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[やがて、目の前に広がるのは鮮やかなあお。
砂浜のしろとのコントラストに目を細めつつ。
懐に手を入れ、そこに隠したもの──鎖に通した二つの指輪を軽く、握り締めた。*]
……思い出?
[あおいろを見ながらぼんやりとしていたら唐突に始まった話。
途中口を挟まず、黙って聞いた後、ひとつ息を吐いて]
……夏の海なぁ。
あんまり、思い出ってないんだよなぁ、俺。
……ま、全然ないってわけじゃあないが。
[言いつつ、懐から引き出すのは鎖に通した二つの指輪。
これを渡したのも、返されたのも、どちらも夏の海だったなあ、と。
ぼんやり、思いかえすのはそんな事]
ある意味じゃあ、黒歴史、かね。
[独りごちる表情は、苦笑い]
[学生時代につき合っていた相手。
大学卒業と同時に家に戻る事は決まっていたから、一緒に来い、と言って、頷いてもらえて。
家的なあれこれがあったから式は挙げず籍だけ入れて、けれど。
その二年後、『一族会議で決まったから』という『家長命令』が下って別れさせられた。
……実際には、難病を発症した彼女が、自分から離れる、と父に申し出た事は知らない。
それは未だに隠されたままの理由]
……あー、そっか。
[ふと、思い至った事に小さく呟き、頭を掻く]
それで、探したくない、って思ったわけね、俺。
[ずっと聞こえる歌声は、別れた彼女の声で。
それが、最後に言われた言葉──『探さないで』と重なっていて。
『理由を知りたい』という意識の動きは、その言葉の理由が知りたい、という己が思いと重なっていたのだと。
そんな響き合いがあったから、不可思議な事象を引き起こしてきたのだと。
そんな理解は、すとん、と落ちた。*]
あー……海に思い入れがある、ってのは、あるかもなぁ。
[思い返すのは、展望台で出会った老人の事。
口調の変化などは気にする事なく、向けられた問いに一つ、息を吐く]
……ん。
沈んだ理由によって、って考えてたんだがな。
よくよく考えたら、理由聞くには、見つけないとならんのだよなぁ。
[返すのは、遠回しの否定。
ここでこのまま沈めてしまったら、何もかわらないままだなあ、と。
過ったのは、そんな事。*]
問題は、それだねぇ。
[相手は海の底、という言葉に肩を竦め。
波打ち際にしゃがみ込む様子を目で追い、その流れで海の中を見て]
…………。
まあ、兎が二足歩行するよーなとこだしな。
[あおの奥で揺れる朝顔に。
棒読みになったのは、許されろ、というべきか。*]
いや、現実じゃないのは最初からわかってたけど。
[距離を隔てても聞こえるコエの事があるから、そこの認識は最初からあって。
そう言えば、彼女はどうしているだろうか、と。
意識を逸らした瞬間、その異変は起きていた]
……て、ちょ、まっ……。
[しゅるりと伸びた朝顔の蔓が我邑を捕えて海へと引き込んでいく。
突然の事に呆気にとられたのは、数瞬]
あー、あー、あー、今、どこにいるかなっ!?
[とっさ、飛ばしたのは、繋がるコエの方]
俺今、海の方にいるんだが、来れそうなら急いで来てくれんっ!?
ちと、ぶっ飛んだ事態が発生した!
[仔細を完璧に端折った呼びかけは何を思わせるやら。
ともあれ、この場で一番近いものにそう、呼びかけた後]
えーと、近場に、誰かいませんかねっ!
[続けて張り上げるのは、普通の声。
引き上げるにしろ何にしろ、手が足りないのが現状だから、というのが主だけれど。
ここに呼ばれた者たちが集まった方がいい、と。
そんな気持ちも、少なからずあったから。*]
[呼びかけの後、水底へと目を凝らす。
ゆら、ゆらりと揺らめくいろの奥。
目に入ったのは、座り込む誰かの姿。
それは自分の目には、見知った誰かに重なって見えて]
…………。
[いつか言われた、『ごめんね、捜さないで』という言葉。
それに違う言葉が重なり響く。
『許されるなら、捜しにきて』と]
………………。
[は、とひとつ、息を吐いて。
鎖で繋いだ小さな輪二つを握り締めた]
…………ばぁか。
[ぽつ、と零れ落ちたのは短い言葉。
それは、今はいない者と自分自身、両方にかかるもの]
ほんとに、あれだよな。
……いっつも、計算と先読みばっかで。
それに助けられてたのは、否定しねぇけど、さ。
[握り締めた手の中がひいやりする。
そこにあるものが、形を変えて行くような、そんな感触が伝わってくる]
……一人で抱えて、考えすぎなんだよ、って。
いっつも、言ってたろうが。
[それはいつの間にか、自分の気質になっていたのは笑い話……にはならないか。
そんな事を考えながら開いた手。
そこにあるのは、濃藍色の小さな鍵。*]
[見出された『鍵』と『螺子』。
見えぬ『時計』が開けられて、その螺子が巻かれていく。
綴られる言葉に突っ込みは入れなかった。
自身も思う所はあったから]
……って。
そこで、『多分』、かよっ。
[不安煽る言葉にだけは、突っ込みを入れて、舞い落ちる光に手のひらを向ける。
ふわり、と下りた光の粒が鎖で繋いだ二つの輪へとまた形を変えて。
それを懐に戻しつつ、円形に開けたままの海を振り返り]
おーい、無事かー?
[海へと引き込まれた者へ向けて、呼びかけた。*]
[呼びかけに返る声。
歩いて戻って来た姿も、特におかしなところはなく]
ん、ああ。
……見つけた……って、言えるな。
[懐にしまった二つの指輪。
それをもう一度軽く握って、問いに返して]
……ブログ?
あー……だったら、そっちも。
気ぃむいたら、『夏神酒造』で検索してみてなー。
[別れ際の言葉に返すのは、縁の欠片、ひとつ]
……さて。
俺も、帰らんとなあ……あんまり遅くなるとダンちゃんぶっキレるし。
[色々丸投げしてきた従業員の事を思いつつ、おどけた口調でそう紡ぐ]
……夏祭りの準備。しねぇとなぁ。
[それが終わったら、もう一度。
途切れた縁を探してみよう。
見つけられるのか、見出せたとして再び繋げられるかはわからない、けれど。
知らぬままで沈めたら、ずっと悔いを引きずるだろうから。
そんな決意は、口にする事はなく]
……んーじゃ。
縁があったら、また、どっかでなぁ。
[そんな、軽い言葉ひとつ、残して。
揺れる朝顔、軽く見やってから。
帰るために、歩き出す。**]
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