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[それから、診療所の中に戻っていたが。
新たな「神隠し」の話は、そのうちに...のもとにも届いた。騒ぎを知った村人の一人が、診療所を訪ねてきたのだった。
深刻な表情と声色で語られる内容、また人が――今度はペケレとグリタの二人が消え、イマリも行方がわからないというそれに、息を呑み]
そんな、馬鹿な。
[昨夜も呟いた言葉を、また零した]
「先生も、お気を付けて」
[丸林の老婆と同じ言葉を残し、その村人は去っていった。出入り口付近から診察室に戻り、椅子に座る。膝上にじっと視線を下ろし]
……神隠し。
[呟く声は、曖昧に]
[かたり、と音を立てて開いた扉に其方を見る。入ってきたのは、受付もやっている看護婦で]
どうかしたかね。……神隠し?
何だ、君もその話か。
[ふ、と小さく息を吐き]
ネギヤさんや……皆が消えたのは。
何か、別の原因があるのだろう。
大戦も終わって随分経った今、そのような話は、容易に信じられるものではない。
……目撃でも、しない限りはな。
君はまだ若いのだから。
あまり、迷信深くてはいかんな。
[冗談らしく言った事に、「先生も見かけは若いですよ」とやはり冗談っぽく返されて。その後、再び静まり返った診察室で、書類を書き始め]
……迷信、か。
[呟いては、*首を振った*]
……ん。
[少し、まどろんでいた。机の上に組んだ腕から顔を上げ、ぼんやりと辺りを見て]
……ああ。
そろそろ、行ってくるか。
外の様子も見てこねばな。
[壁時計で時刻を確認すると、鞄を準備して診療所を後にした。ゆっくりと道を歩き始め]
ああ、今日は、佐伯さん。
[ゾウサクの姿に、軽く礼をして挨拶を返し]
ええ。騒ぎで……心配になったというのもありまして。
[問いには頷き、付け加える。相手の雑貨屋の辺りであった事だとも聞いていたからか、神隠し、と明確な単語を口にはせず]
お年寄りの方は、特に今回の件で……
賛成派の方に限らず、怯えているようですからね。
[眉を下げて、微かに笑い]
……佐伯さんも、見られたのですか?
その……人が、消えるところを。
[呟かれた内容に、躊躇いがちに尋ね]
ええ。
子供まで消えるというのは……
「犯人」の意図が、全くわかりませんね。
[犯人、と言った時は、少し遠くの方を見て。ゾウサクが問いに答えるのを聞き]
いきなり……
ネギヤさんの時と、同じですね。
あの時も、皆そう言っていた。
現実感がないというのは、仕方ありませんよ。
私などは、見てもいませんから……
正直なところ、まだ、信じられずにいます。
[呟くように。最後の言葉には、肩を竦め]
丸林さんにも、高田さんにも、うちの看護婦にも、そう言われました。
佐伯さんも、気を付けて下さいね。
[そこでふと、少し離れて立つ女性の姿に気付き]
今日は?
[村外れによく出入りするという彼女に、そう、声をかけてみたが、聞き入れられただろうか]
神隠しだとすれば……
ネギヤさんだけなら、ニュータウン化計画が理由だと考えられますが。
こうなると、どうしたものだか、わかりませんね。
[気を付ける、というゾウサクに頷き]
萩原さんの家は、此処をしばらく進んで……
分かれ道を右に曲がった、四軒目だ。
[女性に、自分の背後の方向を指差して説明し]
知り合いだったのかね?
[その問いは少々声を潜め]
ん?
[聞こえた声に、其方を見る。新しく訪れた少女、ニキの姿を確認し]
特別、強いかはわからんが……
弱くはないと思いたいところだな。
[ゾウサクの感想に、まさか、と笑い。
ニキの問いに、ふと、神妙な顔をして]
……そうだな。
超常現象といわれる現象が、実は人為的なものだった、という話は多い。
あまり、声を大にして言える事ではないが……
集団妄想、というものもある。
特異な下地や状況にあって、複数の人物が同じ幻覚を抱き、何かしら思い込む、というものだ。
……私も、実際、神隠しを確かに信じてはいない。
これは、私が余所者だというのもあるだろうが。
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