の行動は止めない。
そして行こうと誘うアイノに頷いて、居間へと向かう]
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