-映画館-
…泣いてないから。
[暗闇の中、小さく告げる。
スクリーンの映像を見ずに指摘する子供。
その隣、母親だろうか。
前を向きなさい、と注意している。]
(サングラス、持ってて良かった。)
[ほっと胸を撫で下ろしながらも未だ、余韻。
胸を抑える。
まさか開始10分で、こんなことになるなんて。
内容、知っているのに。]
…
[――――。]
…知っているから、かな。
[零れた呟きは、音楽に紛れて消える。
今は子供も、大きな画面に視線を向けて。
気付くものは誰も。]
-外-
―――…
[額に手を充て、空を仰ぐ。
肌に感じる日差し。
サングラス越し、映る世界はモノトーン。
遠く、うすらと見える藤色の幻影はあの頃の。]
…白昼夢。
[記憶、なのだろうか。
色褪せないイロに目を細めた。*]