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―柳樂商店・店先―
[――虫がよく鳴いている。
祭りで虫も心騒がせているのだろうか。
店先で本に視線を落としていた青年はそっと顔を上げた。
祭囃子よりは虫の音の方が好ましい。
けれどこの時期は、村の何処に居たって聞こえてくるから、逃れようとしても無駄だととうの昔に諦めていた。
この時期に帰省するのは、親が手伝うように言ってくるから。――それだけの事。
本当は静かなところで、沢山の書物に埋もれて暮らしていたい。]
(――店だって、従弟が継げばいいんだ。)
[そんな事を、思う。
きっと、人当たりの好い彼の方が向いているのだ。
村と外とを品物を通して繋ぐ、商店の主という仕事は。]**
[聞かれれば、淡々とどんな内容か話すだろう。
代金と引き換えに商品を手渡し]
毎度あり。
…あ、そうだ。
君、牧場の家の。優…こう…?
[けれどこうじ、まで出て来なくて、あやふやなまま。
そんなぼんやりとした会話を行った後に彼を見送ろうか。]
――はい、柳樂商店。
…あぁ、父さんか。
…はい、はい。
分かったよ。
[そろそろ出店に置く品物の一部を追加で運んで欲しいとの事。
青年は戸締りを済ませると、荷車にラムネやビール瓶を乗せる。]
…っく、おも…。
運び終わったら一本貰おう。
[そんな事をぼやきつつ、沈みゆく夕日を視界に収めながら神社を目指した。]
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